最大6m!まさに規格外の怪魚“シロチョウザメ”
世界最大の川魚とは?

今回のターゲットは、北米大陸西海岸に広く生息するシロチョウザメ(ホワイトスタージオン)です。
カスピ海などに生息するオオチョウザメ(ベルーガ)に次いで大きく成長することが知られています。
世界的に激減したり絶滅してしまっているチョウザメたちですが、カナダでは生息数が復活し釣り人が釣って楽しむことができるのです。
いざ!シロチョウザメを狙いに!

初めて魚の図鑑を買ってもらった頃からチョウザメへの憧れが強かった! 訳ではありません(笑)
大学に入り、今まさに絶滅寸前のメコンオオナマズの生態について研究するにつれて、みごと絶滅の危機を脱出したカナダ・バンクーバーのシロチョウザメの現在の姿をこの目で見てみたい。そう強く思うようになりました。
なので、憧れ歴は8年と言ったところです!
上空から望む夢の舞台

眼下に広がる大河は僕の憧れの地、フレーザー川です!
この川の全長はなんと1400kmもありながら本流にはダムが1つもありません。
日本一長い信濃川の全長が367kmですから、なんと4倍もの長さです。
大自然と大都市が共存する

約9時間のフライトを経て、フレーザー川の河口域に位置するバンクーバーへ降り立ちました。バンクーバーと言えば、2010年にバンクーバーオリンピックが開かれましたよね。
今では日本人留学生の人気都市ランキング1位になるほど、バンクーバーは留学生の多い街です。
そんな大都市ですが、フレーザー川には毎年沢山のサケやマス達が産卵のため遡上し、近海ではロブスターやカニなど豊富な水産資源が人々に恵みをもたらしています。
僕らが真っ先に向かうのは……

僕がアメリカやカナダへ釣りに出掛けた際、必ず立ち寄る巨大な釣り具屋です。
バス用品は勿論、餌釣りの小物からでっかいボートまで売っています。

店内にはサーモンやトラウトの剥製が目立ちます。さすがキングサーモンのメッカ! バスプロ・バンクーバー店!
外見こそどこも同じですが、それぞれの店によって商品や店内の雰囲気が異なるので何度訪れてもワクワクしちゃいます!
チョウザメ専用のフィッシングライセンスをゲット

カナダでは、アメリカ同様どんな魚を釣るためにも必ずフィッシングライセンスを取得する必要があります。今回のシロチョウザメについては、通常の内水面ライセンスに加えてチョウザメ専用のライセンスも必要でした。
また、キャッチ&リリースに限られ、フックはバーブレス1本など厳しいルールが課されているようです。さらには、釣れた日時、大きさ、場所、電子標識番号を報告する義務もあります。
チョウザメの資源評価の調査に我々釣り人も参加するということですね!
▼釣り人参加型・チョウザメ調査についてはコチラの記事で
シロチョウザメはシーズンオフ。不安感半端ない……
バンクーバーから車で約2時間の街「チリワック」

今回は4泊5日の短い旅です。バンクーバーで観光を楽しんでる暇もなく、バスプロショップから一気にチリワックへ向かいます。
そうそう。百も承知だったので敢えて意識しないように努めていたのですが、2月は冬季五輪が開催されるくらい1年で一番寒い季節なんですよね……。
バスプロショップの店員さんの苦笑いのグッドラックが妙に引っ掛かります(笑)
さぁー出船だ!

シロチョウザメ釣りのベストシーズンは、サケの遡上がある10月というのは有名な話。
秋にチョウザメたちは、イクラやサケの死骸を爆食いするのです。とはいえ、都合によりオフシーズンに強硬釣行となった今回の釣り旅。実釣日数もわずか3日とかなりの不安感。
この心配をよそにガイドは100%大丈夫って言い張ります。はたして……。
とっておきのポイントって?

今回のガイドは、2年前バンクーバーの有名釣りガイド会社から独立したばかりの凄腕船長。
多くのガイドが嫌がる真冬のチョウザメ釣りもお任せあれとのこと。
めっちゃいるー!けど、水温3度って……。

最新鋭の魚群探知機に映し出される大量のチョウザメたち! これには、僕たち山根ブラザーズも大興奮です!!
ガイド:いいか、真冬は一か所に群れるんだ。場所を知らない奴は全然釣れないぜ!
山根bros:水温3度ってなってるけど大丈夫?
ガイド:この水温だと奴らはせいぜい動いても5mくらいだ。今からピンポイントでアンカリングするぞ
山根bros:なるほど! 魚の目の前に船をつけるんだね!
仕掛にもルールが課されています

今回のタックルはメインラインがPE200lb、ハリスにPE300lbというとんでもないセット。
4mオーバーもかかるというフレーザー川ならではの仕掛に驚きます。フックはレギュレーションによりバーブレス1本針を使います。
一際目立つ物が……気になるゾ

タックルボックスに入っている女性用のストッキング。
この釣りに必要不可欠なんですが、皆さん何に使うか分かりますか?
チョウザメの大好物はイクラ!

答えは、餌のイクラをまとめるために使うのです。ガイド曰く、このデニール(厚さ)が最適なんだとか(笑)
思ったより餌が小さいですが、匂いさえ出れば大きさは関係ないとのこと。
チョウザメは匂いに敏感な生き物

チョウザメは、大きな鼻と4本のヒゲを使って主に匂いで餌を探します。
この鼻とヒゲ、侮ることなかれ! ほんの数粒のイクラでもエキスさえ出れば例え数十メートル下流にいたとしても気づけるんだとか!
僕:そんなに遠くでも気づいて寄ってくるんだ! 凄いねー。
ガイド:冬以外はな(笑)今の時期は魚の目の前にちゃんと船をつける技術がいるんだ!
ガイド:やっぱお前たちもキャストしたいのか? 皆キャストしたがるんだ。
僕:いや、そんなシビアな釣りなら任せるよ! とりあえず釣らせて欲しい!
ガイド:助かるぜ! 俺には魚の位置が見えてるんだ。
魚の目の前に正確に投げ込む

船の下流10mにチョウザメがいるはずです。初めての釣りってこのワクワクがたまんないんですよね!
群れに仕掛が直撃しないように細心の注意をしながらガイドが5m程ちょい投げします。水深は約20m、大きな淵で越冬しているのでしょう。
キタ!キタ!僕の憧れのシロチョウザメ!
渾身のフルフッキング!

モゾモゾとティップが動いたかと思うと一気に絞り込まれました!
ガイド:今だ!思いっきり引け!
僕:よっしゃーーー乗ったーー!! マジすげー、一発じゃん!!
正直、想定外でした

ガイド:油断するな! 上流に走ってるぞ、巻け!
僕:(焦ッ)
ガイド:バーブレスだ! 緩んだら一発で外れるぞ、巻け!
僕:いや、引き強すぎるって! 巻けない……
ガイド:釣られてることを自覚したら一気に下流へ走るぞ! 反転する時に気をつけろ!
僕:めっちゃ首振ってる! とんでもない振り幅なんですけど!
ガイド:力入れて竿曲げろ! 糸は絶対切れない! テンション掛けろ、バレるぞ!
僕:はいーーーー!
本気でファイトすること15分

全然サイズ感が分からないまま、15分のロングファイトの末上がってきたのは、僕が憧れた魚シロチョウザメです!
それもデカい! いきなりこのサイズなんて幸先良すぎます。そら引き強い訳ですよ!
首の振り幅がマジ半端ないです!
ピットタグのIDを確認します

資源評価が徹底されているフレーザー川では、このサイズのシロチョウザメにはほぼ100%に近い確率でピットタグと呼ばれる電子標識が埋め込まれています。このようにリーダーをかざすとピットタグに反応しIDが表示されます。
チョウザメを釣った人は、IDと日時、場所、大きさを報告することで、この魚の移動距離や速度、成長速度、寿命なんかが分かるのです。
また、標識を打ち込んだ数と再捕獲された数から生息数を推定することもできるのです。
あっさりと夢!叶ったぞ!

計測の結果……201cm! やりました!!
アリゲーターガーやヨーロッパオオナマズなんかとはケタ外れに引きが強かったです!
次は弟・マサの番です

お次は僕の弟であるマサの番です。こちらも仕掛を入れなおして15分でヒット!
僕の不甲斐ないファイトを後ろでニヤニヤ見ていたはずなのに……。
やっぱり想定外らしい(笑)

何事も実際に体感しないと分からないですよね。ほんとにこの魚引くんです!
水温3度でこれだけ動けるなんて……。 こうやって文章書きながら思い返しても信じられません。
水面で反転するだけで大迫力

シロチョウザメは豪快なジャンプをすることでも有名です。あの巨体が跳ねるんですよ!
空気を吸わして、勝負あり。とはいきません……。
まだまだ続くよー!強烈なファイト

マサ:ロッドのテストには最適だな!
ガイド:その竿、君たちが作ってるのか?
マサ:そうだよ! これはマグロ用なんだ!
ガイド:俺も普段はマグロ用の竿をお客さんに貸してるよ! ベイトだけどな!
マサ:このチョウザメでかいよ……。 多分。
ガイド:そうだな、大きそうだ! 油断するなー。バーブレスだからな!
記念写真を撮ろう!

20分のファイト時間を経て無事にランディングに成功しました!
マサ:兄貴のよりデカいぞ!
僕:これ、俺らの自己記録超えたんじゃね?!
ガイド:ナイスサイズだ! せっかくだ、記念写真を撮るか?
山根bros:もちろん! 入水しても良い?
ガイド:ルールだから魚の頭だけ水から出さないように気を付けてくれ!
ちゃんとウェーダーを履けよ! そのまま入ったら1分もたないぞ(笑)
山根ブラザーズの自己記録更新

計測するとなんと233cm! デカい!
釣り歴25年の生涯で一番でっかい魚を今手にしているのです! 感無量!

初日にして大成功でしょう!
たまにはこんなイージーな旅があっても良いですよね?! と2人ではしゃいでいたのですが。
ガイド:さー行くぞ! この川には、もっと大きいのがいるんだ!
山根bros:3mオーバーだね! こりゃ筋トレになるぞー!
チョウザメ復活の証。2mオーバーが入れ喰いだ!
曇天の中出船

二日目はあいにくの雨模様。気温も2度ということで、天気予報では雪になる可能性も伝えられています。
寒くても問題なし。汗かきっぱなしですから(笑)

この日も朝から良く釣れます。魚探でターゲットの大きさを確認しながらアプローチするのですが、こうなったら釣りまくる他ありません。

とにかくよく釣れます。このサイズの魚を手軽にキャッチできる環境を復活させたなんて、本当にすごいなって感じました。
キャッチした後の魚の扱い方次第でこれほど、後々の釣果に差が出るんですね。
さすがに疲れてきたゾ……

一日に何回も50kgオーバーの魚とファイトすると身体にこたえます。これだけ釣ると引きの強さとファイト時間でだんだんサイズが分かるようになってくるもんですね。

僕の写真が少ないですが、同じだけ釣っています。決してさぼったりしていません。弟と交代で夢の3mを目指します!
生まれて初めて釣り上げられるシロチョウザメ
2日目の最大魚が掛かる

今までに無い重量感の強烈な引きが僕を襲います。ドラグは相変わらず12kg。
疲れたからといって緩めるなんてことをガイドは許してくれません。

自身のパックロッドに折れないで! って言い聞かせながらも破断強度の高さを信じてフルベンドで対応します。
チョウザメってとんでもない魚です。これは淡水魚と思って挑戦すると痛い目にあいますね。

30分程のファイトの末あがってきたのは266cmというビッグフィッシュ! 何も言葉にでません……デカすぎです。
海を渡ってやってきた?!

サイズもさることながら、この魚はなんと初めて釣り上げられた個体だったのです。
フレーザー川の漁獲圧から推察すると、海を渡って遥々引っ越してきたチョウザメの可能性が高い1匹なんです。
まさにロマン。ますますチョウザメが大好きになりました。
この旅、最大サイズのシロチョウザメ現る
楽しい時間はあっという間

これだけの釣果に恵まれると釣行記も長くなってしまいますね。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。最終日も頑張っていきますよ!
ケタ違いのファーストラン

小さなアタリにタイミングを合わせてフッキングすると一気に下流へ走り出します。
突っ走るスピードが全く落ちず、直感的にある恐怖が全身を駆け巡ります。
僕:やばい! これ一瞬でライン無くなるぞ!
ガイド:アンカーを上げてくる!
僕:頼む!

150m巻いてあるラインが、なんとファーストランで軽々引きずり出されていきます。
150kgを超える魚が川の流れに乗ってしまえば12kgのドラグなんて全く関係なし。どんどんスプールが細くなっていきます。

僕:駄目だ。もうメインライン無くなる……。
ガイド:大丈夫だ! 下巻きはたっぷり巻いてある。細いけどな!
僕:・・・
ガイド:さー追いかけるぞ!
僕:言いたいことは分かってる! 絶対糸をたるませるな!だろ?!
ガイド:その通りだ! 海までだって追いかけてやるぞ!
僕:メインライン無くなったーーーー!

200lbの極太ラインが一瞬にして6号程度の使い慣れたPEに変わります。こんなの初体験です。
ドラグを緩め、ボートの動きと魚の動きを繋ぐようにファイトを続けます。

ここまでくるとカジキでも釣っている気分です。徐々に魚との距離を詰め、本流筋から浅瀬に誘導していきます。

40分の超ロングファイトの末姿を現した巨体。
いよいよフィナーレです!

担架に魚が入った瞬間、嬉しさと安堵感で良く分かんない声が出ちゃいました。
ファイトが壮絶だっただけに3mいっただろう! これが希望的直観でした。
残念ながら目標達成ならず……

この魚の後も二人で時間の許す限り釣りつづけましたが、残念ながら23cm、目標には届きませんでした。
でも、どこか清々しく「できることは全てやったな」そんな感情が沸き上がってきました。
オリンピックなんかで、銀メダルや銅メダルで終わってしまった選手が「力を出し切ったので満足です」といったコメントされてるのってもしかしたらこんな感じなのかな……。
フレーザー川の夕焼けを見ながらそう思いました。
ここにいてくれてありがとう

長いようで短かった3日間。やっぱり、ネイティブフィッシュって良いなと思いました。
ここにいてくれてありがとう。心からそう言えるってやっぱ幸せです。
こんなに沢山釣れるシロチョウザメですが、一度絶滅の危機まで追い詰めたのは我々人間です。
それだけは忘れずに、これからも沢山の魚たちに会いに行きたいと思っています。
筆者紹介

山根 kimi ヒロユキ
初めての1匹を求めて世界中何処へでも行く怪魚ハンター山根ブラザーズ(兄)。
餌・ルアー問わず、もはや釣りに限らず。ガサガサや漁業者と協力してまでも、まだ見ぬ生き物を追い求め、日々水辺に立っている。
どえらい魚を獲った!もはや釣りを越えて!色んな人と繋がって!特大天然メコンオオナマズ! 240 cm175 kg 捕獲です!!ホント色んな人に助けられてこの魚と出会うことができました!メコンオオナマズに関わる全ての人に感謝でいっぱいです!! pic.twitter.com/JHWpNdLAvX
— 山根ブラザーズ(兄)@kimi (@chillkimi) September 16, 2017