魚の面白い生態“性転換”について
「性転換」という言葉をご存知ですか?

僕たち生き物の性別は、生まれた時から変わらないものだと思っていませんか?
もちろん、ヒトの性別は生涯変わることはありませんが、環境変化や成長に伴って性別を変化させる特殊な生態を持つ魚がいるんです。
このように、一生の間で性別を変化させることを『性転換』と呼びます。
性転換は魚達が進化の過程で獲得した生殖戦略

魚達は長い進化の過程で、競合種たちと競い合いさまざまな生態を獲得してきました。
今回ご紹介する『性転換』という特徴的な生態は、生殖戦略の進化としては画期的なものですね。
性転換の仕組みの多くは謎に包まれている

性転換する魚は、世界で約300~500種確認されていると言われています。
まだまだ研究が進んでいない種も沢山いるため、実際にはもっと多いかもしれません。
また、性転換するメカニズムもほとんど明らかになっていないのが現状ですが、意外にも僕たち釣り人にとって身近な魚でも性転換する魚が確認されているんです。
性転換することで外見も変化する魚
身近な魚にも性転換を起こす魚がいます

堤防で魚釣りをしていると、色鮮やかなベラの仲間が掛かってきますよね。
じつは、外道扱いしているベラ達も性転換する魚として知られています。
キュウセンはメスからオスに変化する過程で色を変える

ベラの仲間でありながら、関西地方などでは美味しい魚として喜ばれる『キュウセン』。メスの頃は赤っぽい体色をしていますが、オスに性転換すると緑がかった体色に変化します。
ベラの仲間は一般的に、群れの中でも最も大きい個体がメスからオスへ性転換します。
コブダイは雌雄で形が違います

同じくベラの仲間であるコブダイは、メスからオスに変化するとオデコのコブが大きく発達します。
いかにも群れのリーダーっていう姿ですよね。
▼コブダイについての詳しい記事はコチラ!
メスからオスへ性転換する身近な魚
ハタの仲間はメスからオスへ性転換する

ハタの仲間は、先ほど紹介したベラの仲間と同様にメスからオスへと性転換します。
性転換する魚種の多くは“メスからオス”に変化し、これを専門用語で「雌性先熟(しせいせんじゅく)」と言います。
キジハタの性転換は30cm前後と言われるが……

キジハタのメスからオスへの性転換が起こる大きさは、一般的に30cm前後と言われています。
しかしながら、40cmでメスの個体や、25cmでオスの個体も確認されていたり、年齢で調べても雌雄が重複することから、必ずしも大きさや年齢で一斉に性転換が起こる訳ではないと考えられています。
また、先ほど紹介したベラの仲間と異なり、キジハタの性転換は繁殖期(夏)以外の生殖腺の活動が不活発な時に、生息密度や栄養状態、水温など様々な要因により起こると考えられています。
オオモンハタやクエも性転換します

アカハタやオオモンハタ、マハタやクエも雌性先熟の性転換を行うことが知られています。
キジハタ同様に、性転換を起こす具体的な要因は明らかになっていません。
オスからメスへ性転換する身近な魚
オスからメスへの性転換は少数派

ハタやベラの仲間と真逆で、“オスからメス”への性転換を「雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)」と言います。
雄性先熟を行う魚種は雌性先熟に比べて少数派ですが、釣り人の身近な魚でも確認されています。
クロダイの性転換は遺伝的にプログラムされている?

ハタやベラの仲間が年齢と関係なく性転換を起こしているのに対し、クロダイやキチヌを始めとするヘダイの仲間は年齢によって性転換するのではないかと考えられています。
ちなみに、クロダイは4~5歳でオスからメスへ性転換することが知られています。
また、全てのオスがメス化する訳ではなく、雌性ホルモン量が少ない個体はメス化しない場合もあるようです。
幻のあの魚も性転換するかもしれない?
日本の固有種“アカメ”もじつは性転換する魚かも?!

先にも述べたように、性転換する魚は僕たちが想像する以上に多いかもしれません。
例えば、釣り人の間で幻の魚とも呼ばれる『アカメ』も、100cm前後を境にして雄性先熟の性転換をするのではないかと言われています。
近縁種“バラマンディ”は性転換する魚として知られている

アカメと近しい種類のバラマンディという魚は、魚体の大きさによって雄性先熟の性転換をすると言われています。
バラマンディがオスからメスへ転換する大きさは、概ね85cm前後という説もあるようですが、幼魚期の成長速度によって性転換する大きさが変化するとも言われており、詳しいことはまだまだ謎が多いようです。
生き物の生態は面白いですね

今回は、魚達の性転換という繁殖生態をご紹介しました。
まだまだ、謎に包まれた世界ですが生き物の進化って面白いですよね!
これからも、魚の面白い生態をご紹介していきたいなと思っています。
筆者紹介
山根央之(やまねひろゆき)
初めての1匹との出会いに最も価値を置き、世界中何処へでも行く怪魚ハンター山根ブラザーズの兄。餌・ルアー問わず、もはや釣りに限らず。ガサガサや漁業者と協力してまでも、まだ見ぬ生き物を追い求め、日々水辺に立っている。
テレビ東京・緊急SOS池の水全部抜くやNHK・ダーウィンが来た、TBS・VSリアルガチ危険生物などに出演したり、魚類生態調査に参加したりと幅広く活動中。
どえらい魚を獲った!もはや釣りを越えて!色んな人と繋がって!特大天然メコンオオナマズ! 240 cm175 kg 捕獲です!!ホント色んな人に助けられてこの魚と出会うことができました!メコンオオナマズに関わる全ての人に感謝でいっぱいです!! pic.twitter.com/JHWpNdLAvX
— 山根ブラザーズ(兄)@kimi (@chillkimi) September 16, 2017