「アジ、真鯛、コバンザメ、トビウオ、……は?コ、コバンザメ!?」

行きつけのスーパーの鮮魚コーナーを眺めていると、いつものアジや真鯛に混じって、明らかに異質なシルエットが目に飛び込んできました。
「コ、コバンザメ!?」と思わず二度見。
スーパーでまさかコバンザメに出会うなんて。
当たり前に予想外でしたが、とにかくどんな味がするのか知りたすぎて即購入を決定しました。
おおたに
ラップに書かれた「コバンザメ」の文字がシュールでかわいいですね。
食材としてのコバンザメを軽く調べてみた

「食べられるの?」 「そもそも市場に出るものなの?」と疑問が止まらず、少し下調べしてみました。
どうやらコバンザメは定置網にしばしばかかってしまうことがあり、水揚げ自体は珍しいわけではないみたいですが、一般にはあまり流通しない“未利用魚”らしいです。
しかし漁師や一部の地域では食べられていて、「美味しい」という声もあれば、「内臓が恐ろしく臭く、腹回りの身は食べられたものではない」といった否定的な意見もちらほら。
おおたに
朝どれの新鮮な個体が手に入った以上、これはもう自分の手で確かめるしかありません!
まな板にコバンザメをご案内

いざ、まな板の上にのせてみると……やはり異質。
頭の上にでかでかと貼りついている吸盤が「未知との遭遇」感を漂わせています。
表面は少しネトネトした粘液に覆われていていますが、匂いは意外と少な位ですね。
おおたに
ここまではセーフ判定。
これは、可食部……?

とりあえず、この魚の最高のチャームポイントである頭の吸盤を切り取ってみました。
蛇腹のような部分を触ってみると、ザラザラと細かい骨が並んでいるような感じ。
おおたに
もちろん、この部位も今回食べたいので、しっかりと保管します。
三枚おろししてみると、脂でテカテカ!!!

「臭いときはとんでもない」と噂のお腹を割ってみると、まず匂いよりも内臓脂肪がパンパンに詰まっていることに驚きました!
そして懸念していた臭みですが、正直、魚の内臓としてはむしろ許容範囲といえるレベル。
本当は「くっさぁぁぁ!!!」みたいなリアクションが取れたらよかったのかもしれないですが、この子はいい子だったみたいです。
そして三枚に下ろしてみると、 見ての通り脂でテカテカでした!
おおたに
しかし、少し脂が黒ずんでいるような。
脂は旨味であることもあれば、臭みが溜まりやすい部位でもあるので、まだ油断はできませんね。
まずは、お刺身で食べてみた。

未知の魚と向き合うときは、まずは刺身でいただくことが礼儀ですよね。
後悔しない程度の量を切り出し、恐る恐る口へ運ぶと……う、うまい!!!
脂の甘さはブリトロ、身質のしっかり感や白身魚らしい旨味は鯛。その二つのいいとこどりのような極上の味わいです。
おおたに
これは正真正銘の大当たり!
コバンザメフルコースを食べることに

勝利を確信した僕は、その日の夕食にコバンザメフルコースを作ることにしました。
まずはお寿司から。歯ごたえがありつつ、程よくしっとりとして、旨味の強い身が酢飯と見事に調和して文句なしの美味しさです。
続いてアラ煮。頭や骨まわりからじゅわっと旨味が染み出して、こちらも期待以上。厚みのあった皮は、甘みの強いプルプルとしたゼラチン質になっており、お米がいくらでも進む最高の味でした。
おおたに
鮮魚コーナーで出会えたことに感謝!
気になるあの部位は……

そして、どうしても試してみたかったのが、あの吸盤。
周囲は分厚い皮でゼラチン質がプルプル。この部位は、根魚の唇を食べた時のような甘みがあって旨かったです。
ただし、中心部分の吸盤面はざらざらとした骨がびっしり並んでいて、可食部はほぼなし。「無理に食べなくてもいいかな」という感想ですね。
おおたに
吸盤面の食感はまるで歯ブラシをかみしめているようでした。
熟成させて、炙り寿司にしてみた。

さらに欲が出て、1週間ほど熟成も試してみました。
生のまま食べると、マグロの中トロのような濃厚さに変化していることを確認。すでに絶品です。
さらに軽く炙って寿司にすると、脂の旨味が一気に花開き、最高に当たり個体のノドグロを食べているかのようでした。
おおたに
脂が多くて甘みが強いのに、くどくなくてどんどん箸が進んでしまいました。
この瞬間、今年最高のお魚が決定したくらい絶品でした……!!!
【結論】コバンザメのポテンシャルはとんでもない!!

どんな魚にも言えることですが、鮮度や食べてきた餌、そして時期によって味は大きく変わります。
今回のコバンザメは、鮮度の良いうちに内臓を処理でき、胃の内容物もそこまで臭くなかったため、いわゆる“当たり個体”でした。
ただ、魚にはそれぞれ“美味しくなれる上限値”があるように思います。
おおたに
それでいうと、コバンザメは外れたときの代償こそ大きいかもしれませんが、とびきり美味しくなるポテンシャルを秘めている魚であると断言できます!
出会えたら、勇気を出して食べてみて!

コバンザメは、大当たりなら刺身も寿司もフライも激烈に美味しいし、仮に外れでも、お腹まわりの内臓の匂い移りが強い部分を避ければ十分楽しめそうです。……たぶん!
スーパーや市場で出会えたら、ぜひ一度は騙されたと思って買ってみてください。きっと忘れられない体験になりますよ。
おおたに
もしもう一度出会えるなら、僕は絶対に買います。
撮影:おおたに