回転寿司店で衝撃体験

先日、回転寿司で(僕にとって)衝撃的な寿司ネタを発見してしまったんです。
“活〆パンガシウス”……。パンガシウスの正体って巨大なナマズですからね!

かつてタイ王国でナマズの研究をしていた僕にとって、パンガシウスはとても親しみ深い魚です。
せっかくの機会なので、今回は“食材としての顔”と“釣魚としての魅力”、両方の視点からパンガシウスをご紹介したいと思います。
山根
握りの食レポは、記事の最後にお届けします。その前に——ちょっと不思議で奥深い、パンガシウスという魚の正体について、まずはご紹介させてください。
パンガシウスについて

パンガシウスは完全養殖がしやすい魚で、ナイルティラピアと並んで、世界的に生産量の多い淡水魚のひとつです。
タイではスーパーや市場の定番魚で、現地で生活していた頃は、鮮魚売り場で見かけない日はありませんでした。
養殖現場や水産試験場を見学する機会もあり、その成長の早さや飼育の手軽さには驚かされました。
山根
流通に適した1kgまで成長させるのにたった6ヶ月しかかかりません。また、高水温や貧酸素にも耐性があり、1尾の親魚から数万個の卵を得ることができます。
環境負荷の少ない養殖が可能

養殖業は、環境への負荷が大きい産業だと見られがちです。
ですが、パンガシウスは魚油を使わず、魚粉もごく少量で育てることができるため、比較的環境にやさしい養殖が可能とされています。
そんな東南アジアを代表する水産資源・パンガシウスは、近年、日本への輸入量も大きく増加しています。2012年ごろには約670トンだった輸入量が、2024年にはついに1万トンを超えました。
山根
因みに、食材としてだけでなく、魚釣りの対象魚としても有能なんですよ!
パンガシウスはじつは総称

じつはこの「パンガシウス」という名前、特定の一種を指すものではなく、ナマズ目パンガシウス科に属する魚たちの総称です。
現在、およそ30種類が知られており、「パンガシウス」はいわば“ナマズの仲間たち”をまとめて呼ぶ呼び名というわけです。
なかでも、食用として世界中に流通しているのは、カイヤン(Pangasianodon hypophthalmus)とバサ(Pangasius bocourti)の2種が主流です。
カイヤン

肉食性の強い種類が大半を占めるパンガシウス科30種のなかでも、カイヤン(タイ語でサワイ)は草食性に近い雑食性であり、活きた魚や甲殻類を好んで食べることがありません。
そのような生態を活かして、タイでは栽培漁業の対象魚として湖や河川に放流されています
バサ

カイヤンとバサは非常によく似ていて、正直言って見分けるのはとても難しいです。
僕が滞在していたタイでは、ひっくるめてサワイと呼んでいたように感じますし、両種を混同している養殖業者もあります。
個人的にはバサの方が顔が長いような気がします……(個人的な感想なので間違っているかもしれません)。
原産地と最大サイズ

カイヤンは最大140cm40kg前後、バサも120cm前後まで成長する大型淡水魚です。
日本産のナマズと異なり、大きく発達した尾ビレを持つことが特徴で、遊泳能力に長けており、カイヤンは原産地のメコン川では数百キロもの距離を回遊すると言われています。
メコンオオナマズとの関係

因みに、カイヤンやバサは世界最大級の淡水魚“メコンオオナマズ”の仲間でもあり、カイヤンはメコンオオナマズと同じパンガシアノドン属に分類されており、とくに近縁と言えるでしょう。
両種はメコンオオナマズともよく似ており、30cm前後の若魚ではメコンオオナマズにも歯や短い口ヒゲがあることから現地の漁師でさえ見分けられないことがあります。
山根
左がカイヤン、右がメコンオオナマズ、漁獲されたばかり(まだ生きています)の貴重な写真です。メコンオオナマズはワシントン条約付属書Iに記載されており、国際間での商取引が禁止されています。
釣りの対象魚としても超有能
パンガシウスの釣り方

ここまでは食料資源としてのパンガシウスについてご紹介してきましたが、原産地においてパンガシウスは魚釣りの対象魚としても人気があります。
カイヤン(サワイ)を釣る餌にはヌカや食パンを水で溶きながらダンゴにしてものと発砲玉を使います。
つまり、吸い込み仕掛けということですね。どちらかというと、コイやフナよりもハクレンに近い釣り方で狙います。
▼ハクレンの釣り方はコチラ
庶民が狙える大物

カイヤン釣りは手軽に楽しめる大物釣りとして人気があり、週末になると湖畔に沢山の竿が並びます。
そんな密度で竿出して糸絡まないの……? ってツッコミたくなりますが、これがタイスタイルらしいです。
釣り堀でも大活躍

東南アジアは釣り堀文化が根付いており、有名所としてはオニテナガエビやバラマンディ、外国人向けの高級釣り堀ではピラルクやメコンオオナマズが挙げられますね。
山根
カイヤンも養殖が安価で簡単なため、庶民的な釣り堀に放流されています。
タイでパンガシウスを食べた感想
スープ料理(トムヤム)が定番

原産地で食べる、天然パンガシウスの味もご紹介しましょう。
タイでは、カイヤンやメコンオオナマズは、酸味と辛味が特徴のスープ「トムヤム」にして食べるのが一般的です。
なかでも、1mを超えるような大型個体になると皮が分厚くなり、ねっとりとした独特の歯ごたえが楽しめます。
胡椒炒めも美味

こちらは「パッチャー」という、生胡椒と唐辛子を使った炒め料理なんですが……もう魚の味なんて分からないくらい激辛です(美味しいんですけどね)。
パンガシウスの仲間には、小骨が少なくて身離れの良い白身魚が多いという共通点があります。
クセがなく、どんな料理とも相性が良い。そんな“器用な魚”と言えるでしょう。
臭みは鮮度と水質次第

今まで何十回と、カイヤンやメコンオオナマズを食べてきましたが、産地や個体の大きさによって、食味は大きく変わります。
パンガシウスは脂が付きやすい魚なので、養殖ものでも、水質が悪かったり、粗悪な餌で育てられたものは、ゲオスミン臭などの強いニオイが出やすいです。
鮮度の落ちた大型個体なんかは、胡椒と唐辛子で辛く味つけしても、ニオイが消えないことすらあります。
逆に、水質の良い環境で育てられた個体は、そういった嫌な風味を感じることはほとんどありません。
山根
パンガシウスは高水温や貧酸素に対する耐性が強く、バンコクを流れるドブ(汚染されてそうな)でも平気な顔して空気呼吸をしながら生息しています。さすがに、こういった場所のパンガシウスは食べたくありませんね。
回転寿司・イオン系列のパンガシウスは旨い
日本人の舌も満足させられる魚

日本でパンガシウスを食べるのは、今回の回転寿司で3回目だったのですが……、普通に美味しかったです!
クセがまったくなく、パンガシウス特有の脂っこさも感じず、サッパリとした白身魚という印象。
臭みに至っては、「これって本当に魚?」と思うくらい、まったく気になりませんでした。
山根
寿司ネタとしては、やや物足りなさを感じるほどにクセがなく、逆に言えば、それだけ食べやすい一品だと感じました。
イオン系列で購入できます

ちなみに、イオン系列のスーパーで売られているパンガシウスも、ニオイがまったくなく美味しく食べられます。
イオングループでは、ASC認証を受けたパンガシウスを取り扱っており、環境負荷の軽減や労働環境、地域社会への配慮といった厳しい基準をクリアしています。
山根
こうした品質管理のおかげで、安心して手に取れる魚になっているんですね。
オススメはフライかな

日本で販売されているのはフィレのものが殆どですので調理が楽チンです!
イオンの商品はフィレ4枚入り(約208g)で429円(税込)と、お値段もリーズナブル。
調理方法としては、フライにするのが最もおすすめですが、揚げ物が苦手な方はムニエルとも相性良さそうですよ!
山根
現地で食べるパンガシウスに比べると、日本のものは良くも悪くも“物足りない”と感じる仕上がりです。脂や風味がそぎ落とされているぶん、トムヤムのような出汁を活かす料理には、あまり向かないかもしれませんね。
【安くて旨い】パンガシウスが世界の食糧危機を救う

今回は、僕のタイ生活を振り返りながら、パンガシウスという魚の魅力をご紹介してきました。
日本にいながら、まさか“巨大ナマズ”が食べられるなんて、子どもの頃の僕だったら間違いなく親にねだっていたと思います。
山根
もし近所のスーパーや寿司店で「パンガシウス」の名前を見かけたら、ぜひ一度、味わってみてください。
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