巨大怪魚を求めて釣り歩くアングラー
巨大怪魚の魅力について
僕は、大きくて重たい魚を抱っこする感覚が凄く好きなんです!
口の大きさ、ヒレの長さ、胴周りの太さ……ちょっと不気味に感じる程の圧倒的な存在感が巨大怪魚の魅力です。
釣り人には不人気なジャンル
お金と時間を浪費して、食えもしないしたくさん釣れるわけでもない魚を釣りに行くわけですから、一般的な魚釣りとは一線を画すものだとよく言われます。
もちろん、アカメやカジキなど魚釣りのスーパースター的な怪魚もいますが、『カナダにチョウザメを釣りに行く!』とか、今回のように『離島に100kgのエイを釣りに行く!』って聞いたら、多くの人は「なんでその魚?!サーモンやマグロ狙ったら良いじゃん!」って疑問を持つはずです。
自分の好奇心に正直でいることが僕の生き方
もっと余裕があれば、サーモンもマグロも釣ってみたいんですけどね(本音)。でも、当時の僕にとっては、サーモンもマグロもチョウザメやエイより優先順位は低かったんです。
僕がいつも意識しているのは、自分が心から釣ってみたいと思う気持ちを大事にする事。
自分にとって“未知な世界を冒険する”のが醍醐味
僕は出会ったことのない魚達がどんな場所に住んでいて、どんな生態を持っていて、ヒトとどんな関係があるのか……そんな事に興味が沸き出るタイプなんです。
自分の五感で感じた事しか信じられない性格もあってか、自分にとって未知の場所や魚との出会いが好きで怪魚釣りをやっています。
今回のターゲット|100kg以上に成長する『マダラエイ』とは
世界に広く生息するマダラエイ
『マダラエイ』はアカエイの仲間で、アフリカ大陸東部からオーストラリア北部および日本にかけての熱帯から温帯域に生息しています。
マダラエイという名前の由来でもある白と黒のマダラ模様が特徴的で、一目見れば他のエイと見間違うことは少ないでしょう。
マダラエイは岩礁帯を好む夜行性
エイと聞くと砂地や砂泥底を好むようなイメージがありますが、マダラエイは岩礁帯を好むと言われています。
日中は岩陰に隠れて休息し、夜になると餌を探して回遊します。
ときに数匹から十匹以上の群れが観察されることもあるみたいですよ!
マダラエイの最大サイズ
マダラエイの体盤は円形で、長さよりも幅の方がやや広く、尾は体盤幅よりも長くなることはありません。
一般的にマダラエイの最大サイズは、体盤幅で200cm前後、体重で150kg前後と考えられています。
巨大エイの種類とエイ釣りの魅力
アカエイも大型個体であれば、強烈な引きを味わうことができる
エイ釣りの醍醐味は、魚とは一味違った強い引きです。近年、エイ釣りは一部のマニアックな釣り人から人気が出ているジャンルでもあるんですね。
身近で狙って釣れるエイと言えば『アカエイ』でしょう。アカエイでも横幅100cmを超えてくれば、強烈なエイファイトを味わうことができますよ!
世界最大級の巨大淡水エイ|ヒマンチュラ・チャオプラヤ
僕がエイ釣りの魅力の虜になったのは、東南アジアの河川に生息し体重400~600kgにまで成長する巨大淡水エイとの死闘を経験してからのこと。
夜の23時にヒットし、弟と交代でファイトすること13時間30分……無念のラインブレイク。
興味が強すぎて、淡水エイに発信器をつけたりもしました
僕はすっかりヒマンチュラ・チャオプラヤの魅力にとりつかれ、数年後にはタイ国水産局と一緒に、ヒマンチュラチャオウプラヤなどの淡水エイに発信器をつけて生態調査を行っていました。
巨大淡水エイと同じような、大きなエイを日本で釣ることができると知ったのもこの頃。それ以来ずっと、どこでどうやって釣ろうか、虎視眈々と作戦と計画を練っていたんです。
マダラエイを釣り上げるために選んだタックル
専用タックルなんて無い。それが怪魚釣りです
マイナーな魚を狙うことが多い怪魚釣りでは、専用ロッドや仕掛けが無いことも珍しくありません。
どんな道具や仕掛け、餌やルアーを使えば釣れるのだろうか?
巨大魚用パックロッド
今回の釣行に選んだロッドは、パックロッドメーカー・トランスセンデンスの巨大魚用ブッコミロッドです。
この竿、残念ながら現在は生産していませんが、数々の大物を釣ってきた言わば相棒のようなロッドです。
糸巻量の多い両軸リールと太いPEライン
PE12号を200m以上リールに巻けることを条件にして、リールを2台選びました。
レバードラグの両軸リールは、瞬時にドラグをロックしたりフリーにすることができるので、なにかと障害物の多い岸釣りでは重宝するんです。
フックは軽さを重視
100kg級の巨大エイを釣るのだから、さぞかし大きな針を使うだろうと思うかもしれませんが、今回はジギング用の菅ムロ30号をおもに使いました。
巨大エイはドラグを使ってラインを出して釣り上げるので、ドラグを出さないクエ釣りほど釣り針に負荷が掛からないはず。
ということで、大きいくせに警戒心の強いエイのヒット率を上げるためにも、太くて重たいクエ針よりも、泳がせ釣りに使うような軽めのフックを採用しました。
マダラエイを釣る場所を探す
巨大エイをスロープに誘導できる場所
今回は、キャッチ&リリースを大前提にマダラエイを釣る計画を立てていきます。
そのため、ギャフを打って堤防や磯に引っ張りあげることはできません。
船を陸にあげるためのスロープが設置されている漁港を、航空写真から探しリストアップしていきます。
マダラエイの目撃情報が多い場所を探す
目的地に着いて一番にすべきことは“情報収集”です。やはりネット上の情報よりも現地で得られるものの方が鮮度も確度も高いですからね!
餌を買うことができるスーパーや釣具屋はあるのか、マダラエイをよく見かける場所がないか、釣った切られたという話を聞いたことがないか……。
できるだけ海底の起伏が無い場所
地元の方々の情報をまとめると。マダラエイはどの漁港や堤防にも来遊してくるし、水面が穏やかで透明度が高ければ姿も見えるとのこと。
場所によって目撃数に大差が無いとのことなので、ファイトするスペースにブレイクやロープ、テトラなどの障害物ができるだけ少ない場所を2カ所選びました。
今回のようなブッコミ釣りでは、移動を繰り返すことが難しいため、釣り場の選定が重要になってきます。
実釣1夜目。11時間ノーバイト……
マダラエイ釣りに使用する餌
今回用意した餌は、アジとニシンとカマスとベラとオヤビッチャとスズメダイ。魚の輪切りのアソートパックです!
マダラエイは食欲旺盛な肉食魚で、生きた魚はもちろん。死んだ魚でも構わず食いついてきます。
エイが警戒せずに撒き餌と間違えて付け餌を吸い込むように、どの輪切りも同じ大きさに切り分けます。
撒き餌をしながら待つ事6時間
サメと同じように、エイの仲間は死肉のニオイにつられて遠くから寄ってくることがあります。
仕掛けを投入した場所に、定期的に魚の輪切りを撒いて巨大エイが来遊するのを祈ります。
移動するも沈黙。これぞ怪魚釣り!
干潮から満潮まで待って、餌も取られないような状況でしたので、2カ所目に移動してみます。しかし、ゴンズイに少々餌が齧られるくらいでエイの気配は感じられません。
常夜灯のまわりを歩いてみてもエイの姿は無く、夜明け前に1カ所目のスロープに戻って餌を投げ込むと、早起きな餌取りたちの猛攻を受けてどうにも釣りにならない状況で、まるで雲を掴むような釣り……。
必死にオヤビッチャとスズメダイとベラを釣ります
精神力と体力を回復させるために宿に戻り、昼過ぎから餌となる魚達を釣りに出掛けます。
普段の釣りでは邪魔者扱いの餌取り達が、この時ばかりはメインターゲット!
サビキや胴突き仕掛けでドンドン釣り上げていきます。
実釣2夜目・マダラエイがヒット!過酷な戦いが幕を開ける
怪魚釣りのコツ┃とにかく信じて待つ!
2日目の夜。昨晩と同じスロープで同じように餌を撒き、仕掛けをセットします。
夜釣りで狙える魚は、マダラエイの他にもたくさんいるはず。そうやって、他の魚を狙いに行くこともありますが、今回はマダラエイに集中します。
予兆なく、マダラエイとの闘いは突然始まった!
お弁当を食べ終えた頃、魚のヒットを知らせるアラームが鳴り響きました!
車から飛び出して竿に駆け寄ると、「ジャージャー」と既に凄い勢いで糸が引き出されています。
竿を持って感じる巨大魚の存在感! 50kgなのか100kgなのか、この時点では想像できませんが、大きそうなことに違いありません。
身体が宙に浮かびそうな感触が病みつきになる
放っておくと港の外まで泳いでしまいそうな勢いで逃げる巨大エイに、タリカ20Ⅱ(最大ドラグ力20kg)のレバードラグをフルに入れ込み真っ向勝負を挑みます。
竿尻に座り、膝に竿のグリップを当てて、両腕で必死に竿を保持します。もう、竿を取られないようにするのが精一杯で、リールを巻く余裕なんてありません。
メインラインが何か障害物に当たらない事だけを祈りながら、全力で竿を取られないように守りに徹します。
ピンチの後にチャンスあり
50m程疾走したマダラエイですが、強力なドラグの力を嫌がり右に旋回し始めました。
疲れ始めたエイは、竿を中心にコンパスで円を描くように旋回を始めるのですが、ここがエイとの距離を詰めるビッグチャンスなんです。
身体の芯から力を込めて、一気にポンピングで糸を巻き返します。
絶対負けないぞ!
ヒットから40分。予期せぬ事件発生!
腕と背中の痛みにギブアップを宣言
ラインを巻き返しては、引き出されの繰り返し。
底に張り付いたら、思いっきり竿を曲げてプレッシャーを与えます!
座ってのファイトにもかかわらず、ファイト時間が30分を過ぎた頃から身体の節々が痛いような気がしてきます。
ハーネスを装着!
エイの動きが無くなったタイミングを見計らって、ハーネスを装着!
ハーネスをつけて背中とタックルを結ぶことで、腕の力だけではなく全身で竿を保持することができます。
ブチッン!と聞きたくない音とともにハーネスが破断
「安物のハーネスでも使い物になるじゃん! めっちゃ楽だぜ!」最初から付けとけば良かったわ。なんて思いながら、竿に体重をかけた途端に『ブチッン!』という音と共にハーネスの金具が破断してしまいました。
海底に張り付いた巨大エイは動かない。チャンスは泳ぎ出した時
巨大な吸盤を剥がそうとしている気分
ジャンプしたり、首を振ったりするような暴れ方を楽しむのが魚釣りの醍醐味だとしたら、まるで吸盤のように海底にへばりつく抵抗こそ、エイ釣りの醍醐味です。
時に30分、1時間と動きが止まることもあるのが巨大エイならではのファイトですね。彼らが踏ん張って海底に張り付くとテコでも動きません。
離底して泳ぎ出したら引き寄せるチャンス
全力で竿を曲げてプレッシャーを掛けたり、逆にテンションを抜いてエイに油断させたりしながら、エイが泳ぐように促します。
張り付くのをやめて泳ぎ出してくれれば、ポンピングで寄せてくることができるのです。
作戦的中! 今までの苦労が嘘のように、体制を崩して浮き上がった巨大エイは軽々と寄ってきます。
リーダー入ったぞ!巨大な白い影も見えている
100号のリーダーが、ガリガリッと音を立てながら竿のガイドを通り抜けます。
海中を照らすと、ぼんやりと白い影が波を打つように泳いでいるのが見えます。
巨大なマダラエイだ!!
巨大怪魚釣りに焦りは禁物。常に心にゆとりを持つべし
足元に張り出すコンクリートに悩まされる
足元まで寄せてきたところまでは良かったのですが、じつはこのポジション……水中に2mほどコンクリートが張り出しているのです。
竿を目一杯曲げたり、リーダーを掴んで引っ張り上げようとすると、コンクリートにラインが当たってしまいます。
巨大エイと休戦協定を結ぶ
ファイト時間が1時間20分となり、じれったい気持ちになりますが、相手が沖に走れるようになるまで、コチラも休ませてもらいました。
先に動いたのは巨大エイ|戦いは最後の局面スロープでの戦いへ
壁沿いを泳ぎ始めた巨大エイを追い抜いてみる
ついに、壁沿いをスロープに向かって巨大エイが動き始めました!
ラインが壁に当たらないようにエイを追いかけながら、試しに追い抜いてみると、前から引っ張られるのを嫌がったのか、壁から離れるようにスピードを上げました。
スロープに向かってダッシュ!(僕がw)
スロープ際の捨て石エリアを交わしたことを確認できたので、スロープに向かって僕が走ります!
戦いの終わりが近づいていることに、ちょっぴり淋しさを感じながらも、最後まで油断せず巨大エイとの距離をつめていきます。
ついに憧れの巨大マダラエイとご対面
ハリスを掴むとまるで短剣のような毒針を鞭のように振り回し、最後の抵抗を見せる巨大エイを往なし、噴水孔にロープを通してランディング成功!
想像以上の大きさと迫力に圧倒されます。巨大なエイヒレを触ってみると……とにかく分厚い! そしてヌルヌル! さらに、やや臭い(笑)。
怪魚ハンティング最大の醍醐味|釣りあげた魚との記念写真
巨大魚との写真に入水写真が多い理由
僕は、今までに釣り上げてきた魚たちの写真を見返すのが好きなんです。一生の宝物になる写真だからこそ、魚達が一番カッコいい姿で写真に残したいと思っています。
巨大魚は陸に揚げてしまうと、多少なりとも擦り傷がつきやすいんですね。生死に関わるほどの傷で無くとも、できるだけ少ない傷に留めたいので、積極的に入水写真を撮るようにしています。
言わずもがな、巨大魚に引きずりまわされて『あッヤバいかも!』と思ったこともあります。
リリースの場面は、ちょっぴり名残惜しいもの
メモリアルフィッシュを釣り上げた時のリリースシーンは、なぜかいつも切なくなるものです。
何年も出会ってみたいと想いを馳せて、準備して行動して。やっと出会えてもたった数分でお別れなんです。
『早く逃がしてくれ!』って思っている魚の気持ちが分かるので、尚更切なくなるんですよね(笑)。
▼今回のマダラエイとの死闘は動画でもアップしています!
ライタープロフィール