魚釣りは未来永劫楽しめるのか?

みなさん、「魚釣りは未来永劫楽しめる趣味」だと思っていませんか?
たしかに、そう信じたくなる気持ちはわかります。でも、僕にとってその答えはNOです。
というのも、魚が絶滅してしまったり、保護対象になったりすれば、その魚を釣る楽しみは失われてしまいますよね。
さらに、釣り場そのものが立ち入り禁止や釣り禁止になるケースも、近年では決して珍しくありません。
だからこそ、僕は「いつか」ではなく「今」、釣りに出かけることを大切にしています。
山根
世界中を旅しながら、あの初めての“一ピキ”を求めて——その喜びを、未来に持ち越せる保証はないのですから。
次々と採集禁止となるタナゴの仲間

日本の淡水魚の中でも、飼育や釣りの対象として根強い人気を誇るのが「タナゴ」です。
国内には外来種を含め、12種9亜種、あわせて18種類のタナゴの仲間が生息しているとされています。
体長は大きくても10cm前後と小柄ながら、繁殖期のオスがまとう婚姻色は、まさに息をのむような美しさ。
とくに自然河川で釣り針に掛かった瞬間にだけ現れるその鮮やかな色彩は、釣り人や採集者にしか見られない、ひときわ特別な輝きです。
採集が禁止されている種類

現在、18種類いるタナゴの仲間のうち、5種類(イタセンパラ・ミヤコタナゴ・スイゲンゼニタナゴ・セボシタビラ・ゼニタナゴ)は、許可なしに採集することが法律で禁じられています。
中でもセボシタビラは2020年に「国内希少野生動植物種」に、ゼニタナゴは2025年に「特定第一種国内希少野生動植物種」に指定されるなど、近年立て続けに採集が規制される種が増えてきました。
加えて、これら以外の種類でも、地域によっては採集や持ち帰りが禁止されている場合があります。
山根
タナゴを観察・採集する際には、地域ごとのルールや保護状況を事前に確認することが大切です。
「もう二度と会えないかもしれない」──婚姻色のミナミアカヒレタビラを追う

セボシタビラ、ゼニタナゴと、相次いで採集が禁止されたことで、もはや国内外来種として生息域を拡大している種を除けば、どのタナゴもいつ採集禁止になってもおかしくない——そんな危機感を、個人的には強く抱くようになりました。
1974年から採集禁止となっているイタセンパラやミヤコタナゴ、2002年から禁止されているスイゲンゼニタナゴを除けば、全ての種類のタナゴを釣り上げてきています。
しかし、唯一まだ婚姻色に染まったミナミアカヒレタビラを釣ったことがないという事実に、僕は焦りを感じました。
そして10年ほど前、初めてその魚を求めて訪れた北陸の釣り場へ、再び足を運ぶことにしたのです。
立ち入り禁止になっていた

ところが、釣り場に着いて愕然としました。なんと、釣り禁止になっていたのです。
以前、カゼトゲタナゴの釣り場を再訪したときも、水路ごと消えていてショックを受けましたが──
今回は目の前に、婚姻色バチバチのミナミアカヒレタビラがたくさん泳いでいるのに、触れ合えないというやるせなさが残りました。
激濁りする用水路

時を同じくして、ミナミアカヒレタビラを探していた友人から、「出張先で婚姻色の出た個体を釣った」と連絡が入りました。
いてもたってもいられず、その場所へ急行。
しかし現地は、田んぼの代掻きによる激しい濁りで、水中の様子はまったく見えなくなっていました。
釣れるのはブルーギルばかり

ミナミアカヒレタビラは、富山から島根にかけての日本海側に断続的に分布していますが、自宅のある関東からはそう気軽に通える距離ではありません。
せっかく来たのだからと気合を入れて、激濁りの中で竿を出してみたものの、釣れるのはブルーギルばかり。
山根
なお、島根・鳥取・富山・福井の一部地域では、ミナミアカヒレタビラの採集が禁止されています。
ついに、真っ青な魚体が水面を割った!
それでも友人の言葉を信じ、この水域のどこかにいるはずのミナミアカヒレタビラを求めて探し回っていると──

これです! これこれ!
どうしてもこの婚姻色が見たくて……、もう見られなくなるかもしれないと思って……、はるばるこの場所まで来たんです。

水槽に移して写真を撮っているあいだ、本当に幸せなひとときでした。
またいつか釣りに来たい。でも、もしかしたらそれは叶わないかもしれない──そう覚悟しながら、じっくり観察しました。
“一ピキ”で大満足だった

ミナミアカヒレタビラを元いた場所にそっと逃がし、たった1匹でしたが、それでも充分に満足した僕は、静かに釣り場を後にしました。
友人には感謝の気持ちを伝えるとともに、ある写真を添えて、ずっと気になっていたことを確認してもらいました。
山根
じつは、以前TSURI HACKに書かせていただいた北関東のアカヒレタビラの記事に出てくる魚が「アカヒレタビラではないのでは?」というご指摘を頂戴しておりまして……。
アカヒレタビラの生息地を再訪

疑惑のタナゴが、こちら。
僕はアカヒレタビラだと思っていたのですが、友人の見解では、どうもタナゴ(マタナゴ)とアカヒレタビラの交雑個体ではないか、とのことでした。
当時の僕は言うと、「“一ピキ”で満足!」なんて言いながら釣り場を後にしていたもので、本物のアカヒレタビラの婚姻色を、結局まだ釣ったことがないという事実が発覚してしまいました。
たしかに川にはタナゴもいましたし、魚体や背ビレの色合いはタナゴ寄り……? でも腹ビレは白いし、体高もタナゴより高い気がするし……。
いやもう、タナゴの見分け方って、本当に難しいんです。
恐る恐る再訪してみると

釣り場が残っているか心配しながら、数年ぶりに再訪すると──
あの小川は、当時と変わらず穏やかに流れていました。
タナゴ針に黄身練りをつけて、雌のアカヒレタビラを釣り続けること20分。
そしてついに──ギラッと青く輝く魚がヒット!
アカヒレタビラのオスをゲット

上がってきたのは綺麗に発色したアカヒレタビラです。
まさかこの釣り座で二度も感動を味わうことになるなんて思ってもみませんでした!
タナゴも釣れました

ちなみに、同じ小川の中でも、ほんの少し場所を移動するだけでタナゴが掛かってきます。
山根
ということで、少し遅くなってしまいましたが──今回の釣果を機に、アカヒレタビラの記事の写真を差し替えさせていただければと思います……。
魚と触れ合える未来のために

最後は少し脱線気味になりましたが、今回は「魚釣りは未来永劫楽しめるものではない」──そんな現実を、身近に実感することになったタナゴ釣行記をお届けしました。
もちろん、生息環境が脅かされている魚の採集禁止は、やむを得ない措置でしょう。
一方で、生息数や環境が回復した際には、かつてのように、誰もが触れ合えるルールへと戻してほしい──そんな思いもあります。

たとえば「シロチョウザメ」という魚は、かつて全面禁漁となっていたものの、保護の成果によって個体数が回復し、現在では一般の釣り人が竿を出せるようになっています。
いつかきっと、セボシタビラやゼニタナゴと、もう一度竿を通じて出会える日が来ることを──心から願ってやみません。