’22 ジリオン TW HDをインプレ
人知れずデビューした’22 ジリオンTW HD
速い! 軽い! 飛ぶ! といった“わかりやすい個性”が持て囃(はや)されるベイトリール界隈。
工業製品がゆえに数値化しやすいスペックばかりに目がいくのは、もはや避けようがないことだというのもわかります。
でもねでもね、筆者がかつて掘り下げたアルデバランMGLのように、真の名機というものは決して多くを語らないわけですよ。
スペック
品番 | 自重(g) | ギア比 | 最大巻上長(cm) | 最大ドラグ力(kg) | ナイロン糸巻量(lb-m) | 本体価格(円) |
1000H | 200 | 7.1 | 75 | 6.0 | 16-100 20-80 | 51,700 |
1000HL | 200 | 7.1 | 75 | 6.0 | 16-100 20-80 | 51,700 |
1000XH | 200 | 8.1 | 86 | 6.0 | 16-100 20-80 | 51,700 |
1000XHL | 200 | 8.1 | 86 | 6.0 | 16-100 20-80 | 51,700 |
スペック、外観を見るに、“HDじゃないほうのジリオン”との違いが本当にわかりにくいHD。
はっきり言ってしまうと、ただ重くなっただけという印象のほかに、カラーリングが“14歳前後から心が成長していない大人”向けになった感があるのみ……。
HDたるや?
Heavy Duty (ヘビーデューティー)。
つまり一般的な解釈では「激しい使用に耐えうるジリオン」というのが名称の由来なんですが、ベースにあたる21ジリオンSV TWが既に究極と言って差し支えない耐久性能だったことから、正直言っていまいちピンときません。
しかも2018年に発売された同名機種(18ジリオンTW HD)が、「より重量級のルアーが扱いやすいジリオン」というシンプルなコンセプトのリールだったため、“HD”のもつ意味合いに、やや行方不明感が拭えないのも事実です。
でも安心してください! 発売後即入手して使い込みましたが、今回のHDは「めっちゃHDやん!」というのが結論。
「リールに大きな負荷がかかる釣りへの適性にステータスを極振りしたジリオン」という新たな解釈が筆者にはしっくりときていることも書き添えておきます。
そもそも、ヘビーな釣りとはなんなのか?
それはシンプルな話、リールやロッド、アングラーに対して、「より大きな負荷をかけ続ける釣り」です。
ところがそう考えると、まさにいまみなさんが思い浮かべているような釣り……たとえばラバージグやテキサスリグによるカバー撃ちや、2oz超の操作系ビッグベイトよりも、スピナーベイトやクランクベイトに代表される“巻きっぱなしの釣りの方が、はるかにヘビー”ということができます。
瞬間的にかかる負荷というのは、ライン強度やドラグ強度の上限を超えることはありません。
リールのもつ機械的な耐久性も、この上限に余裕をもって耐えるよう設定されているため、たとえそれが「ヘビーカバーからブチ抜く釣り」であっても、リールに深刻なダメージを与えるには至りません。
一方で、負荷がかかり続ける巻き物では、知らず知らずのうちにギアをはじめとしたリールのパーツやにダメージが蓄積していきます。
MAXドラグの負荷で粉々になるリールやギアなんて存在しません。普通の使い方をしている限り、ギアがどうこうなる前にドラグが滑ります。
だから撃ち物向けのリールには、はっきり言って軽くて硬いジュラルミンギアが向いているんですよ。真鍮(ブラス)のほうが“より上等”というイメージを持っている人が多いですが、それは耐摩耗性能に関してのみ。
巻く釣りに特化したハイスピード・ストロング
筆者が何を言いたいのか、既にお気づきの人が大半かと思います。
そうです。’22 ジリオンTW HDは、グリグリ巻く釣りに使うのが正解です。
というのも、HD化に伴ってチューニングされたすべてのフィーチャーが、巻き物をやりきるうえで非常に有利に働くからです。
ポイント①:待望の“Φ34 MAG-Z BOOSTスプール搭載”
’22 ジリオンTW HDには、2022年5月現在ダイワがラインナップするベイトリールの中で唯一、34mm径MAG-Z BOOSTスプールが搭載されています。
“ブースト”といえば21スティーズLTD SV TW、21ジリオンSV TWに搭載されたSV BOOSTスプールのインパクトが強く、「なんだかすげえスプールが出たなあ」程度には、ほぼすべてのバスアングラーに周知されているものだと思います。
MAG-Z BOOSTスプールは、インダクトローターが2段階に……とか、ややこしい話はこの際ナシにして、ただ「入力した分だけ飛ぶ!」シンプルなスプールと考えてもらってOK。
初出はダイワが誇るカッ飛びベイトリール、2021年発売の21スティーズA TW HLCなのですが、こいつのMAG-Z BOOSTスプールはΦ36とややデカめ。
そして、待ちに待ったΦ34がはじめてかつ、唯一搭載されたのが’22 ジリオンTW HDというわけ。
34mm径スプールが得意とするのは、言うまでもなくバス釣りにおいてもっとも使用頻度の高いウェイトレンジです。
そしてそのウェイトレンジの大半を占めるのは、スピナーベイトやクランクベイト、チャターベイトなど、「探れる範囲が飛距離に依存するルアー」たち。
飛距離よりも重要なことはたくさんあるが、飛べば飛ぶだけチャンスが増えるルアーは非常に多い。
’22 ジリオンTW HDはカッ飛び性能を備えたレギュラーサイズ・ベイトリールというだけで、ほとんどすべてのバスアングラーにとって主力となり得る素質を備えているといえます。
ポイント②:現代のファストムーブを象徴するギア比
22ジリオンTW HDにはH(ハイギア)モデル、XH(エクストラハイギア)モデルがラインナップされています。
ここでジッと目を凝らして注目してほしいのは、XHモデルのギアレシオが8.1ということ。
ベースモデルにあたる21ジリオンSV TWのXHモデルは8.5ですよね?
はい、同じフレームを採用しているにもかかわらず、ドライブギアがわざわざダウンスケールされているんです。
その理由をふたつ推測してみました。
ひとつは、重量への配慮。
22ジリオンTW HDには、真鍮製のドライブギアが搭載されています。
ジュラルミンと真鍮の比重はおよそ1対3の関係にあるため、ジュラルミンギア採用の21ジリオンSV TWと同じギアサイズにした場合、総重量が10g以上も重くなってしまいます。
そしてもうひとつは、今や常識となりつつある高ギア比の巻き物スペシャルに仕上げるため。
後者は筆者の好みが滲み出たこじつけに近い理屈ですが、いずれにしても、“速さ”と“力強さ”がちょうどいい具合で均衡し、昨今定着しきった感のある「デジ巻き」や「リーリングジャーク」を駆使した「ただ巻くだけじゃない巻き物」にウルトラフィットします。
ポイント③:ロングハンドルを標準装備でウインチ力がケタ違い
リールにとって、スピードとパワーはトレードオフの関係にあります。
ピニオンギアの径はギア同士の軸間距離に依存しているのでドライブギア径と反比例関係にあります。
速さを失うことなく、軽い力で巻くことができるようにするには、ハンドルを長くすればいい!
というわけで、’22 ジリオンTW HDには100mmのスーパーロングハンドルが標準装備。
ノブも握り込みやすいロングノブでパワー全開。巻き抵抗MAXレベルのルアーがグリグリ巻けてしまいます。
これはリーリングのみでクイックなジャークアクションを繰り出したい、ギルロイドやタイニークラッシュクラスのリップベイトを好んで使用する人にとっては超吉報。
もちろんスイムベイトやアラバマ系リグなど、移動速度を一定かつ繊細にコントロールしたいリグにもドンズバです。
まさにビッグバス刈り取り機
油断した隙に「頑丈なだけのリール」というレッテルを貼られてしまいかねない’22 ジリオンTW HDですが、もしそう思っていた人がいるならぜひ考えを改めてください。
21ジリオンSV TWや20メタニウム、スティーズシリーズなど強力なライバルの多いΦ34スプール機の中でも、各種サーチベイトやリップ付きビッグベイトの釣りには’22 ジリオンTW HDが完全にリードしていると言ってしまっていいでしょう。
ダイワ 22 ジリオン TW HD 1000H
ダイワ 22 ジリオン TW HD 1000HL