アイキャッチ画像撮影:TSURI HACK編集部
なら、買いなさい!

天国に行けるわよ。
……などと、いきなり言い切ってしまうと、どこか既視感があるかもしれません。
もっとも、彼女の決め台詞は「地獄に堕ちるわよ」でしたが。
とはいえ、この記事はあなたを地獄へ突き落とすためのものではありません。できれば少しでも、気分よく釣りをしてほしい。そんな思いで書いています。
なので今回は、巻き感度がどうとか、剛性感がどうとか、テクノロジーやスペックの話を延々と語るつもりはありません。
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ただ、「欲しい。でも高い。本当に必要なのか」と悩んでいる釣り人の感情を、少しだけ肯定したいのです。
人は、手が届くものにしか本気で悩まない。

最近、妙なことに気づきました。人は、手が届くものにしか本気で悩まない。
この当たり前の事実に、なぜか年齢を重ねてから妙に納得してしまった感覚があります。
例えばマイボートです。
「マイボートがあったら最高だよな」と冗談っぽく言う人はたくさんいますし、港で係留されている船を見ながら「いつかは欲しい」くらいの話をする人も珍しくありません。
でも、「船を買うかどうか」で本気で悩んでいる人はそれほど多くない。なぜなら、大抵の人はその前に現実へ戻るからです。
船体価格だけではなく、維持費、係留費、燃料代、船検、修理代……ロマンの入口に立つ前に、現実の数字が殴りかかってくる。
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つまり、多くの人にとってマイボートは「欲望」ではあっても、「選択肢」ではないのです。

ところが、ステラやイグジストは違います。この名前で悩んでいる人は本当に多い。
価格帯としては決して安くありません。むしろ、釣具というジャンルの中では完全に高額商品です。
それでも悩みが発生するということは、少なくとも人生のどこかに「頑張れば届く」という感覚が存在しているということでもあります。
つまり、迷っている時点で、じつはもうかなり答えは出ている。
そして、これは本稿において完全に蛇足なのですが——
何より恐ろしいのは、その絶妙な価格設定をしてくるメーカー側なのかもしれません。
決して安くはない。けれど、道具としての威厳や、手にした瞬間の満足感を感じさせつつ、「さすがに無理だ」と完全に諦めるほどでもない。
釣り人がもっとも悩み、もっとも自分に言い訳を始める価格帯へ、驚くほど正確に置いてくる。
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完全に我々を釣りに来ている。
さすが釣具メーカー、と言うほかありません。
10万以下の釣具は、見方によっちゃ安い

よく言われる話があります。
「結局、ハイエンドが欲しくなる」
1万円のリールを買い、次に2万円、3万円とステップアップしていく。その過程で満足しているつもりでも、どこかでハイエンドが気になり始める。
巻き心地がどうとか、剛性感がどうとか、そういう情報に触れるたびに、「一度くらい使ってみたいな」が頭の中に住み着く。
そして最終的にステラやイグジストへ辿り着く。
だったら最初から買っておいた方が、結果的に余計な出費を抑えられる——という理論です。
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昔はこの話を聞くたび、「いやいや、それはハイエンドを正当化したい人の理屈でしょう」と思っていました。
でも最近、少しだけ分かる気もしています。

私は自他ともに認めるドケチです。
格安スマホを使い、水筒を持参し、回転寿司へ行く前には食パンで腹を膨らませ、「これで少し節約できた」と満足するタイプの人間です。
ですが、釣りのことになると、なぜかタガが外れる。
去年の私は本当に釣具を我慢しました。かなり我慢したと思います。
新製品情報を閉じ、レビュー動画を避け、「今ので十分」と何度も自分に言い聞かせ続けました。買ったのはラインやフック、シンカーみたいな消耗品ばかり。
去年の私は偉かった。本当に死ぬほど我慢したと思っています。
……で、年末にざっくり計算してみたんです。
釣具代、10万円を超えていました。
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怖い。本当に怖い。
釣り人の「死ぬほど我慢した」は、世間一般の我慢とはレベルが違う。
でも同時に、妙なことにも気づきました。
その10万円で、ステラやイグジストが買えて、お釣りまで来るのです。

釣具は、そもそもが高い。
ルアーを数個買い、ラインを巻き替え、偏光グラスを新調し、バッグを替え、小物を追加する。「まあこれくらいなら」を積み重ねていくうちに、気づけばステラ一台分くらいの金額が静かに消えている。
しかも厄介なのは、その出費が一つひとつ小さいため、あまり痛みを感じないことです。人は5万円を一撃で払うことには緊張するのに、5000円を10回払うことには妙に鈍感だったりする。
だから最近こう思うのです。
ステラやイグジストって、じつは“高すぎる買い物”というより、「覚悟が必要な買い物」なんじゃないかと。
性能を買うというより、「これを使いたい」と自分で決める覚悟。細かく散っていく物欲へ使うのではなく、一度ちゃんと欲望へ向き合う覚悟。
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ハイエンドリールというのは、案外そういう種類の買い物なのかもしれません。
「その金で釣りに行け」の論点のズレ

この手の話になると、必ずと言っていいほど登場する意見があります。
「その金で釣りに行った方が魚は釣れる」というやつです。
遠征費、ガソリン代、宿泊費。フィールドへ立つ回数が増えれば、当然ながら釣果期待値は上がる。
釣りを純粋な確率ゲームとして捉えるなら、極めて優秀な資金配分でしょう。
ぐうの音も出ないほど合理的です。
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でも、私はいつも少しだけ引っかかる感覚も残ります。
あれは微妙に議論がズレている。
リールの話をしているはずなのに、いつの間にか「魚を増やす話」に変わっている。
「その金で釣りに行け」は確かに正しい。でも、どこか少しズレている気もします。

ステラやイグジストへ惹かれる感情は、多くの場合、魚そのものとはあまり関係がありません。
巻き心地、質感、あの異様な滑らかさ。
あれは性能というより、ほとんど感覚の価値です。
部屋でタックルを触っているだけで少し嬉しい。次の休日が少し待ち遠しくなる。
結局、人を動かしているのは合理性だけではないのでしょう。
釣りという趣味は、その大半が「何も起きていない時間」です。
ただ海を眺め、ただハンドルを回し続ける。
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だからこそ、その時間が少し気持ちいいだけで、案外大きな意味があるのだと思います。
釣りとコスパの概念の矛盾

釣りには、そもそもコスパ(費用対効果)なんて概念はありません。
……いや、正確には存在はしているのでしょう。ガソリン代、高速代、船代、タックル代を冷静に計算すれば、「魚を買った方が安い」という、あまりにも正しい結論へ辿り着く。
だから釣りを効率だけで考え始めると危険です。
たぶん途中で、全部バカらしくなる。
そもそも、コスパを突き詰める人間は、朝2時に起きて海へ向かったりしません。
天気予報や潮見表を見ながらワクワクしたりもしないし、魚が釣れないまま何時間も海を眺めていたりもしない。
釣りという趣味は、かなり早い段階で「経済合理性」から外れている。
つまり我々は、最初から少しおかしいのです。
それでも釣り人は「コスパ」を考えてしまう。
なぜか。
いくら釣り人といえど、生活があるからです。
仕事があり、家賃やローンがあり、限られた可処分所得のなかで趣味を続けている以上、「それは本当に必要なのか」と自問するのは、ごく自然なことです。
ただ、本質的には——

釣りとは、大いなる無駄を楽しむ遊び。
……なのだと思います。
役に立たない時間。回収できない出費。意味のない遠回り。釣り場で見る朝日。
それを人生の豊かさとして受け入れている。
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だからステラやイグジストを「費用対効果」だけで語り切れないのも、ある意味当然なのかもしれません。
買って違ったらどうするの?

買って違ったらどうするの? これも、釣り人のあいだではよく聞く話です。
ただ、少し冷静に考えてみると、「合わなければ売ればいい」。実際、それだけの話でもあります。
とくにステラやイグジストのようなフラッグシップモデルは、中古市場でも価値が落ちにくく、状態次第では数年後でも高値で取引されることが珍しくありません。
もちろん、将来の価格を保証することなんてできません。
ですが少なくとも、こうしたハイエンド機は「買った瞬間に価値がゼロになる類の趣味道具」ではない。
丁寧に使われた個体には、ちゃんと次の持ち主が現れる世界があります。
だから個人的には、「一度使ってみたい」と思うなら、そこまで過剰に恐れなくてもいい気はしています。
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むしろ厄介なのは、手放したあと。
跳ね上がった価格を見て始まるのが、「あの時売らなければよかった」という、釣り人特有の静かな後悔です。
悩むのは当然だ。だって魅力が強すぎる。

釣具というのは、かなり不思議な立ち位置の道具です。
例えばブランドバッグや高級腕時計のように、「所有する満足感」がある。
一方で、カメラやスポーツカーのように、機械としての精密さや工業製品としての美しさもある。
さらに、楽器や万年筆に近い、“自分の感覚を拡張する道具”としての側面も強い。
そして何より厄介なのは、それが単なる嗜好品では終わらないことです。
釣具は、実際に魚を釣るための実用品でもある。
しかも場合によっては、本当に釣果へ影響する。
飛距離が伸びる。トラブルが減る。疲れにくい。集中力が続く。

つまり釣具というのは、
「持って嬉しい」
「触って気持ちいい」
「機械として美しい」
「実際に役にも立つ」
が全部同時に成立してしまう、かなり特殊な存在なのです。
そりゃ欲しくなる。
悩みます。
むしろ、悩まない方が難しい。
魅力が強すぎる。
所有欲、機能美、実用性、快感。
釣具というのは、その全部で理性を包囲してくる。
では、抗って、我慢して、逆に何が手に入るのか。
もし本気で欲しいなら、一度くらいは持ってしまった方がいい。
多分あれは、単なる買い物ではありません。
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“どう釣りをしたいか”を、自分自身へ確認する行為に近い。
そして趣味というのは、本来そういう少し非合理な熱量の上に成り立っているのだと思います。
悩めるアナタが羨ましい
そして最後に、どうでもいい本音をひとつ。
「じゃあお前は持っているのか」と聞かれれば——持っていません。
なにせ、お金がない。
そもそも私は、ステラかイグジストかで真剣に迷える地点に、まだ立てていないのです。
だから正直に言えば、羨ましい。
迷えているあなたが羨ましい。
その悩みごと、欲しい。
人は、本当に手の届かないものに対しては、悩むことすらできません。
比較し、言い訳を探し、何度も価格を見直してしまう時点で、もうそれは“現実の夢”なのだと思います。
欲しいものを前にして、本気で迷えるというのは、案外悪くない人生なのかもしれません。

想像してみてください。
貴方は今、フィールドに立っている。
期待とは裏腹に、今日は少し渋い。
それでもハンドルを回す。
また、回す。
ただ巻いているだけ。
それだけなのに、不思議と気分がいい。

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買いなさい! 天国に行けるわよ。
少なくとも、釣りの時間くらいはね。
シマノ 22ステラC2500S
| 自重(g) | 175 |
|---|---|
| ギア比 | 5.1 |
| 巻き取り長さ(cm) | 70 |
| 最大ドラグ力(kg) | 3 |
| PE糸巻き量(号-m) | 0.6-200 |
| ベアリング数(BB/ローラー) | 12/1 |
ダイワ 22イグジストLT2500S
| 自重(g) | 160 |
|---|---|
| ギア比 | 5.1 |
| 巻き取り長さ(cm) | 72 |
| 最大ドラグ力(kg) | 5 |
| PE糸巻き量(号-m) | 0.6-200 |
| ベアリング数(BB/ローラー) | 12/1 |
あとがき
本記事はおよそ4500文字。
ここまで読んでくださった皆様、本当にお疲れ様です。
そして、ありがとうございます。
さらに、非常にどうでもいい告白をすると——私は同じくらいの熱量で、「やっぱり買わない方がいい理由」も書けます。
たぶん4500文字どころでは済みません。1万文字くらいは余裕でしょう。
家計。合理性。使用頻度。機会損失。趣味と浪費の境界線。
書こうと思えば、いくらでも書ける。
でも多分——
そこまで一生懸命、「買わない理由」を探し始めている時点で、もう結構、欲しくなっているのです。
だからまあ、そんな1万文字を読むくらいなら。
先にハンドルを回してしまった方が、案外幸せなのかもしれません。
