新種のナマズが東海地方で発見された!その名は“タニガワナマズ”
新種記載された“タニガワナマズ”とは
タニガワナマズ(Silurus tomodai)は、ナマズ目ナマズ科ナマズ属に分類される文字通りナマズの仲間です。
最大で60cm前後まで成長するものの、河川によっては20~30cm台が多い場合もあり、ナマズ属の中では中・小型です。
タニガワナマズは主に東海地方の谷川(山間部を流れる川の中上流)に生息し、僕たちにとって最も身近なナマズ(以下、マナマズ)よりも、イワトコナマズに遺伝的に近い種類とされています。
「マナマズ」と「タニガワナマズ」の見分け方
タニガワナマズとマナマズの形や色の決定的な違い無く、また、必ずしも今から挙げる特徴に合致しない場合もあります。
そのため、タニガワナマズとマナマズを見分ける為には、複数の特徴を組み合わせ総合的に判断します。
■タニガワナマズの見分け方
- ■上あごの奥の歯(鋤骨帯)
- 「への字で一枚=マナマズ」
- 「ハの字で二枚=タニガワナマズ」
- ■お腹の模様
- 「白=マナマズ」
- 「黒=タニガワナマズ」
- ■生息域
- 「河川下流・中流・池・水路=マナマズ」
- 「山間部の河川中流・上流=タニガワナマズ」
- ■卵の色が
- 「緑=マナマズ」
- 「黄色=タニガワナマズ」
▼日本に生息するナマズ属4種の見分け方はこちら
タニガワナマズはいつ新種記載されたのか?
タニガワナマズは、2018年8月17日に日比野友亮博士と田畑諒一学芸技師によって新種として発表されました。
一時、イワトコナマズの亜種ではないかという憶測も飛び交いましたが、結果として別種であったという結論です。
▼亜種についての解説は「イワナ4亜種」の記事も参考にしてみてください
日本でナマズの新種が見つかったのは57年ぶり。
大型の淡水魚の新種発見という発表は、日本淡水魚ファンの間ではもちろんのこと、新聞やテレビでも取り上げられる超ビッグニュースとなりました。
このサイズの淡水魚の新種発表は、もう生きている間はないんじゃないかな……。 なんて思っちゃいます。
タニガワナマズとマナマズの自然分布域
マナマズとタニガワナマズの生息地は一部で重なっていますが、交雑は起きていないと考えられています。
今でこそ日本中に生息するマナマズですが、人間がマナマズを移動させる前、マナマズは鈴鹿山脈より西側にしか生息していませんでした。
鈴鹿山脈より東側はタニガワナマズの生息域であり、この山脈が種の境界線となっていたのです。
タニガワナマズとイワトコナマズの関係
200万年から100万年前に鈴鹿山脈が隆起し、イワトコナマズとタニガワナマズの祖先が山脈を挟んで西と東に分断されました。
一方では琵琶湖という大きな湖の岩礁帯、他方では山間部の渓流地帯を生息場所に選んだようです。
全く違う環境にそれぞれが適応すように進化したため、現在のイワトコナマズとタニガワナマズのような形の差が生まれたのではないかと考えると、進化って面白いですよね。
ちなみに、イワトコナマズとマナマズが種分化したのは、約970万年前、マナマズとビワコオオナマズが種分化したのは約1300万年前とされています。
2016年春。苦労の末、初めて出会った谷川のナマズ……君の名は?
SNSに微量に流れる情報を頼りに“タニガワナマズ(仮称)”を釣獲!
2016年春ごろ、SNSで「今日も新種のナマズがめちゃ捕れる!」という興味深い投稿を目にしました。
僕の大好きなナマズに新種?! 僕にはちょっと刺激が強すぎる情報でした。
すぐに弟のマサに電話し、東海地方の渓流でのナマズ捜索をはじめました。言うまでもなく、全ての予定はキャンセル(笑)。僕ら兄弟にとって最優先事項でした。
素直に喜べないぞ……何だこのモヤモヤ感は(泣)
徹底的に東海地方の谷川をめぐり、やっとの思いでそれっぽいナマズを釣りあげました。
環境、釣り方さえ分かってしまえば、釣り自体は難しくなかったのですが……。
いかんせん、マナマズとの明確な見分けが付きませんでした。タニガワナマズの特徴が知りたい!
絶対マナマズなんかいない環境だけど……
アユやアマゴが生息する環境で、ナマズが釣れる。
確かに、体つきが細いような、色合いが黄色いような……でも、こんなんじゃ曖昧すぎる!
SNSでアップしてる人は、明らかにその場で見分けて採集していました。きっと何か、明確な違いがあるはずでしたが、この時は分からず仕舞いでした。
イワトコナマズとマナマズの頭骨標本をボーっと眺めていたら気づいた!
映画「君の名は。」が大ブームとなっているさなか、素人なりにナマズの頭骨標本を作って見たんです。
すると、イワトコナマズとマナマズでは、歯の形状が違うことに気が付きました!
僕はこういう瞬間に鳥肌が立つタイプの人間なんです(笑)
▼お手軽頭骨標本の作り方はこちら
もう一度、渓流を訪れ“タニガワナマズ”だと確信
渓流の淵にミミズを垂らすと、小さなナマズが掛かってきました。
恐る恐る、口の中を覗き込むと……。
歯がハの字に分かれています!
「うぉーーーーーーーー!やっぱりタニガワナマズだったー!!」と雄たけびを上げてしまいました(笑)
タニガワナマズに釣り迫る!新種記載されても、末永く生き延びて欲しい
当時、必死になって探した思い出の生き物“タニガワナマズ”
今となってはとても良い思い出である、2016年春のタニガワナマズ探し。
新種として認められてくれ。研究者の方々頑張ってくれー!って祈ってました。
2018年に無事に新種記載された時は、本当に嬉しかったですね。
タニガワナマズを釣る際の仕掛け
ここまで記事を読んでくださりありがとうございます。
きっと、タニガワナマズを釣ってみたいとお考えなのではないでしょうか。
僕からのアドバイスは、思い切ってルアーを家に置いて釣行することです。
タニガワナマズは、ウナギ釣りのようにミミズのぶっこみ釣りが最適
ポイントとなるのは渓流域の中でも、瀬より淵が良いです。
東海地方でアマゴやアユが生息し、流れが緩やかで大きな岩が入っているような谷川だと可能性は大きくなると思います。
餌は活きの良いミミズが一番です。
カワムツやアブラハヤなど、餌取りが多いのでミミズは多めに用意すると良いですよ!
心配していたタニガワブームも大きくは生じず一安心
今まで、ひっそりと暮らしていた魚が明るみに出るということは、ときに過剰な漁獲圧がかかるリスクが生じます。
僕のような釣り人が大勢押しかけたらと少し心配しましたが、その流れも少し落ち着いたかなと感じています。
まだ見つかったばかりの生き物ですので、扱いには注意してあげましょう
タニガワナマズは新種記載されたばかりの魚です。実際のところ、どこにどのくらい生息しているのか分かっていません。
つまり、ネコギギやオオサンショウウオのように絶滅しそうなのか、ウナギやマナマズのように釣って食べても良いのか、おおよその判断すらつかないのです。
そんな状況ですので、今のところはタニガワナマズを釣りあげても、優しく接してあげることに越したことはないでしょう。
最後に1つだけおススメな本をご紹介させてください
タニガワナマズを発見された田畑諒一学芸技師が著者となっている“ナマズの世界へようこそ”が発売されました!
ナマズ・イワトコナマズ・タニガワナマズについて分かりやすく書かれています。
皆さんにもぜひ読んで頂きたい一冊です。
筆者紹介
山根 kimi ヒロユキ
“初めての1匹”を求めて、世界中どこへでも行く怪魚ハンター「山根ブラザーズ」の兄。釣りに留まらず、ガサガサや漁業者と協力してまでも、まだ見ぬ生き物を追い求め、日々水辺に立っている。
どえらい魚を獲った!もはや釣りを越えて!色んな人と繋がって!特大天然メコンオオナマズ! 240 cm175 kg 捕獲です!!ホント色んな人に助けられてこの魚と出会うことができました!メコンオオナマズに関わる全ての人に感謝でいっぱいです!! pic.twitter.com/JHWpNdLAvX
— 山根ブラザーズ(兄)@kimi (@chillkimi) September 16, 2017