アリゲーターガーとの出会いが人生を変えた
ガーと山根ブラザーズ

14年前の2010年8月。僕たち山根兄弟は、2mを優に超えるアリゲーターガーをアメリカで釣り上げました。
この川は、大小様々なガー達がひっきりなしに水面を割って呼吸する、まさに“ガーの楽園”。
1億年前から姿を変えずに生き残るガーとの出会いは、僕たち兄弟の人生に大きな影響を与えることになります。
いつかトロピカルガーを釣りに行きたい

この時にアリゲーターガーを釣り上げて以来、中央アメリカに生息すると言われる「トロピカルジャイアントガー」の存在が常に頭の片隅にちらついていました。
でもそれはモヤっとした目標で、他にも釣りたい魚が世界中に溢れていて、それが実現したのは14年後。
目標が記憶に変わった今、この時の様子を釣行記として書かせていただきます。
トロピカルガーとニカラグア湖
トロピカルガーとは

トロピカルガー(Atractosteus tropicus)は、日本の観賞魚業界では「トロピカルジャイアントガー(略してトロジャン)」という呼び名で親しまれてきた、アリゲーターガーに近い種類のガーです。
最大サイズや魚体の特徴については諸説ありますが、なにせ治安の安定しない中米が棲息域とあって、“謎多きガー”と言えます。
トロピカルガーの基本情報
- 主な生息域:メキシコ/グアテマラ/エルサルバドル/ホンジュラス/ニカラグア/コスタリカ
- 最大サイズ:120~130cm
- 主な呼び名と産地:トロピカルジャイアントガー/メキシコおよびグアテマラ、チャパシウスガー/メキシコ チアパス川、ニカラグアガー/マナグア湖やニカラグア湖周辺
現地情報の収集に努めたら……

情報が少ない魚を釣るには、まずは現地情報を収集して精度を高める必要があります。
近年は、SNSを駆使することで現場から発信される確度の高い情報が集められるようになりました。
すると、メキシコ南部からコスタリカに生息し、少なくともニカラグア湖周辺では珍しくない魚ということが分かってきました。
ニカラグア共和国とニカラグア湖について

ニカラグア湖は、中央アメリカのニカラグア共和国にある面積8029km2(琵琶湖の約12倍)という巨大な淡水湖です。
ニカラグア共和国といえば、内戦を繰り返してきた歴史や、度重なる地震と台風による被害が思い浮かぶ人も多いでしょう。
また、「治安の悪い国」というイメージも強いニカラグアですが、最近では都市部を除けば中米としては比較的安定していると言われます。
ニカラグア湖に生息する魚

ニカラグア湖について調べを進めると、これまた面白いフィールドなんです。
この地域でしか出会えないアメリカンシクリッドは想像通りだったのですが……
ニカラグア湖(湖面標高32m)は、カリブ海と堰やダムがまったくないサンフアン川で繋がっており、流程190kmもの距離をターポンやオオメジロザメ、ノコギリエイ、スヌークといった多くの海産魚が遡上してくるというのです!
大運河計画の存在

貴重な環境が残されているニカラグア湖ですが、カリブ海と太平洋を繋ぐ「ニカラグア大運河計画」があるそうです。
実現性はさておきまして、「完成したら本来のニカラグア湖から大きく変わるなぁ」と、パナマ運河を訪れたことがある僕には容易に想像できました。
2週間の中米釣行

ニカラグア湖を見てみたい。アカメアマガエルも捕まえたい。アメリカンシクリッドも集めたい。ターポンも釣りたい。
ジャイアントホークフィッシュもルースターフィッシュも……あれもこれも釣りたい。
2週間の旅に沢山の付録的な目標も付け加えると、僕のモチベーションは一気に高まりました!
2024年元旦、コスタリカ入国
標高1100mの首都

飛行機を降りてまず感じたのは涼しさでした。
それもそのはず、コスタリカの首都サンホセは標高1100m付近の山岳地帯にあるため、気候的にとても過ごしやすい街なんです。
ちなみに、コスタリカは国土の25%が自然保護区に指定されており、エコツーリズムに特化した国と言われています。
空港のATMで現地通貨「コロン」を引き出し、配車アプリUberを使ってバスターミナルを目指し、ローカルバスに乗り込みました。
中継地の街

バスを乗り継ぎながら数時間移動したものの、最終目的地まではたどり着けず、ニカラグア湖と繋がる川が流れる街で一泊することになりました。
僕の下調べによると、この川の上流域が氾濫原になっていてガーの生息環境としては打ってつけ。
SNS上ではこの川での釣果情報も散見されていましたし、街を歩くとガーのモニュメントや絵があって期待感が増していきます。
この川には沢山いるらしい

川辺が釣り人で賑わっていたので、聞き込みも兼ね、現地人に混じって小物釣りを楽しんでみます。
すると、皆が口をそろえて「この川にガーは沢山いるよ!」って。
もうね、この瞬間が僕は大好きです。
マイナーな魚を狙う時の大きな醍醐味を噛みしめながら、ゴキブリがやたら多い宿で一夜を明かしました。
陸っぱりでトロピカルガーを狙う
1月2日、閑散とした川辺

翌早朝、バスターミナルの天井で休むツバメを追い払った人と、それが原因で糞を掛けられたという人の口論がエスカレートして喧嘩に。
そんな危なっかしい雰囲気からのスタートでしたが、無事に最終目的地へと到着しました。
思ったよりも川辺に人は少なく、ボートに乗せてもらおうにも、エコツーリズム用の観光船ばかりでどこも高額。
初めてのコスタリカはイマイチ勝手が分からず、初日は陸っぱりでガーを狙ってみることにしました。
ガーは沢山いた

泥濘に時々足を取られながら川辺を散策していると、ガーやターポンの呼吸をこの目で見れたのです。
それもガーの呼吸は1度や2度ではなく、数分に1度のペースで頻発。
サイズこそ小さいものばかりですが、14年前のアメリカと同じような光景に感動しました。
ガーは獰猛ではありません

じつは、ガーという魚は大群でいることも珍しくないのですが、ルアーや餌を放り込めばすぐに掛かってくるワケじゃないんです。
その見た目から獰猛なイメージがあるかもしれませんが、本性は正反対。大人しくって、のんびり屋さん。
つまり、釣りの対象としては少々難しい魚なんです。
餌取りに悩まされながら

様々なルアーを投入してみますがヒットせず、クランクベイトに掛かってきたジャガーシクリッドを切り身にして餌釣りで狙ってみることに。
すると、15cm前後のナマズの仲間がいるようで、着底するや否や切り身に群がってきます。
切り身を大きくしてじっくり待つと、ガーらしいアタリは出たものの針掛かりせず、初日は終了となってしまいました。
憧れと対峙
エコツアー先進国の本領発揮

暇そうにしている船頭と交渉する“いつものスタイル”が通用しなかったので、奮発してエコツアー会社で1日貸し切りプランをお願いすることに。
エコツアー大国なだけあって業者はいくつもありましたが、事前に下調べして良さそうだと思った船に決めました。
フィッシングプランと言いながら、「カイマン(ワニ)や野鳥を見せられて終わりにならないと良いな……」なんて小さな心配事をしながら、Wi-Fi爆速の宿で快眠。
前夜の心配は杞憂に終わった

翌朝、船着き場で待っていると、生け簀に活き餌をたっぷり積んだフィッシングボートがやってきました。
簡単な挨拶を済ませると、「ホントにターポンは要らないんだね? ガー狙いで良いんだね?」って念押ししてくるガイド。
内心では「ターポンも釣りたいケド……」と思っていましたが、今回は1日で決着を着けるために目標を明確にします。
ガーフィッシングのアドバイス

トロピカルガーは沢山いるけど、すぐには食らいつかない。
あれは呼吸をしているだけで、ライズじゃない。
とにかく、じっくり待つことが大切だ。
アタリが出たら、ラインを送ってガーが止まるまで待つんだ。
虫除けスプレーなんてお構いなしに集ってくる藪蚊を叩きながら、ガイドの丁寧なガーフィッシング講座を受けます。
緊張と期待が交錯する瞬間

手のひらが蚊の亡骸で汚れるくらい待った頃、ドラグを緩めたカルコンMDから、カチッ……カチカチカチチチッ! っとラインが引き出されました。
タイミングを見計らって大きくアワセを入れると、30m程先でバシャバシャッとヘッドシェイク!
紛れもなく、ガーの跳ね方!
それも1m以上ありそうな予感です。
ファイトの醍醐味はジャンプ

イメージと真逆だと思いますが、ガーのファイトって優雅でおしとやか。
端的に言うと、全然引きません。
でもやっぱり、ジャンプだけは大迫力です!
大きな魚と小さな網

デカい! デカい!
と大興奮のガイドが手にしたのは、小さなランディングネット。
「やばそうだなー」って思いながらも、針掛かりが良さそうなので任せてみることに……。
ついにトロピカルガーを釣獲

トロピカルガーが船に上がった瞬間、抑え込んでいた感情が爆発しました。
こればかりは、なにものにも代えがたい、釣り人だけが味わえる特別な感覚です。
嬉しさ。安堵。そしてほんの少しだけ、また1つ目標を失ってしまった喪失感。
もうね、最高です。
トロピカルガーは旨かった
リリース後に聞かされた衝撃の事実

トロピカルガーをリリースして余韻に浸っていると、この川ではガーをキープできることを知らされます。
ニカラグアでは水産資源として利用されていると知っていたのですが、まさかキープできたとは。
「食べる文化のある魚は、一度は食べてみたい」という価値観を持っているので、2匹目を狙うモチベーションが高まりました。
シエスタ前に1匹追加

昼食前に、ガイドの竿にアタリが出てアベレージサイズのトロピカルガーをキャッチ。
早速、ガイドの家でクッキング開始!
強固なガノイン鱗(原子魚類に多くみられる非常に硬い鱗)はマチェットで削ぐように切り落とし、三枚おろしにしてもらいました。
フリートが激旨

たっぷりのレモンで下味をつけたガーのフリートは絶品! 激旨!
脂はさほど感じませんが、パサパサしているワケではなく、噛むとさっぱりとした肉汁がジュワっと染み出してきます。
鮮度が抜群だったせいか、臭みは皆無。伝わらないと思いますが、肉質や味はピラルクに近かったですね。
ルアーで130cm級をゲット

午後からは、ルアーも使いながら引き続きトロピカルガーを狙っていくと、130cmの巨大なトロピカルガーをクランクベイトでキャッチ!
なんとこれが、世界記録まであと2.5kgという大きさ!
今回の中米釣行、幸先が良すぎます。
後編に続く

実釣2日目にして14年来の目標に到達したわけですが、この時、その後に待ち受ける過酷な釣行を知る由もありませんでした。
後編では、ニカラグアへと越境し、巨大湖とカリブ海での釣行をお届けします。
▼後編はコチラ
撮影:山根央之