自作の竿で魚を釣ってみたい

竿を自作しようと思ったきっかけは、タナゴ釣り用の和竿が欲しくなったことでした。
和竿は買うと高価ですし、そこまで頻繁に使うわけでもない……。それでも欲しさが勝って、「なら作ってみよう」と思い立ったというわけです。
本来、和竿作りは職人の仕事で工程も複雑ですが、今回はその簡略版。それでも誕生した竿は、作ってからもう5年も愛用しています。とくにトラブルもありません。
イシカワ
ここでは、そんなタナゴなどの小物釣りに使える延べ竿の作り方をご紹介します!
小物釣り用の3本継延べ竿の作り方

和竿といえば竹竿。
実際は竹を乾燥させて火入れして矯正……といった手順になるようですが、火入れ済みの1mほどの布袋竹(ホテイチク)を購入しました。
この竹を加工して、印籠継と呼ばれる3本継の釣り竿にします。
切り揃え

まずは竹を必要な長さに切る作業。
竿先となる細いほうから穂先・穂持・手元と呼びますが、手元を長くする形でカットします。

イメージ図では単純な3分割と考えていましたが、実際は竹の節を避けて切る必要がありました。

手元と穂持はできるだけ長さを揃え、穂先は短くして調整。

切った部分はヤスリがけをし、節に枝の残りがある箇所はカッターやヤスリで滑らかにしておきます。
口巻き

次は継ぎ手部分を補強するために絹糸を巻きつける、口巻きと呼ばれる工程。
絹糸を使用します。

滑らないように糸を巻く部分をナイフで薄く削って、ヤスリがけしてから糸を巻いていきます。

隙間なく巻く必要があるのですが、思った以上に難しく、仕上がりはいびつになってしまいました。
巻き終わりは、あらかじめ作っておいた糸の輪に巻き糸を通し、最後にその輪を引き抜けばしっかり固定できます。

糸を巻いた部分に、水で薄く溶いたボンドを塗って補強します。
ボンドが乾いたら、次の作業へ。
口巻き塗り

続いては、口巻きに漆を塗る工程です。
漆は硬化することで補強になり、防水性も備わるため、竿を長く使ううえで欠かせません。
ただし、本漆は高価なうえに乾燥や湿度管理が必要で扱いが難しいため、ここでは特製うるし(カシューナッツの殻から作られた人工漆、いわゆるカシュー)を使用します。

特製うるしは薄めて使うので、専用のうすめ液も必要です。
東邦産業 特製うるし専用うすめ液

特製うるしを口巻き部分に塗っていきます。
塗り始めると途端に竿らしくなってきますね。

塗り終えたら、しっかり乾かします。
特製うるしは、夏季で1〜3日以上、冬季では2〜5日以上の乾燥時間が必要です。
継ぎ手(印籠)作り

竿を継ぐための、印籠継の制作工程。
印籠芯はカーボン芯材です。
手元と穂持を繋ぐ芯の太さは2mm。穂持と穂先を繋ぐ芯の太さは1.5mmとしました。

芯と同じ太さのハンドドリルで竹の口巻き部分に穴を開けます。

印籠芯の長さは40mm。
15mmを竹の内部に埋め込み、25mmを外に出すようにしました。

実際に継ぎながら慎重に調整し、計算どおりに穴が開けられたら、ボンドなどの接着剤で印籠芯を固定します。
へび口作り

次は「へび口」作りの工程。
和竿の竿先部分の釣り糸を結ぶところを「へび口」と呼ぶそうです。
リリアン糸を使用します。

竿先をカッターやヤスリで削って尖らせます。

削った竿先にリリアンを差し込んだら絹糸を巻いて補強。
口巻きと同じようにここにも特製うるしを塗ります。
握り作り

釣り竿の持ち手、握り。
タナゴ竿の場合は太い握りは不要なので、新聞紙を巻いて作ったりもするようなのですが、どうしても使いたかった手持ちの竹を加工して握りとすることにしました。

握りとなる竹にドリルで穴を開け、竿を差し込み——

接続部分には絹糸を巻いて補強し、ここにも特製うるしを塗っておきます。
イシカワ
タナゴ竿としては明らかに不釣り合いな握りですが、竹の形状が魅力的だったため、個人的にはとてもお気に入り。
口巻き(研ぎ・塗り)

前の工程でおこなった口巻き部分ですが、特製うるしを塗っては乾かして研ぐという繰り返し作業へ。
研ぎは耐水サンドペーパーでおこないます。

前述のとおり乾燥時間が必要なため、この工程はどうしても時間がかかります。
塗っては乾かし、研ぐ——この作業を糸目が消えるまで約5回繰り返しました。
胴塗り

今回の竿作りでは最後の工程、胴塗り。
胴に特製うるしを塗っていきます。
口巻き部分などには黒色を使いましたが、胴の部分には透(すき)色を使ってみました。

筆だと塗りにムラが出るので、布で拭くようにして塗ります。
これも乾かしては塗っての繰り返し。
塗膜を作って耐久性を上げる作業。色がのることで、ぐっと竿らしい雰囲気になっていきます。
完成

しっかり乾燥させれば、いよいよ完成です。
細かな気になる点はありつつも、手に取った瞬間に愛おしさが込み上げてきました。
コツコツと作業を続けること約2か月。
特製うるしの乾燥待ちもあり、思っていた以上に時間を要しました。

完成後に竿を継いでみて、「なんとか釣り竿として形になったなぁ」としみじみ思いました。
釣り竿を作ったので当たり前ではあるのですが、工程を端折っていても想像していた以上に作るのは大変で、これまで何気なく使っていた釣り竿の凄さを痛感しながらの作業でした。

「折れないでくれよ〜」と思いながら、曲がり具合の確認。
魚を釣ることができなければ釣り竿と呼べない! ということで、さっそく実釣してのチェックです。
イシカワ
最初は使いたくて仕方がなかったのに、完成してみると今度は「すぐ折れてしまわないか……」と不安が先立ち、ビクビクしながらの実釣になりました(笑)
自作竿の使い心地は?

作ってから5年。いまもシーズンごとにしっかり働いてくれています。
3本継ぎにしたことで携帯性が高く、ほかの釣りに行くときも持っていけば、気になったタイミングでサッと取り出せる頼もしい相棒のような存在になりました。

タナゴや小鮒といった小物釣りで使うと、操作感は十分で、繊細なアタリも手元までしっかり伝わってきます。
時には鯉のような大きめの魚がかかってヒヤッとすることもありますが、想像以上にしなり、しっかり耐えてくれました。
ハリスを細くするなど多少の対策は必要ですが、作っていた時に心配していたような折損などのトラブルもなく、問題なく使えています。
イシカワ
何よりも、自作竿だと竿への愛着が段違い!
自分で作った竿で魚が釣れると、より感動が強く、何とも言えない満足感があります。
自作竿での釣りは楽しい!

竿に限らず、自作した釣り具を使うと、釣りの楽しみはさらに広がります。
今回は3本継の竿を作りましたが、継ぎ目のないワンピース竿であれば工程が少なく、ぐっと簡単に作れます。
イシカワ
作るのは大変ですが、その分、自作竿で釣る魚の喜びは格別ですよ!
撮影:イシカワヒデカズ
