記憶に残り続ける魚

サイズでも、記録でもない——
なぜか今でもはっきり思い出せる一匹がいます。
その魚は、私に興奮と感動を同時に与えてくれました。
時間が経っても、ふとしたきっかけで思い出す魚が、釣り人には一人ひとりいるはずです。
今回紹介するのは、そんな「記憶に残り続ける魚」になった、1匹の魚の話です。
春に釣った何気ない1匹

季節は春。
いつも通っている慣れ親しんだポイントで、私は1匹のシーバスを釣り上げました。
このシーバスは、ワンダー80のあかねんオリジナルカラーをテストしていた時の1匹。
「オリカラで成果が出せた!」
そんな嬉しさもあり、記憶に残っている魚でした。
コンディションも申し分なく、写真を撮って海へと送り出します。
特別なことなんて何ひとつない、何気ない1匹でした。
季節は巡り、冬

それから数ヶ月後。季節は巡り、冬。
同じポイントで、いつものようにキャストを続けていると、友人の竿にヒット。
無事にランディングし、魚を手にした瞬間——違和感を覚えました。
背ビレの横に、黄色いタグが付いていたのです。

思わず目を疑いました。
このタグ、私が付けたものかもしれない……と。
私は、JGFA(日本ゲームフィッシング協会)が行っているタグ付け調査に参加しており、タグを付けてリリースすることがあるのですが……
タグに記された番号を確認すると、そこにあったのは、春に私が装着した番号。
春に釣った、あの魚でした。
広い海の中、同じ場所で。
同じ個体と、再び出会った瞬間でした。

しかも、さらに驚いたのはヒットルアー。
なんと春の時とまったく同じ、ワンダー80の同じカラーだったのです。
偶然と言ってしまえばそれまでかもしれません。
でも、あまりにも出来すぎていて——
「また会いに来てくれた」
そう思わずにはいられませんでした。
JGFAのタグ&リリースという活動

JGFA(日本ゲームフィッシング協会)のタグ付け調査とは、釣った魚にタグを装着して再放流し、その後の再捕獲データを記録していく取り組みです。
タグを付けた魚のほとんどは、そのまま海へ帰っていきます。
再び釣れる保証なんて、もちろんありません。
たとえ再捕獲されたとしても、別の釣り人や漁師の方が釣り上げ、報告を受けることがほとんどなのです。

だからこそ、今回の出来事は特別でした。
自分でタグを付けた魚と再び出会う。しかも、同じ場所で。
そんなことが、本当に起こるんだと驚かされました。
奇跡の1匹が教えてくれたこと

夏の間も、このポイントには頻繁に通っていました。
ただ、その魚どころか、シーバス自体ほとんど姿を見ませんでした。
港湾の浅いエリアということもあり、夏場は水温が上がりすぎてしまう場所だからでしょう。
では、あの魚は夏の間、どこにいたのだろうか——水温の低い深場へ落ちていたのか、もしくは河川へ移動していたのか。
ひとつ言えることがあるとするならば、回遊の個体であったということ。


港湾に居着く黒っぽい個体とは違い、その魚は銀ピカ。回遊型らしい特徴がしっかり出ていました。
さらに、このポイントは同サイズ帯の魚がまとまって入ることも多い場所。
おそらく春はハクやアミ、クルクルバチなどのベイトを追って港湾へ入り、夏は高水温を避けて別のエリアへ移動。そして秋から冬、水温が落ち着いたタイミングで、群れでこの場所へ戻ってきたのでしょう。

夏の間、どこで過ごしていたのかは魚にしか分かりません。
ただ、「ここで、再び釣れた」という奇跡のような事実だけが残りました。
答えは魚のみぞ知る——
だからこそ季節を超えて、同じ個体が、同じ場所で、同じルアーで釣れたという事実に、強いロマンを感じずにはいられなかったのです。
紛れもなくあかねん史上“最高”の1匹

記録に残る魚は、いずれ更新されていきます。
でも、記憶に残る魚は、簡単には塗り替えられません。
春と冬、二度出会った1匹のシーバス。
この魚は、間違いなく私の釣り人生の中で、特別な存在になりました。
