関東の海で増える南方系の魚たち

ミーバイ、グルクン、ガーラ。
どれも沖縄の釣りではおなじみの名前ですが、近年は関東の堤防や船釣りでも姿を見せるようになりました。
その背景のひとつと考えられているのが、日本近海の海水温上昇です。
気象庁によると、日本近海の海面水温は100年あたり約1.36℃上昇しています。世界平均の約0.63℃と比べて2倍以上のペースで、季節別では冬の上昇率が最も大きくなっています。
南方系の魚の多くは、黒潮に乗って関東まで運ばれても、かつては冬の低水温を越えられないと考えられていました。しかし、冬の海が暖かくなったことで、一部の魚は越冬しやすくなった可能性があります。
南から魚を運ぶ黒潮と、少しずつ暖かくなる関東の海。こうした条件が重なり、南方系の魚を目にする機会が増え、一部の魚種では定着や繁殖も確認されています。
海の変化によって、これまで釣れていた魚が減るのは寂しいものです。一方で、関東では新たなターゲットとして注目される魚も増えています。
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今回は、相模湾や房総、東京湾で出会える南方系魚種を、その魅力や食味とともに紹介します。
相模湾で存在感を増す「ミーバイ」の仲間たち

ミーバイは、沖縄でハタ類をまとめて呼ぶ名称です。
種類はさまざまで、赤い魚体や斑点模様を持つものなど、見た目にも個性があります。
上品な白身を持つ高級魚として知られ、沖縄料理店では「ミーバイのマース煮(塩煮)」を見かけることもあります。
本来は暖かい海に暮らす魚で、かつて関東ではなじみの薄い存在でした。しかし現在では、神奈川・相模湾のロックフィッシュゲームで主役級のターゲットになりつつあります。
真鶴のアカハタ・オオモンハタ

いま真鶴周辺は、ミーバイ狙いのアツいエリア。
真っ赤なボディが目を引くアカハタは、放流されたカサゴの稚魚さえ丸のみするほど食いっ気の強いフィッシュイーターです。

斑点模様のオオモンハタも大型個体が見られ、40cmを超える良型がルアーや泳がせ釣りで釣れています。
ひと昔前の相模湾では、こんな光景はなかなか見られませんでした。それが今や「昔はいなかった魚」の代表格として、しっかり住み着いています。
身はモチッと歯ごたえ抜群

ミーバイ系は、とにかく食べておいしい高級魚。
アカハタは身がモチッと締まり、刺身にすれば上品な甘みが広がります。火を入れても身がやせにくく、旨みがしっかり残るのも魅力。
オオモンハタもクセのない白身で、煮物や焼き物、鍋料理まで幅広く楽しめます。淡白すぎず脂っこすぎないため、和洋中のどんな料理にも合わせやすい魚です。
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まさに「釣ってうれしい、食べてうれしい」を地で行くターゲットでしょう。
房総で「グルクン」の仲間が入れ食い?

出典:PhotoAC
グルクンは沖縄の県魚に選ばれており、現地の食卓を代表する魚です。
青緑から赤みを帯びた華やかな体色が特徴で、暖かいサンゴ礁の海を群れで泳いでいます。

沖縄料理では唐揚げが定番。カラッと揚げると身がホロッとほぐれ、頭からしっぽまで丸ごと味わえるため、泡盛やビールのお供にもぴったりです。
そんな南国の魚の仲間が、近年は千葉・房総の船釣りでも数を伸ばしています。しかも、関東で釣れる個体は沖縄のものとは食味にも違いがあるようです
関東で釣れるのはグルクンのそっくりさん

出典:PhotoAC
じつは、関東で釣れているのは、沖縄で主流のタカサゴではなく、近縁種の「ニセタカサゴ」です。
見た目はタカサゴによく似ており、鮮やかな体色も南方系らしさを感じさせます。
かつては和歌山県や三重県以南で多く見られましたが、近年は房総半島沖や神奈川県の船釣りでも釣果が増えています。
船によっては入れ食いになることもあり、房総の“夏の名物”になりつつあるようです。
育つ海で味が変わる

出典:PhotoAC
面白いのは、グルクンの仲間でも魚種や育つ海によって食味が異なること。
沖縄のグルクンがさっぱり淡白なのに対し、房総や三浦のエサ豊富な海で育ったニセタカサゴは、さばくと包丁の切れ味が鈍るほど脂がのると言われます。
刺身にすれば口の中でとろける、そんな一枚です。
ただし弱点がひとつ。この魚、鮮度落ちがとにかく早いんです。生きているときは澄んだ青緑色なのに、息絶えるとすぐ赤黒く変色してしまう。だから遠くまで運びにくく、市場にはあまり出回りません。
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つまり、関東では釣り人だけが味わえる”幻のごちそう”。
釣り人だからこそ味わえる、最高の特権です!
東京湾にも現れる「GT(ガーラ)」

出典:PhotoAC
ガーラは、沖縄で大型のアジ類をまとめて呼ぶ名称です。
その代表格が、釣り人憧れの「GT」ことロウニンアジ。
暖かい海に生息し、成長すると体長1mを超えることもある大型魚です。
強烈な引きを見せるため、多くのアングラーにとっては南の島まで遠征して狙う特別なターゲットとして知られています。

ロウニンアジを含むアジ類の幼魚は、釣り人から「メッキ」と呼ばれます。
黒潮などに乗って本州沿岸までやって来ますが、多くは冬の低水温によって動きが鈍り、越冬できないと考えられてきました。
一方、東京湾や名古屋港では、温排水の周辺で冬を越すメッキがいることが、一部の釣り人の間で知られています。
海水温の上昇も重なり、これまで冬を越せなかった南方系の魚が、本州沿岸で成長する例が増えているようです。
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南の海を代表するロウニンアジが、関東の身近な海までやって来る。
そんな事実からも、海の環境が変わりつつあることが感じられます。
参考:冬に全滅してしまう死滅回遊魚(季節来遊魚)|越冬する魚が増えている現状について(TSURI HACK)
関東で会える南方フェイスたち
関東の海では、じつはもっとたくさんの南国系の魚が釣れるようになっています。
シイラ(マンビカー)

シイラは沖縄で「マンビカー」と呼ばれる、金色に輝く南方の回遊魚。
もともと暖かい海を好み、夏の相模湾や房総沖では船釣りのターゲットとしてすっかり定着しています。
ルアーに猛然と飛びつき、水面を割ってジャンプする姿は迫力満点。引きの強さはピカイチで、かければ腕がパンパンになります。白身はクセがなく、フライやムニエルにすると絶品です。
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見た目はちょっと怖い。でもハワイで人気の「マヒマヒ」と呼ばれる人気魚。
そう思ったら、食べてみたくなりますね!
キジハタ(アコウ)

ミーバイの仲間では、キジハタも見逃せません。
関西では「アコウ」の名で親しまれている、高級白身魚です。オレンジ色の斑点をまとった上品な魚体が特徴で、透き通る刺身はもちろん、鍋にすれば締めの雑炊まで幸せの連続。
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もともと西日本の魚でしたが、近ごろは相模湾や三浦周辺の釣りでも顔を出すようになりました。
ツムブリ・ハガツオ

派手さはないけれど、味で驚かせてくれるのがこの二種。
ツムブリは細長い体をした暖海性の回遊魚で、秋冬に脂がのると刺身は魚とは思えないほどの旨さです。

ハガツオはカツオの仲間で、上品でやわらかな身が持ち味。
どちらも黒潮に乗って関東の海に現れる南方系で、船釣りのゲストとしてぽつぽつ顔を出します。
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いいサイズが釣れたら、ぜひ持ち帰ってみてくださいね!
いいことばかりじゃない。海からのサインも
ワクワクする話が続きましたが、この変化を手放しで歓迎するわけにもいきません。
関東の海は、いくつかの要注意サインも私たちに送っています。
磯焼け。イラブチャーが海藻の森を食べ尽くす

出典:PhotoAC
海の中で進んでいるのが「磯焼け」です。
神奈川県によれば、相模湾では海藻の森が広い範囲で失われつつあります。
その一因とされているのが、暖かい海を好むイラブチャー(ブダイ)やアイゴなどによる食害です。
アイゴは、稚魚が沖縄名物の塩辛「スクガラス」の材料になる、あの”スク”が成長した姿です。冬でも水温が下がりきらず、彼らが一年じゅう海藻を食べ続けるようになったことが響いています。
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海藻の森はアワビやサザエ、イセエビの住みか。
県も、藻場が減ると磯の資源が減ってしまうと指摘しています。
参考:水産業(沿岸域・内水面漁場環境等)への影響と適応策(神奈川県)
北の海では主役交代。ブリが増え、サンマが遠ざかる

出典:PhotoAC
変化は関東だけの話ではありません。
水産庁は、海水温の上昇を背景に、北海道でブリが増えたり、サワラの分布が北へ広がっていることを報告しています。
かつて北の海の名物だった魚が姿を消し、代わりに南の魚が食卓に並ぶ。食の主役が、静かに、でも確実に入れ替わりつつあるのです。
厄介者を”食べて減らす”取り組みも各地で始まっていて、千葉県ではアイゴやブダイを定食で味わってもらう試みが進んでいます。
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変わってしまった海と、どう付き合うか。
自治体や漁協をはじめ、多くの団体で地元の海を守るための取り組みが始まっています。
参考:特集 海洋環境の変化による水産業への影響と対応、漁協食堂における植食性魚類を活用したおいしい定食の提供について
見慣れない魚は無理に食べない

出典:PhotoAC
最後に、大切な注意点があります。南方系の魚の中には、シガテラ毒を蓄積している場合がある魚種がいます。
とくに注意したいのが、バラフエダイ、オニカマス、アカマダラハタ、イシガキダイなどです。
毒化した魚を食べると、手足のしびれや腹痛、下痢などの症状が現れることがあります。シガテラ毒は熱に強いため、加熱調理をしても安全にはなりません。
見慣れない魚が釣れた場合は、魚種が分からないまま食べないことが大切です。
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スマートフォンの画像検索機能も魚種を調べる手がかりにはなりますが、画像だけで確実に判別できるとは限りません。
少しでも不安がある魚は持ち帰らず、食べない判断をしてください。
参考:水産業(沿岸域・内水面漁場環境等)への影響と適応策(神奈川県)、 自然毒のリスクプロファイル:魚類:シガテラ毒(厚生労働省)
海の変化を楽しみながら、少しだけ環境のことも考えながら。

出典:PhotoAC
ミーバイ、グルクン、ガーラ。
少し前なら沖縄まで行かないと出会えなかった魚たちが、いま関東の海で私たちを待っています。
海が変わってしまったことを嘆く気持ちも、もちろん分かります。でも見方を変えれば、今この瞬間だからこそ出会える魚がいる、ということでもあります。
次に東京湾や相模湾、房総に立ったら、足元の海が少しだけ”南”になっていることを思い出してみてください。いつものポイントで、思いがけない南国フェイスが釣れる日は、きっとそう遠くありません。
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環境への配慮を忘れずに、新しい関東の海をめいっぱい楽しんでいきましょう!
