草を主食とする日本最大級の淡水魚“ソウギョ(草魚)”
ソウギョ(草魚)はコイの仲間
ソウギョ(Ctenopharyngodon idellus)は、コイ目コイ科クセノキプリス亜科ソウギョ属に分類される中国原産のコイの仲間です。
最大で1.3m前後まで成長し、寿命は長く20年以上。条件さえ揃えば50年近く生きるとも考えられています。
まずはソウギョがどんな魚かご紹介していきます。闘いは相手を正しく知ってから。ってことで少々お付き合いください!
コイとソウギョの見分け方
コイとソウギョの最も簡単な見分け方はズバリ、背びれの形とヒゲの有無です。
背びれが背中の頂点から尾びれにかけて長いものがコイです。
また、口の周りに4本のヒゲがあるのもコイの特徴と言えるでしょう。
コイとは対照的に、三角形の短い背びれを持つのがソウギョです。
口の周りも見てみましょう。
ご覧のようにソウギョにはヒゲがありません。
外見的な特徴からコイとソウギョを見分けるのは、比較的簡単ですよね。
実は、公園の池やお城のお堀などに、鑑賞目的のコイと一緒にソウギョも放流されていることがあるので、皆さんも探してみてはいかがでしょうか?
ソウギョは外来生物。ちなみに原産の中国では食材です
お察しの通り今回のターゲットとなるソウギョは、もとは日本に生息していない外来魚です。
ソウギョが日本各地に放流されたのは大きく3回、1880年前後に初めて食料資源として導入されました。
1944年前後には、戦時中の食糧難を解消するために数百万ものソウギョが全国に放たれました。
3度目のまとまった放流は戦後、社会が豊かになってから。湖沼の除草や遊漁目的として全国各地に繰り返し放流されました。
ソウギョは極端な草食性
ソウギョという名前から容易に想像できますが、実際に強い草食性を示します。
水草や葦(ヨシ)ならば選り好みせず食べ、陸生の雑草でさえも与えれば口にします。
この食性が災いし、長野県野尻湖や木崎湖など一部の水域では、ソウギョを導入後に水草が壊滅するといった被害が出ました。それから環境省は、この魚を要注意外来生物と日本の侵略的外来生物ワースト100に指定しています。
※木崎湖では、キザキフラスコモがソウギョによる食害で絶滅し、野尻湖ではソウギョ捕獲に懸賞金1万円がかけられています。
外来種である一方で遊漁対象種
一部の地域では在来生物に対して甚大な被害を与えている一方で、利根川水系などではソウギョの繁殖期に禁漁期間を設けるなどして保護をしています。
僕の個人的見解ですが、その場その場で外来生物に対する対応が変わることは決して悪いことではないと思っています。
野尻湖のように、大きな影響を受けてしまっているのならば駆除はやむを得ないでしょうし、これだけの大魚ですから利根川水系のように、遊漁対象種として利用しようと考える人たちがいるのも当然でしょう。
我々釣り人にできることは簡単です。その生き物に正しく関心と敬意を持ち、与えられたルールの中で対等に接する。これに限ります。
本当にソウギョは葉っぱで釣れるのか検証したくなった
ソウギョは草より食パンが好き(山根私心)
実はソウギョを簡単に釣るなら“食パン”を使うのが一番なんです。
食パンを撒いて寄ってきたソウギョに、雑草を付けた仕掛けを投げ込んでも見向きもしなかった経験を持つ僕にとって、草針でソウギョが釣れるってのはある種の都市伝説です。
ソウギョ本来の生態を身をもって経験したい
食パンを使ったソウギョ釣りにハマっていたのは10年近くも前のこと。
時は巡り、ソウギョ本来の生態を知りたいなと思い、草オンリーでのソウギョ釣行を決意しました。
あえて初場所を選び、ソウギョの餌場から探すことに。いざ実釣開始です!
ソウギョの食み後を発見!
グーグルアースで川辺がヨシ帯になり、近くに車が駐車できるような場所を3か所ピックアップし現場に向かいました。
さっそくヨシ帯を歩き回ると、ところどころ倒れかけたヨシの葉っぱが不自然に無くなっているではありませんか!
それも葉先が枯れていないところを見ると、何かに食いちぎられたのはごく最近の出来事に違いありません。
半信半疑ながら、きっとこれがソウギョの食み後だろうと判断し、一か所目でしたがこの場所に釣り座を構えることにしました。
ソウギョ釣りのタックル、草針仕掛けの作り方
竿はタマン竿、ハリスは緑色のPE
この釣りは竿の長さが必要なので、4.5m前後のタマン竿とコイ竿を用意しました。
PE5号を巻いたリールに、オモリは25号とやや重め。
ハリスは草の色と同調させるために、緑色のコイ用PEハリス10号を50cm程とり、釣り針は伊勢尼(銀)14号を使用。
いつも通り、今回も入念に下調べを行い、道具に抜かりはありません。いつだって本気です!
餌となるヨシの若芽を切り出します
ヨシ帯に分け入り、葉先が柔らかく青々とした若芽を探します。
アシナガバチや藪蚊の巣にお邪魔したようで、猛攻を受けながら良い感じの若芽をゲット!
こうやって自然の中で遊ぶって何歳になっても楽しいものですね!
ヨシに釣り針を縫い刺していきます
針を付ける葉っぱ以外をあたかもソウギョが食いちぎったかのようにハサミでカットします。
葉の根元から縫っていき、できるだけ先端に針を掛けます。
針の根元と葉元を緑色の紙テープを使って、しっかり固定すれば草針仕掛けの完成です!
現場に到着してから、釣り座を選んだり仕掛けを作ったり、ハチに追われたり……。
なんやかんやここまで準備するのに3時間。初めての餌釣りは時間がかかりますがこの時間がワクワクして楽しいんですよね!
水深30cm 岸際50cm、葉っぱでソウギョを狙う
草針仕掛け投入
竿受けにロッドをセットし、垂直に草針を垂らしていきます。
この釣り、写真のようにヨシの葉だけが水面につくようにセットするのがキモなんです。
オモリを空中にとどめることで、仕掛けが安定し、草に食いついたソウギョが動くと勝手に針が掛かるという狙いです!
ヨシを踏み倒しソウギョにとっての楽園を作る
撒き餌はもちろんヨシの葉です。葉先が水面につくように根元から踏み倒します。
草針を寄せ餌に紛れ込ませればセット完了です!と軽々しく文字に起こしていますが内心は半信半疑……。
とはいえ、これ以上できることがないのでソウギョが来るのを信じて待つのみ。ソウギョが掛かれば無線式バイトアラームが知らせてくれます。
待つこと10時間……明け方に衝撃の事実が判明する
夜通しバイトアラームは鳴らず……「やっぱり草針でソウギョ釣るって非効率だなぁ」と嘆きながら仕掛けを回収に向かいます。
すると……無残にも葉っぱが食いちぎられているではありませんか!
夜中の1時にチェックした時には異常なしだったのに!
隣の竿もその隣の竿も……。 3本ともやられています。
疲れがたたり、深く眠りすぎたかと思い、車内カメラをチェックするもアラームは鳴っていません。
これは、リベンジマッチ確定です!
深夜2時……待望のヒット!
22時実釣開始
再び同じポイントを訪れ、できるだけ細い葉の先端に釣り針を仕込み、満を持して仕掛けをセットします。
コイやソウギョは、毎日同じルートで回遊することがあります。僕の読みが正しければ……きっと今夜も1時から明け方の間にチャンスが来るはず。
眠い目を擦りながら、車で待機します。
深夜2時過ぎ、バイトアラーム鳴る
ボーっと携帯でカワイワシという魚について調べている時でした。
突然「ピコピコピィーーー」とバイトアラームが鳴ります!
「この瞬間ッ!」この手の長期戦ではバイトアラームの音が病みつきになるんです。大慌てでカメラを用意し竿に駆け付けます!
ドラグを締めてフッキング!
向こうアワセで掛かっているにも関わらず、こういう時って追いアワセを入れちゃうもんですよね(笑)
しっかりと針掛かりしていることを確認し、ここからはソウギョ特有のゆっくりとした長期戦を楽しみます。
ファイトすること10分
コイが短距離選手であるとすれば、ソウギョはマラソン選手といったところ。
足元まで寄せては10m道糸を引き出されるの繰り返しが続きます。
15分程経ったところでようやく腹を浮かしたので、浅瀬に導き無事キャッチ!
2晩という時間をかけたということ、動画に収められたということ。
何より目標としていたヨシの葉でソウギョが釣れたことが嬉しすぎて、いつも通りの雄たけびをあげてしまいました(笑)。
プールに移動して記念写真
今回は釣りハックTVの撮影を兼ねた釣行でしたので、ビニールプールを準備しておきました。
このような大型魚の写真や映像を魚へのダメージを考慮しながら撮るには、水の中が一番ということですね。
ソウギョの今後は……
外来生物の無暗な新規放流は控えるべき
ソウギョも要注意外来生物として認識されるようになった今、新たな放流機会は著しく減ると予想されます。
また、いくら釣り味が良いからといって、要注意外来生物を遊漁目的として新たに放流すべきでないというのが僕の個人的な意見です。
釣った外来魚をどう扱うか
極論、無主物先占の日本において釣りあげた魚の所有権は釣獲者にあります。
特段、法律や条例、漁業調整規則等で禁止されていない限り、外来生物のキープとリリースの選択は釣り人の自由ですので、その外来生物と環境のことをしっかり調べて判断するようにしましょう。
僕はその種の特性だけでなく、その場での地位(遊漁対象や駆除対象など)に従って判断するようにしています。
ソウギョは繁殖し辛い魚ということが知られており、繁殖が確認されている利根川水系を除き、積極的な駆除をせずとも現存する個体が寿命を全うすれば自然と数が減ると予想されています。
キャッチ&リリースを目的とするならば
ソウギョは、放流された個体しかいない長寿な魚ですので、再捕率が高いと思われます。
今、自分が手にした感動は、数年……数十年前にその魚を釣り上げた先輩が大切に扱ってくれたからに他なりません。
このような超大型淡水魚をキャッチ&リリースで狙う場合、後世の釣り人のことも思いながら丁寧にリリースすることを心掛けたいところです。
筆者紹介
山根央之(やまねひろゆき)
初めての1匹との出会いに最も価値を置き、世界中何処へでも行く怪魚ハンター山根ブラザーズの兄。
餌・ルアー問わず、もはや釣りに限らず。ガサガサや漁業者と協力してまでも、まだ見ぬ生き物を追い求め、日々水辺に立っている。
テレビ東京・緊急SOS池の水全部抜くやNHK・ダーウィンが来た、TBS・VSリアルガチ危険生物などに出演したり、魚類生態調査に参加したりと幅広く活躍する。
どえらい魚を獲った!もはや釣りを越えて!色んな人と繋がって!特大天然メコンオオナマズ! 240 cm175 kg 捕獲です!!ホント色んな人に助けられてこの魚と出会うことができました!メコンオオナマズに関わる全ての人に感謝でいっぱいです!! pic.twitter.com/JHWpNdLAvX
— 山根ブラザーズ(兄)@kimi (@chillkimi) September 16, 2017