東北地方に生息する幻の大型淡水魚“ウケクチウグイ”
幻の魚“ウケクチウグイ”
ウケクチウグイは、コイ目コイ科ウグイ属に分類されるコイの仲間です。
なんだ、ウグイの仲間か……。と感じる方も多いかもしれませんが、そう簡単に出会える魚ではないんです。
この魚の魅力を感じ、何度も東北地方に足を運ぶアングラーもいる程、コアな淡水魚ファンに愛される魚をご紹介します。
日本最大のウグイ”ウケクチウグイ”の生息地
ウケクチウグイは日本に生息するウグイの仲間では最大とされ、80cm前後まで成長すると言われています。
ウケクチウグイの生息域はとても狭く、山形県最上川水系や新潟県阿賀野川水系など日本海側に流れる東北地方の大河川に限られます。ただ、これらの水系ならどこにでも生息している訳ではなく、生息が確認できる場所は限られています。
ウケクチウグイはユーラシア大陸東部由来の日本の固有種
環日本海において、ウケクチウグイは日本でしか生息が確認されていない日本の固有種であります。
現状ではウケクチウグイはウグイ属に分類されていますが、中国大陸に生息する1属1種のPseudaspius leptocephalusに近縁な魚ではないかという見解があり、将来ウグイ属から外れる可能性があります。
すなわち、皆さんご存知のウグイやマルタから進化したのではなく、大陸にルーツを持ち日本で独自の進化を遂げたという考え方になります。
ウケクチウグイの保全状況
ウケクチウグイが新種として記載されたのは2000年と新しく、日本産大型淡水魚としてはタニガワナマズの次に新しい種類といえるでしょう。
環境省のレッドデータブックによると、ウケクチウグイは絶滅危惧IB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高い)に指定されています。
現時点では捕獲することに対してルールはありませんが、個体数が少ないことを鑑み、適切なキャッチ&リリースが求められます。
▼2018年に新種記載された幻のナマズ“タニガワナマズ”の記事はコチラ!
ウケクチウグイの特徴とは?ウグイやマルタとの違い、見分け方
ウグイ・マルタ・ウケクチウグイを見比べてみよう
ウケクチウグイの最大の特徴は何といっても、下顎(かがく)が上顎(じょうがく)より若干突出することでしょう。
下顎が長いのはウケクチウグイだけの特徴であり、他のウグイの仲間は上顎の方が長いため見分けるのは簡単です。
こういった顔が長いという特徴から、ウケクチウグイの生息地では『ホオナガ』や『ツラナガ』、『ウマヅラ』と呼ばれています。
ウケクチウグイのマニアックな特徴や歴史について
他にもウケクチウグイの特徴として、突出した下顎の先端が黒いのが特徴的といえるでしょう。
新種記載されたのは2000年と最近ではありますが、実は発見されたのは1963年のことです。
中村守純博士が奇妙な形をしたウグイを発見し“ウケクチウグイ”と名付けたものの、個体数が著しく少ないため、多くの学者は単なる突然変異の奇形だと批判しました。
以後、遺伝的な研究がなされ、ウケクチウグイは新種として認められ、中村博士に敬意を表して学名にTribolodon nakamuraiと言う名前が与えられました。
ウケクチウグイは強い魚食性を示す
一般的にウグイの仲間は、雑食性で付着藻類(コケなど)から動物プランクトン、水生昆虫から小さな魚まで選り好みせず何でも食べます。ところが、ウケクチウグイは主に生きた魚を好んで食べると言われています。
ウグイで観察される川底をはむ行動はウケクチウグイでは見られず、川底から離れ積極的に魚を追いまわす行動を見ることができます。
このように積極的に魚を追いまわす性質があるため、ウケクチウグイはルアーを使って狙うことができる魚です。
ウケクチウグイ釣りのポイント選びやシーズンについて
ウケクチウグイは純淡水魚
日本には、ウケクチウグイを含めウグイ属の魚は5種が知られています。なかでも、ウケクチウグイとエゾウグイは一生を淡水域で過ごします。
ウケクチウグイの産卵期は5月から6月頃だと考えられていますが、産卵場所や繁殖行動に関する知見はとても少ないのが現状です。
ウケクチウグイは瀬を好む
ウケクチウグイを狙う場合は、流れの強い本流がメインフィールドとなります。
瀬と淵が連続するような地形が狙い目。瀬でも淵でもヒットしますが、水深が浅く流れがある程度強い場所の方が勝負が早い印象を受けます。
基本的には朝夕にチャンスが訪れることが多いですが、真夏の真昼間に時合が来る場合もあります。
ウケクチウグイはベイトに着く
淵を狙う場合は、反転流が絡んでいたり、ブレイクがあったりと流れや地形変化がはっきりしているポイントを狙いましょう。
アユやウグイなど、ウケクチウグイのベイトとなる魚が集まっている場所を見つけられればチャンスは広がります。
ベイトが溜まっている場所では、突如としてウケクチウグイのボイルが起きることもあります。
ウケクチウグイ釣りのシーズン
温かい時期に活性が高くなるので、6月から9月が最盛期といえるでしょう。
春や秋にも釣果が上がっているため、極寒期以外は狙える魚といっても良いかもしれません。
ウケクチウグイ狙いにオススメなタックルやルアー
ウケクチウグイを狙う際のタックル
流れの中で食ってくるウケクチウグイですが、そのファイトは非力で個体によっては殆ど抵抗することなく流れに乗って寄ってきます。
マス類のように首を振ったりローリングしてフックを外そうと抵抗することもないので、一度フッキングが決まればバレることも少ない魚です。
本流用のタックルをそのまま流用する形で良いでしょう。シーバスタックルでも対応可能です。
僕は、7.3ftのパックロッドにPE0.8号+フロロリーダー8lbの組み合わせを使っています。
“ただ巻き”が基本的なアクション
ウケクチウグイを狙う際に効果的なアクションはずばり“ただ巻き”。
アップもしくは、アップクロスにキャストし流れより若干速い速度でリーリングしましょう。
釣り降ることの多い本流釣りですが、ウケクチウグイを狙う場合は釣り上がった方が良い結果になることが多いです。
ボトムを意識する必要はなく、ウケクチウグイの目線より上をルアーが泳ぐように心がけましょう。
本流用ルアーがウケクチウグイに効果的
ウケクチウグイを狙う際のルアーはフローティングミノー、スピナー、スプーンといったところ。流れの中でもしっかり泳ぐ本流用のルアーが良いでしょう。
スピナーはサイズ問わずとにかくウケクチウグイを狙いたい方にオススメですが、飛距離が出ないのが難点です。
ウケクチウグイには7cm前後の本流用ミノー
僕の経験上、ウケクチウグイの実績が高いのは7cm前後のミノーです。
特にジャッカルのトリコロールGT72MDがオススメ。アユ系のカラーが良いですよ。
ジャッカル トリコロールGT 72MDーF
ミノーに信頼感が無い方はスピナーがオススメ
魚食性の強いウケクチウグイは視覚でアピールすべき魚です。スピナーはボディが大型の物が効果的です。
スミス AR-HDミノー
ウケクチウグイを釣るにあたって注意点
生息数が少ないということをお忘れなく
ウケクチウグイは、釣れるポイントを見つけられると比較的簡単に釣ることのできる魚です。一か所から数匹釣れてくることもしばしばです。
運よく、初めての釣行でそのような場所に入れた場合は、ウケクチウグイの生息数が多いと錯覚してしまいがちですが、信濃川水系では一時絶滅宣言がでるほど個体数を減らしており、何かのバランスが崩れた途端に一気に数が減る可能性があります。
酸欠と高水温に極めて弱い
ウケクチウグイは釣った後に弱りやすい魚ですので、写真撮影は極力水辺で行うように心がけましょう。
特に真夏は、顕著に弱りやすいため注意が必要です。
ウグイやマルタのように扱うと案外あっさり死んでしまいます。
貴重な魚を見てみたい!自然を守っていきたい!そんな方にオススメな魚“ウケクチウグイ”
実際にウケクチウグイを探してみると、巨大なダムが連続する阿賀野川本流の異様さを感じるはずです。今は局所的にしか生息しないウケクチウグイですが、実際のところダムができる前はどうだったんだろう。そう感じさせられます。
ウケクチウグイを釣ってみたい方は、苦戦されるかもしれませんが幻の魚を通して東北の大河の現実を感じてもらえれば幸いです。
苦労すれば苦労しただけ、ウケクチウグイに出会えた感動とその環境を守りたいという想いは強くなるはずですよ!
筆者紹介
山根央之(やまねひろゆき)
初めての1匹との出会いに最も価値を置き、世界中何処へでも行く怪魚ハンター山根ブラザーズの兄。
餌・ルアー問わず、もはや釣りに限らず。ガサガサや漁業者と協力してまでも、まだ見ぬ生き物を追い求め、日々水辺に立っている。
テレビ東京・緊急SOS池の水全部抜くやNHK・ダーウィンが来た、TBS・VSリアルガチ危険生物などに出演したり、魚類生態調査に参加したりと幅広く活躍する。
どえらい魚を獲った!もはや釣りを越えて!色んな人と繋がって!特大天然メコンオオナマズ! 240 cm175 kg 捕獲です!!ホント色んな人に助けられてこの魚と出会うことができました!メコンオオナマズに関わる全ての人に感謝でいっぱいです!! pic.twitter.com/JHWpNdLAvX
— 山根ブラザーズ(兄)@kimi (@chillkimi) September 16, 2017
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