目次
川の源流に住むイワナの種類についての基礎知識
日本に生息するイワナ(Salvelinus leucomaenis)の種類をご存知でしょうか?

イワナ(Salvelinus leucomaenis)とはサケ目サケ科イワナ属に分類される魚に与えられた種名です。
現在、日本に生息するイワナは1種類です。繰り返しますが、イワナという魚は、1種類なんですよ。
冒頭からややこしい話にしてしまい恐縮です。そもそも適切な日本語になっていませんね。
皆さんがご期待されている内容は、実は「種類」ではなく「亜種」レベルの議論になってきます。
そもそも亜種って何?簡単に表現しますと……
“同じ種類の生き物だけど、姿かたちが違うもの”生き物を分類する上で「種」までに留めることが一般的です。
しかし、種として同じ遺伝子を持ちながら、住む環境の違いによって、身体や習性に特色が現れた結果、明らかに確認できる違いを持つものがいます。
「亜種」とは、近年になり研究が進んだことにより、同じ1種の動物や植物でも、大きさや色、食べ物や生態などが違う場合があり、種より下の階級を作る必要に迫られ誕生した分類学上もっとも下位の階級です。
正しく表現するならば、“日本に生息するイワナは1種類であり4亜種存在する”

いよいよ本題です。現在、日本に生息するイワナは4亜種に分類されています。
今回は最初にネタばらしとしましょう!
■イワナの見分け方
- ・大柄な白い斑点だけならばエゾイワナ
- ・白い斑点が全くなければヤマトイワナ
- ・頭まで白い模様があればゴギ
- ・どれにも当てはまらなければニッコウイワナ
ちょっとややこしくて、未解明な部分が多いイワナの世界へ! いざ出発です。
標準和名を2つ持つ“エゾイワナ/アメマス”(Salvelinus leucomaenis leucomaenis)
陸封型を「エゾイワナ」と呼ぶ

エゾイワナ/アメマス(Salvelinus leucomaenis leucomaenis)は、千島列島および北海道から日本海側では山形県、太平洋側では千葉県にかけて生息します。
生息地からも分かるようにイワナ4亜種の中では最も冷水を好みます。
「はっきりとした白色の丸い斑点」が、エゾイワナおよびアメマス最大の特徴です。
後ほど紹介するニッコウイワナとは、黄や橙色の斑点がない事で見分けることができます。
また、通常エゾイワナは生後約2年間の河川生活の後に、海へ下るものと河川に残留するものに分かれます。
しかしながら、大きな滝や砂防ダムなどによって海に下れない個体群もあり、これら陸封型と呼ばれるものにエゾイワナという標準和名が与えられています。
降海型を「アメマス」と呼ぶ

そして、その年の8月前後になると体長30cm前後まで成長して川に戻り、10月から11月に産卵します。
アメマスは、サケやサクラマスと違い、産卵しても死ぬことはなく、11月から4月にかけて再び海に降りていきます。

同じく標識放流により、9歳魚で80cmまで成長することが明らかとなっています。
ちなみに、アメマスがイワナ4亜種の中でもっとも大きくなります。
※標識放流で分かることについては、コチラの記事もご覧ください。
白い斑点が全くないのが特徴 “ヤマトイワナ”(Salvelinus leucomaenis japonicus)
一番見分けやすいヤマトイワナ

富士川から紀伊半島にかけての太平洋側の河川の源流域に生息しています。
ヤマトイワナは、アメマスと違い海に下ることはありません。

ヤマトイワナは、大きい物で全長35cm程度まで成長しますが、25cm程度が平均的でしょう。
イワナ釣りでは尺(30cm)が一つ大きな目標ですね。シーバスでいうところのランカーと言ったところでしょうか。
ヤマトイワナは源流域の中でも最奥にひっそりと暮らしています

「どこに川があるの?」ってくらい水の少ない環境にヤマトイワナは残されています。
とにかく源流の極みを攻めるのがヤマトイワナ探しの楽しみです。
残されているという言葉を使う理由は、最後に説明しますね。
頭の天辺まで白い模様が特徴 ゴギ(Salvelinus leucomaenis imbrius)
ゴギの見分け方は頭の模様

エゾイワナの頭部には白い模様が無かったのに対して、ゴギは「鼻先までしっかりと白い模様」が入ります。
これはゴギだけに見られる特徴なので、鼻先までしっかり白い模様があればゴギ確定です。
ゴギは、瀬戸内海に流出する岡山県吉井川から山口県錦川までの源流域と日本海側における島根県の斐伊川から高津川にかけて生息しています。
ゴギもヤマトイワナ同様に海に下ることはありません。
小柄というのもゴギの特徴です

イワナ4亜種の中で、平均的な大きさが最も小さいのもゴギの特徴と言えるでしょう。
概ね20cm前後の個体が多く、大きさを求める釣りではなく、雄大な自然に身を置く時間を楽しみましょう。
▼ゴギを求めた釣行記はコチラ
どのイワナにも特徴が該当しない “ニッコウイワナ”(Salvelinus leucomaenis pluvius)
白い斑点と黄や橙(だいだい)色の斑点があればニッコウイワナ

ニッコウイワナは「白い斑点に加えて、矢印で示した黄や橙色の斑点がある」のが特徴」です。
また、白い斑点はエゾイワナに比べて小さい傾向にあります。
生息域は、太平洋側では山梨県富士川、日本海側では鳥取県日野川以北の本州各地と考えられていますが、古くからさまざまな河川に人為的に放流されているため、正確な生息域は未だに明らかとなっていません。
一部のニッコウイワナは降海・降湖します

ニッコウイワナは、アメマスと同様に一部の地域で海や湖へ降りることが知られています。
川を下り始めると、この魚のようにに各ヒレが透き通った色に変化し、体色もシルバーになります。
この状態を銀毛(ぎんけ・スモルト化)と呼びます。
降海型のニッコウイワナ

新潟県や山形県の一部の河川では、降海型のニッコウイワナを狙って釣ることができます。
降海型のニッコウイワナはアメマスのように研究が進んでいない為に、産卵回数や年齢と大きさの関係など未だに分からないことが多い魚です。
降海型のニッコウイワナ追いかけた僕の感想ですが、遡上は5月中旬ごろから始まり、ニッコウイワナ特有の黄や橙色の斑点は消えてしまっています。
一見、アメマスのようにも思えますが、1~2歳魚のアメマスが同じ川に生息していないこと、斑点が小さいこと、アメマスの生息域外であることなどから、この水系で釣れる降海型のイワナは、ニッコウイワナと判断しています。
ニッコウイワナには黄や橙色の斑点が少ない個体もいる

イワナを見慣れていないと一見エゾイワナかと思ってしまいますが、良くみると橙色の斑点が所々に見られます。
この場合、エゾイワナは白色単色という特徴があるため、エゾイワナの線は却下されニッコウイワナと判断するわけです。
ニッコウイワナには白い斑点が少ない個体もいる

こちらは一見ヤマトイワナのような雰囲気を持っていますが、ほんの少し白色の斑点が確認できます。
ヤマトイワナは白色の斑点を持ちませんので、ニッコウイワナと判断しましょう。
ニッコウイワナは人為的放流により日本各地に広がってしまっていますので、どの河川でもニッコウイワナを疑いましょう。
このニッコウイワナの放流活動が、種を見分ける上でとても厄介なんですね……。
ちなみに、この魚はニッコウイワナとヤマトイワナの交雑個体と考えられます。
多くのイワナ釣り師は、このような個体をニッコウイワナや交雑個体として扱っています。
番外編・オショロコマ(Salvelinus malma malma)はイワナとは別種です

日本在来のイワナの仲間にはもう一種類「オショロコマ(Salvelinus malma malma)」と言う魚がいます。
日本では北海道にのみ生息し、一部のオショロコマは降海します。
エゾイワナ(アメマス)との見分け方は、白い点のみのアメマスに対し、オショロコマは「パーマークと朱点(赤い点)があること」から見分けることができます。
また、北海道の然別湖にのみ生息するミヤベイワナ(Salvelinus malma miyabei)は、約1万5千万年前にオショロコマが陸封され独自の進化を遂げました。
ミヤベイワナは“イワナ”と名前がついていますが、学名を見ての通り、オショロコマの亜種であります。
イワナの見分け方が難しいワケ

本来、自然の力では隣の川へ移動することが困難であったため、イワナは何十万年という月日をかけて、川ごとに独自の違いを生み出してきました。
しかし、近代になり漁協や漁(猟)師、釣り師など様々な人間が積極的にニッコウイワナを全国各地に放流するようになり、各地で交雑が起きています。
ひとたび、ヤマトイワナの生息地にニッコウイワナを放流してしまうと白い斑点を持つニッコウイワナの川に徐々に置き換わってしまうのです。

現在では写真のような完全に白い斑点を持たない純粋なヤマトイワナは、人目につかないごく限られた源流域にしか残っていないのです。
このままでは、恐らく近い将来、イワナに亜種という考え方はなくなってしまうかもしれません。
ヤマトイワナを探して釣り歩いていると「沢山釣りたい、もっと食べたい、もっと儲けたい。」という考えだけで無暗に魚を放流することの惨さを感じます。
イワナは奥が深すぎて出られない(笑)

最後はかなり主観的な文章となってしまいましたね。失礼いたしました。
イワナの世界は色んな方向性があってどの道も奥が深いのです。今の僕は“ヤマトイワナに興味がある”ということです。
これからはぜひ、イワナ4亜種を見分けてイワナ釣りを楽しんでみてください!
撮影・文:山根央之
筆者紹介

“初めての1匹”を求めて、世界中どこへでも行く怪魚ハンター「山根ブラザーズ」の兄。海外釣行のガイドとしても腕を振るう。
釣りに留まらず、ガサガサや漁業者と協力してまでも、まだ見ぬ生き物を追い求め、日々水辺に立っている。
どえらい魚を獲った!もはや釣りを越えて!色んな人と繋がって!特大天然メコンオオナマズ! 240 cm175 kg 捕獲です!!ホント色んな人に助けられてこの魚と出会うことができました!メコンオオナマズに関わる全ての人に感謝でいっぱいです!! pic.twitter.com/JHWpNdLAvX
— 山根ブラザーズ(兄)@kimi (@chillkimi) September 16, 2017