有害寄生虫“アニサキス”とは
アニサキスによる食中毒は想像より多い
▼ アニサキスによる食中毒発生状況(患者数)
年号 | 件数 |
令和4年(6月時点) | 150件 |
令和3年 | 354件 |
令和2年 | 396件 |
令和元年 | 338件 |
近頃、テレビのニュースでも取り扱われる機会が増えている寄生虫“アニサキス”。
サバやイカといった、日本人が頻繁に生食する魚にも寄生しているため、アニサキスによる食中毒被害(アニサキス症)が後を絶ちません。
厚生労働省のHPによると令和3年にアニサキス症は確認されただけでも354件あり、国立感染症研究所の調査では年間7,000件以上もの罹患事例があると推計されています。
アニサキスの大きさと見た目
魚に寄生しているアニサキスは、長さ2~3.5cm、太さ0.3~1mm程でやや透明感のある白い糸のような形と色をしています。
真っすぐ伸びていた状態よりも、ドグロを巻いたような形で見つかることが多く、一度アニサキスの姿かたちを見て覚えれば、目に付きやすい寄生虫といえるでしょう。
アニサキスの生活史
アニサキスは、オキアミ→魚やイカ→クジラやイルカ→オキアミ……といったサイクルで、寄生する宿主を変えながら生活しています。
鯨類の消化管の中で産み落とされたアニサキスの卵は、糞と一緒に海中へ排出。
海中で孵化したアニサキスは、オキアミなどの大型動物プランクトンに食べられ、それを食べた魚やイカの体内に寄生し幼虫として生活します。
アニサキスの幼虫はオキアミや魚、イカなどの体内では産卵せず、クジラやイルカといった鯨類に食べられる機会を待ちます。
釣り人の方ならイメージできるかと思いますが、オキアミに寄生する時点で海産の魚のほぼ全て魚において多かれ少なかれ、アニサキスが寄生する可能性があるということですね。
人の体の中では生き残れません
この時に、アニサキスが寄生している魚介類を生で食べてしまうと胃や腸の内壁にアニサキスが取りつき、食中毒症状に至ります。
なお、アニサキスは人間の体の中では長く生きられず、産卵することもありません。
人間の体の中でアニサキスが生存できる期間は、1週間程度と考えられています。
アニサキスによる食中毒(アニサキス症)が発症するまでの時間と症状について
胃アニサキス症
胃アニサキス症の症状として、アニサキスが寄生した魚介類の食後数時間から十数時間後に悪心やみぞおちの激しい痛み、嘔吐が生じます。
この時感じる腹痛は『想像を絶する痛み』、『例えようのない痛み』、『内臓をアイスピックで突かれるような痛み』、『出産時よりも痛い』……などと表現されるほどの激痛です。
この場合、急性胃アニサキス症と診断され、内視鏡を使って取り除くことで急速に回復することが一般的です。
腸アニサキス症
腸アニサキス症は、口から体内に入ったアニサキスが胃ではなく、腸に食いつくことで発症します。
魚の生食後、十数時間~数日後に強い下腹部痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状が発生。
稀ではありますが、腸閉塞や腸穿孔に至るケースも見られ、入院による治療が必要となる場合があります。
消化器官外アニサキス症
極稀にアニサキスが消化管を食い破り、腹腔内へ飛び出す場合があり、他の臓器に取りつく場合があります。
発病するまでにかかる時間がアニサキスの位置によって異なり、症例も少ないため、アニサキスが原因と特定されるまで時間が掛かってしまう場合があります。
アニサキス症の予防策について
速やかに内臓を取り除く
アニサキスの多くは魚の胃の中や臓器の表面に寄生しており、宿主(寄生された魚)が死亡すると筋肉の中へ移動することが知られています。
できるだけ早く、内臓を綺麗に取り去りしっかり冷やしましょう。
目視でアニサキスを見つける
内蔵を除去する時だけでなく、魚をおろす時や刺身に切り分ける時もアニサキスが寄生していないかしっかり目視で確認しましょう。
刺身を食べる際も、過剰すぎない程度にそれとなくアニサキスがいないか気にしながら食べることも有効。
僕は、飲食店で提供されたお造りやスーパーで購入した刺身からアニサキスを見つけたことがあります。
魚の提供者としても100%アニサキスの混入を防ぐことはできませんので、食べる側にも知識と理解、そして対策が必要です。
冷凍もしくは加熱処理でアニサキスを殺す
アニサキスのリスクを避けるためには、アニサキスを殺してしまうことが一番確実です。
アニサキスは、-20℃で24時間以上の冷凍もしくは60℃以上の温度で1分間以上の加熱で死滅します。
冷凍、加熱ともに中心部まで必要な温度に達することが重要で、とくに冷凍処理する場合は、魚の中心が-20℃に達するまで12時間以上掛かる場合があるので、余裕を持って長めに冷凍するように心がけましょう。
アニサキスの迷信にご注意ください!
調味料でアニサキスは死にません
アニサキス予防には様々な迷信があります。例えば、『アニサキスは酢やワサビで死ぬ』という情報も間違いです。
また『サバは酢でしめれば大丈夫!』も迷信なので、しめ鯖を作る場合は、冷凍処理した物を使用するようにしましょう。
『よく噛んで食べれば大丈夫』 コレも迷信ですよ
『アニサキスは切断すれば死ぬ。だからよく噛んで食べれば大丈夫だ!』これは、後者が迷信です。
アニサキスの表面は滑らかでとても丈夫。普通の食事で行う咀嚼の回数を増やしたくらいではなかなかアニサキスを切断することはできません。
意識的に前歯で太い釣り糸を切るようにギコギコと噛まないと噛み切れず、刺身を口にするたびにそのような食べ方をすることは難しいですよね。
『アニサキスは魚が死んでから筋肉へ移動する』これは正しい情報ですが……
相対的な数こそ少ないですが、アニサキスは生きた魚の筋肉内(可食部)にも寄生します。
したがって釣ってすぐ、魚が生きているうちに内蔵を取ったとしても筋肉内にアニサキスが存在し、食中毒に繋がる可能性があるので注意が必要です。
つまり、鮮度管理だけではアニサキス症を完全に防ぐことはできません。
アニサキスによる食中毒被害が多い魚について
アニサキスによる食中毒被害が多い魚種
アニサキス症の原因となるおもな魚は、サバ、アジ、カツオ、イワシなど刺身で食べる機会が多い魚です。
青魚に多い印象を受けますが、じつはマダラ、ホッケ、アンコウ、カラフトマスといった白身魚やサケマス類にもアニサキスは多く寄生します。
▼身近なアジにもアニサキスの他、こんな寄生虫まで。
アニサキスの心配がすくない魚
養殖されたブリやマダイ、サーモンやマグロなどはアニサキスのリスクが少ない魚です。
日本で生産される養殖魚のほとんどは、人工飼料や冷凍された餌を与えて育てられているため、天然魚と比べてアニサキスが寄生する機会が少なくなります。
【体験談】アニサキスアレルギーによるアナフィラキシーショックで意識不明の重体に。
アナフィラキシーショックとは
アナフィラキシーとは、アレルギー反応としてもとくに重篤な状態であり、「アレルゲンなどの侵入により複数の臓器に全身性にアレルギー症状があらわれて生命に危機を与え得る過敏反応」と定義されています。
スズメバチなどに刺された際にアナフィラキシーが起こることが知られていますが、アニサキスでも同じようにアナフィラキシーショックに陥る場合があります。
僕のボスが先日、クエ鍋を食べた後に蕁麻疹を発症して病院を受診。病院で意識を失い、心拍数も低下、命に関わる状態まで至ってしまいました。
魚の出汁すらもドクターストップになる場合があります
何とか一命を取り留めたボスから「命は助かったケド、もうこの先、海産魚の一切を断てと言われちゃった……泣」と、衝撃的な電話がありました。
会って話をよく聞くと、精密なアレルギー検査の結果『生食だけでなく加熱調理もダメ。ツナ缶はおろか、かつお節で出汁を取ったお吸い物ですら、死んでしまうリスクがある。アナフィラキシーショックは一度目よりも二度目の方が症状は重くなることが一般的。』そう医師から伝えられたそうです。
アニサキス症とアニサキスによるアナフィラキシーショックの症状はまったくの別物
僕のボスは、アニサキスに噛まれたことによるアニサキス症ではなく、アニサキスの成分に体がアレルギー反応を起こしたことによるアナフィラキシーショックと診断されました。
つまり死んだアニサキスもNG、加熱されたアニサキスもNG、さらに言えばアニサキスの糞や卵もNG。ここまでくると海産魚はどれも危険ということになるようです。
とはいえ、ここまで重症化することは本当に極稀なことであり、アニサキスに限らず“そば”や“卵”といった様々な食品で起こりうるアレルギー反応と同じです。
アニサキスにも他の食品と同じようなアレルギー症例もあるんだという事を頭の隅に置いておきながらも、過剰に怖がらないようにしましょう。
過度に意識すると食事が楽しくなくなるのでほどほどに警戒しましょう
今回の記事では、アニサキス症とアニサキスアレルギーによるアナフィラキシーショックについてご紹介しました。
テレビなどでもアニサキスによる食中毒が頻繁に取り扱われるようになり、アニサキスの食中毒が増えているような印象を受けるかもしれませんが、アニサキス症は昔からある食中毒です。
過度に意識しすぎるとせっかくの食事が楽しめなくなりますので、しっかりアニサキスのリスクと対策を理解して付き合っていくしかないでしょう。