2年連続、長崎沖にバショウカジキの群れがやってきた

2024年9月。SNSにバショウカジキの釣果が立て続けにアップされていることに気付き、調べてみると——長崎県沖に大規模な群れが来遊しているとのことでした。
年末に海外遠征を控えた僕は、金銭的に挑戦できず指をくわえて見ているだけでした……。
しかし、2025年も来遊してきたと聞いて、いても立ってもいられず急行してきました。
バショウカジキ(セイルフィッシュ)とは
帆を持つ巨大魚

芭蕉(ばしょう)の葉のような大きな背ビレを持つことからバショウカジキと呼ばれるこの魚。魚好きなら一度は図鑑で見たことがあるでしょう。
英語では帆(Sail)を持つ魚という意味で“セイルフィッシュ(Sailfish)”と呼ばれます。
山根
今回の釣行で何度も観察したバショウカジキの背ビレは、急旋回や急ブレーキの際、さらには小魚の群れに迫る瞬間に大きく広がっていました。
見た目だけでなく、実際に機能していることに感動しました。
カジキの仲間

バショウカジキは最大で3m前後に成長し、カジキの仲間としては最も岸近くまで回遊する種類と言えるでしょう。
時に数十匹もの群れを形成し、イワシなどの小魚を追いまわしながら捕食する行動は釣り人だけでなくダイバーからも人気があります。
キャスティングで狙えます

そんなカジキですが、釣るとなると『トローリング』というイメージがあるかもしれません。
確かにバショウカジキはトローリングで狙うターゲットでもありますが、シイラやキハダを狙う感覚でキャスティングで釣ることもできるんです。
情報を聞きつけ長崎へ急行!

バショウカジキは世界中の亜熱帯から熱帯地域に生息しています。
海外釣行のついでに、いつか釣るチャンスが来るだろうと思っていましたが……。
気付けば30年以上生きてきても、まだ機会は訪れないまま。
2025年8月、今年も長崎県沖にバショウカジキが来遊したとの連絡を受け、すぐに九州行きのチケットを購入しました。

LCCが数多く就航する福岡空港に到着し、レンタカーに乗り込み釣具屋を目指します。
同船者は弟のマサと友人のかけるさん。スケジュールの関係で実釣はたった1日だけ。
山根
短期決戦でも絶対にバショウカジキを釣りたい僕たちは、船長に許可をもらった上で秘策を用意していました。
絶対に釣るために立てた作戦
活きアジを確保

秘策とは……ルアーに寄ってきたカジキを、活き餌で狙う作戦です。
平たく言えば泳がせ釣りですが、船長も「そんな釣り方はやったことがない」とのこと。

夕マヅメ。夜の間に活きアジが全滅した時に備え、アジやサバが釣れる場所を探しましたが、釣れるのはネンブツダイばかり……。
それでも投げサビキで10cm前後のアジを確保できたので、バッカンを分けてキープ。
海水温が高いため、車内で氷を使い徹底的に温度管理しました。
フックバランスを研究

もちろん、餌だけでなくルアーでも真剣にバショウカジキを狙っていきます。
この日のために作ってきたバタフライフックをルアーに装着してスイムテストを行います。
山根
トレブルフックでは、ほぼフッキングしないと言われているんです。
当たらない天気予報
好転待機

実釣当日、朝になって天気予報が曇りから雨に変わってしまいました。
ウネリも残っており、7時出船の予定が10時まで好転待機に。
船酔いしながらカジキを探す

中止にするかどうか、船長を含め皆で悩みました。(正直、僕は中止だろうと思っていました)
しかしレーダーや最新の予報を確認した船長は「昼ごろから釣りになる」と判断し、出船を決断。
船酔いに耐えながら、皆でカジキの跳ねや鳥山を探していきます。
ジャンプしたらしいぞ

雲の隙間から晴れ間が見えてきた頃、今日初めてのジャンプを船長が見つけました!
その後、13時、14時と時間が進むにつれ、船はどんどん港から遠ざかっていきます。
海鳥の数が増え、海面にはキラキラと光るウロコも散らばり始めました。
山根
そして——ついに、バショウカジキの群れに遭遇しました。
終了間際にカジキの群れに遭遇
船の周りにバショウカジキがいっぱい

この写真は、海面でバショウカジキが背ビレをバッと広げた瞬間です。
ウルメイワシの群れに回り込み、まるで通せん坊するかのような動きに見えました。
直後には「バシャバシャッ!」と水柱が上がり、ビル(角)でイワシ玉を叩きつけているのでは——そう想像させる行動です。

全身を海面に叩きつけるようなジャンプを何度も繰り返すカジキも多く、なかには大きな半円を描くように連続して跳ぶ個体もいました。
船長によれば、その音と衝撃でウルメイワシの群れを散らしたり、逆に固めたり——何らかの追い込み作戦をしているのではないかとのこと。
山根
もちろん釣り上げたい気持ちはありましたが、バショウカジキの狩りを船上から観察できただけでも、長崎まで来た甲斐があったと感じます。
あの光景は、最高にエキサイティングでした。
ルアーにもチェイス

そうこうするうちに、マサとかけるさんのルアーにバショウカジキがチェイスしてきました。
「本当にポッパーを追ってきた!しかも、めちゃくちゃゆっくり!」
マサが興奮気味に声を上げます。
僕はルアーを投げたい衝動を抑え、生け簀のある船尾で待機。
アジを投げられる距離にカジキが入ってくるのをじっと待ちました。
アジに針をつけて合図を待つ

この時のために大切に活かしておいたアジに目通しをして、準備完了。
仕掛けはシンプルに、リーダーの先へ菅ムロ26号を結んだだけです。
豪快なテイルウォークに歓喜喝采
カジキに向かって活アジ投入

時刻は15時を回り、そろそろ帰らなければならない時間。
しかし周囲ではカジキが跳ね回り、あちこちで鳥山が立つ絶好の条件が広がっていました。
「チャンスは一度きりだろう」と覚悟していると、船長の声が響きます。
「そこ(左舷)にカジキおる!アジ投げて!」
急いで左舷に回ると、4尾のカジキが船に向かって泳いでくるではありませんか。
ミヨシにいたマサによれば、ウルメイワシの群れが船の陰に隠れようと寄ってきたとのこと。
そのイワシ玉と船の間にカジキが割り込んできたため、進行方向へ迷わずアジを投入しました。
ジャンプを繰り返すセイルフィッシュ

投入から10秒後。
「ガガガッ」と手元に伝わる感触。糸を軽く張ると、確かな重みがありました。次の瞬間、「パラパラッ」とスプールからラインが走り出します。
どれくらい呑ませるべきかとアワセのタイミングを計っていると——突如、「ドバドバーッ」とテイルウォーク!
餌を吐き出される、と直感。慌ててアワセを入れました。
極度の緊張ファイト

その後もカジキは何度も跳ね回り、船上は大盛り上がり。
僕はバレないかと不安でたまりませんでしたが、つい見入ってしまうほどの大迫力でした。
船長の的確なアシストもあり、カジキをうまくコントロール。
最後は船長とかけるさんが力を合わせ、船へと引き揚げてくれました。
ついに釣り上げました!

もう……カッコ良すぎて、手も膝も震えが止まりません。
子供の頃から憧れていたバショウカジキを、仲間と、そしてアジの力を借りて釣り上げることができました。
背ビレだけでなく、腹ビレも下顎も、時に真っ青に染まる模様も——分かっていたはずなのに、目の前で見るとやはり格別です。
背ビレは想像より柔らかく、弾力がありました。
山根
船上で狩りを観察できただけでも満足しかけていましたが、実際に触れて感じる感動はまた別物。
魚釣りってやっぱりいいな、と改めて思いました。
ルアーにもヒットするが
写真撮影後にもチャンスあり

時間が押しているにもかかわらず、船長は周囲に漂うカジキの気配を感じ取り、再び鳥山を追ってくれました。
僕はフックを外したポッパーでティーザー(集魚)役を務めると、カジキがそのビルでポッパーを叩いてきます。
そして——ルアーをシンペンに替えたマサに、ついにヒット!
ルアーはやっぱり……

ジャンプを繰り返しながら、船に向かって突進してくるカジキ。
マサも必死にリールを高速で巻きますが……無念のフックオフ。
その後も短時間で3度のバイトを得たものの、キャッチには至らず。
タイムアップとなりました。
餌釣りとルアー、どっちが良いの?

群れているバショウカジキのルアーへの反応は想像以上に良好でした。
この状況が朝から続いていれば、ルアーで何本も釣れたのでは——そう感じるほどです。
餌釣りは一度バイトを得られれば高確率でキャッチできますが、ルアーに寄ってきた個体を横取りする形にもなるため、同船者の理解が必要になります。
さらに、射程までカジキが寄るのを待つ忍耐力や、アジを良好な状態で管理する技術も欠かせません。
あれだけ跳ねたりルアーにチェイスしてくるのに、ギリギリまで餌の投入を我慢するのは大変です。
山根
正直なところ、鳥山や跳ねているカジキを見つけて釣るスタイルなら、ルアーの方が簡単かもしれません。
バショウカジキは美味でした

この時期のバショウカジキは旨いと噂に聞いていたため、今回はキープすることにしました。
船長にノコギリを借り、バラバラに解体してクーラーへ収めます。
その後は皆で山分けし、ビルは剥製屋へと送りました。
\剥製を特集した記事です/
バショウカジキの刺身

釣りを終え、翌日には神奈川へ帰宅。さっそくバショウカジキを調理しました。
まずは刺身。思った以上に赤身で驚きました。
マグロほどではないものの、ほどよく脂がのり、鮮度の良さからか歯ごたえもあり、とても美味しかったです。
ユッケ

背骨に付いた身、いわゆる中落ちを叩き、ネギトロ風の一品に仕上げました。
まるでユッケのようで、激旨。ご飯がどんどん進みます。
一番旨かったのはレアカツ

船長から「火を通した方が旨い」と聞いていたので、レアカツに挑戦しました。
揚げ時間はおよそ2分。絶妙な火の通り加減で仕上がり、一口食べれば思わず唸る美味しさです。
火を入れることで身がほどよく締まり、柔らかな赤身と合わさってまるで肉のような食感に。
山根
ソースやタルタルも合いますが、ワサビ醤油との相性は格別でした。
バショウカジキに付いていた寄生虫

美味しいと評しておきながら、最後に食欲を削ぐ話で恐縮ですが……さすが大型魚、寄生虫も確認されました。
体表にはカジキジラミが付着し、筋肉中にはウニのようなオレンジ色の流体が。
調べたところ、これは「ディディモゾーン」という寄生虫で、人には無害とのことです。
釣り船&タックル
バショウカジキ釣りに挑戦したい方へ、遊漁船とタックルについて簡単にご紹介します。
フィッシング・キャッツ(Fishing Cats)

今回は、長崎県長崎市から出航する遊漁船『Fishing Cats』を利用しました。
バショウカジキのシーズンは8月と9月(※来遊状況は要確認)。
カジキ狙いの乗合便もあるため、仲間を集めなくてもチャレンジ可能です。
山根
1投もせずにクルージングで終わってしまう覚悟も必要な釣りということをお忘れなく。
シイラタックルがベストかも

最後に(まともにルアーを投げていない)僕が感じた、長崎沖でのバショウカジキ狙いに適したタックルバランスをお伝えします。
使用するルアーは想像より小さく、10〜15cm程度のポッパーやシンペン、ミノー(マレーシアではピンクが人気)でした。
感覚的には、シイラロッドに6000〜8000番のエキストラハイギアリール、PE3〜4号300m、ナイロンリーダー100lb×1.5mが良いと感じます。
ヒラマサやGTタックルでも対応可能ですが、バショウカジキの引きに対してはややオーバーパワーに感じるかもしれません。
山根
フックアップ率は極めて低く(5〜20%程度の感覚)、ジャンプでバレやすい魚のため、竿をしなやかに曲げられるシイラタックルの方が適していると感じました。
フックはルアーごとに自作した方が良い

セイルフィッシュはトレブルフックでのフッキング率が極めて低い——これは世界的にも知られた事実です。
実際、Fishing Catsに乗船する多くの釣り人は、ジギング用アシストフックでキャッチしているとのこと。
山根
僕たちは今回、海外のセイルフィッシュ釣りで定評のある蝶針(バタフライフック)を自作して臨みました。
▶︎オススメアイテム

シーバス用のシンペンにはサワラ用ブレードフックを。
シイラや近海青物用のプラグには、菅を曲げたパイク タイプRやタマン針(やや重すぎるかもしれません)を使って自作しました。
コツは、ルアーがしっかり泳ぐようにフックの大きさやスプリットリング、スイベルの数を調整すること。ルアーが綺麗に泳ぐのであれば、フック同士が絡むのは仕方ないと割り切っていました。
バタフライフックの作り方はシンプルです。2本のフックをスプリットリングに通し、セキ糸で巻き、瞬間接着剤で固定します。
デコイ パイク タイプR 3/0
サイズ | 3/0 |
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入数 | 5本 |
ヴァンフック ブレードワークス BG Single
サイズ | #1, 1/0, 2/0, 3/0 |
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使用ルアー
マリア ポップクイーンF130
サイズ | 130mm |
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重さ | 37g |
ちなみに今回の釣行でバイトやチェイスがあったルアーは、ポップクイーンF130とヘビーショット105。
デュエル ヘビーショット105
サイズ | 105mm |
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重さ | 30g |
マサがファイトまで持ち込んだのは、ヘビーショット105にブレードワークスBGシングル3/0を蝶針チューンしたものでした。
泳がせ釣り用の針
オーナー ムツ ライトサークル4/0
サイズ | 4/0 |
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泳がせ釣り用の針については、もっと小さく軽いものの方が良かったと感じました。
餌のサイズにもよりますが、菅ムロなら22〜24号。さらに細軸の針も用意しておくと安心です。
ちなみにマレーシアではリリースが前提のため、サークルフック(ムツライトサークル4/0〜5/0が人気)が主流。
船長と魚の扱い方を相談した上、フックを選ぶと良いでしょう。
夢のバショウカジキにチャレンジしてみては!?

今回は、セイルフィッシュことバショウカジキを長崎県で狙った釣行記をお届けしました。
マレーシアで手堅く狙うのも一つの選択肢ですが、「海外はちょっと……」という方でも、日本でチャレンジできると身をもって実感しました。
興味のある方は、ぜひ長崎を訪れてみてはいかがでしょうか。
撮影:山根央之