ハイギョ(肺魚)について
ハイギョが出現した年代

ハイギョの仲間は、シーラカンスと同年代のデボン紀、すなわち4億年前に出現したとされています。
ちなみに、恐竜が出現したのが2億3千万年前、爬虫類が出現したのが3億年前。
恐竜よりも遥か昔に出現した魚が今もなお生き残っているって凄いですよね!
空気を使って呼吸する魚

ハイギョ(肺魚/lung fish)はその名の通り、一対の肺(lung)を持ちます。
そのため、川が干上がりそうになると川底に穴を掘って繭を作り、陸上と化した土の中で数年ものあいだ生き続けられるんです。
ハイギョの仲間はアフリカに4種、オーストラリアに1種、南米に1種の、6種類が現生しています。
ハイギョとヒトとシーラカンス

普段、僕達が釣ったり食べたりしているアジやヒラメ、ニジマス、ウナギといった魚は、そのほとんどが“条鰭類(じょうきるい)”に該当します。
一方で、ハイギョは“肉鰭類(にくきるい)”に該当し、現生する肉鰭類はハイギョとシーラカンスの仲間だけです。
そして、僕達“ヒト”を含める多くの四肢動物は「肉鰭類から進化した」と考えられています。
山根
語り出したらキリがない超古代魚を実際に釣って観察したくて、アフリカまで行ってきました!
アフリカの湿地を歩きまわる
Google Earthで目星をつけた町で聞き込み

タンガニーカパーチ釣りを終えた僕は、湿地の広がる小さな町に移動し、次なる目標であるハイギョを探し始めました。
まずは写真を見せながら聞き込みますが、半分くらいの人がハイギョを知らないと言います。
好反応を示す人がいても、「知ってるぜ!ナマズのことだろ!」、「獲ってきてやるぜ!ポイントが遠いからガソリンが必要だ」、「俺はナンバーワン漁師だ任せろ!」といった具合で怪しさマックス。
「船で湖に釣りに行こう!」、これはと思いきや……「船を修理する金をくれ」。
もう、なんでもかんでも二言目にはお金頂戴です。
山根
ハイギョは湿地を好む魚なので、湖へ行くと言っている時点で怪しいんですけどね。
▼タンガニーカパーチ編はコチラ
この町の中にもいると思うんだけど

ハイギョは食料資源として利用されるものだと思い込んでいましたが、この町ではまったく食べれられていないようで、市場でも情報は集まりません。
聞き込みで分かったことは、ハイギョが“ンソンポ”と呼ばれていることくらい。あと、怖くて危ない魚ということ。
それでも、1日歩きまわったことでハイギョが好みそうな環境かつ釣りができそうな場所がいくつか見つかりました。
取り敢えず、釣りをしてみよう

僕が釣り場に選んだのは、“ブカ”と呼ばれる小型のアカメの仲間が水揚げされる港です。
水生植物が沢山あって、水深が1m程度と浅く、泥底。周囲の地形から湿地に造られた港ということが分かります。
港を選んだ理由は、アラ捨て場にハイギョやナマズなんかが集まっているのでは? と考えたからです。
やっと話しが通じる人に出会う
青年ケファス現る

ハイギョ釣りの餌にするために、食パンを使ってタンガニーカティラピアを釣っていると、1人の青年に話しかけられました。
彼の名前はケファス。アジア人に絡んでくるいつもの野次馬かと思いきや、「ンソンポなら今晩、ここで釣れるぜ!」ってズバッと言ってきたのです。
どうせ二言目には「ガイドしてやるから金をくれ」だろ?
っと警戒すると、「針、沢山持ってないか?」って聞いてくるではありませんか!
詳しく話しを聞いてみよう

この人の話は聞く価値がありそうだと感じ、5分ほど立ち話をすると、夜になると岸辺にハイギョが現れるというのです。
1mを超えるような大きいものは珍しいけど、60~80cmくらいなら沢山いるとのこと。
10本くらい置き針を仕掛ければ、何匹か掛かるだろうと証言しています。
山根
ボックスにしまっていたハリスを結んだ針を20本ほど見せると、ケラケラ笑いながら「お前本気だね」って言われました。
拾ったペットボトルで仕掛けを作る

ケファスの話が自分のハイギョ釣りのイメージとシンクロしたので、電話番号を交換し、日が暮れたら一緒にハイギョ釣りをしてほしいと伝えました。
そこら中に無限に落ちているペットボトルを使って(コーラ好きなのでできるだけコーラを選びながら)10セット以上のペットボトル仕掛けを作り、日暮れを待ちます。
20人くらい集まったのだが……
魚より仕掛けより、人の方が多い

夕方、ケファスを待ちながらペットボトル仕掛けを並べ始めると、あれよあれよと野次馬が集まってくるではありませんか。
気付いた頃には、1人1本、僕が作ったボトル仕掛けを持って勝手に釣り始めています……。
言うまでもなく、ブッコミ釣りのブの字も知らないので、投げ込んで1分もしないうちに投げ直しております。
山根
最盛期で20人くらい集まりましたね。
正直、このポイントはオワッタなって思いました。
これがアフリカか……

陽が沈んだ頃、ケファスが苦笑いしながらやってきて「これじゃ釣れないかも」って、ド正論を言い放ちます。
僕が動くと群衆も動くので、ケファスに仕掛けを2つ託して(たくさん渡すと不平不満が上がりそうなので)、「離れたところで釣ってきてほしい」と頼みました。
自分が釣らなくてもよいから、生きてる姿を見たいってのと、このポイントのポテンシャルを把握したいのが理由です。
餌が無くなりました

じっくり待つつもりだったので活き餌をたくさん用意しておらず、暗くなる前に餌切れを起こしました。
念のため午前中に市場で購入したブカは腐敗臭がしてしまって、釣れる気がしないし……。
不思議とイライラしないのですが、半ば諦めモードで最後の活き餌を付けてキャストすると古い刺し網に根掛かり(笑)
山根
控えめに言って、アフリカの陸っぱりは最高ですね。
不思議と歯車が噛み合い出す
アフリカ人との絡み方が分かってきた

僕が根掛かりに困っていると、僕の仕掛けを使っていた群衆の1人が船に乗って刺し網ごと回収してくれたんです。
すると、網に別のティラピアが掛かっているではありませんか! これに群衆は大盛り上がり(笑)
他にも餌切れに気付いた誰かがカーペンターと呼ばれる淡水イワシを持ってきてくれたりして、アフリカ人の優しさと僕のモチベーションの歯車が噛み合い始めます。
これにて、餌復活。足元は皆に任せて(見切って)、唯一竿を使える僕は対岸の浮草の際にロングキャスト!
ついに、その時がやってきた

そして、待つ事20分。ゴンッ! という強い感触とともに、ラインがゆっくりと引き出されました!
大袈裟なくらい大きくアワセ、無我夢中でリールを巻きまくります。
足元でドバドバーっと跳ね回りましたが、その勢いを使って無人の船の中に抜き上げました!
ライトで照らすと……! 想い焦がれたハイギョの姿が! うおぉぉ-やったぞー!
これがプロトプテルス・エチオピクス

これぞ紛れもなくハイギョ、プロトプテルス・エチオピクスです!
船に飛び乗り、もう大興奮!! 子供たちも駆け寄ってきます!
言わずもがな、群衆も大盛り上がりで大爆笑です。最高だねアフリカ!
夜が更けると…

記念撮影が一段落し、現場の熱気が冷め始めると、1人また1人と群衆が帰っていきます。
静かになると警戒心が解けたのか、ケファスの言う通り、岸辺でハイギョの姿を確認できるようになりました。
山根
ペットボトル仕掛けでも追加釣獲できました。
やっぱ、夜釣りは静かな方が良いってことみたいです。楽しく釣れたから全然良いですが!
ハイギョを実食してみた
ハイギョは超獰猛

翌朝、バケツに入れておいたハイギョにボガを掛けようとした瞬間ッ、ガブーって大きな口を開けて飛び掛かってきました。
こんなにも俊敏に、それも狙いを定めて噛みついてくる魚はなかなかいません。
ちなみに、洗濯中に噛まれた人がいるのだとか。ハイギョの噛む力はとても強く、水槽用ヒーターを噛み砕いてしまうほどです。
ハイギョの塩焼き

聞き込みの時に感じた通り、この町では人に噛みつく気持ち悪い生き物としか認知されておらず、食べたいと言うと皆にドン引きされてしまいました。
絶対に泥臭いだろうなって覚悟しながらも、何事も経験!
周囲の冷ややかな目線を気にせずケファスの家の前でハイギョを塩焼きにしていきます。
山根
ハイギョってウナギのように見えますが、じつは立派な鱗があるんですよ。
見た目はグロイが味は不味くない

黄色い脂に恐怖しながらも、一口食べてみると……。
これがまったく臭くないんです。旨味は薄いのですが、臭みがないのでパクパク食べられちゃいました。
タンガニーカ湖の水が綺麗だからゲオスミン臭が無いんだろうなって予想しています。
さきいか並みの硬さだが悪くはない

強いてマイナスポイントを上げるとすれば、身が硬すぎること。まるで“さきいか”でも食べているかのようです。
うーん、サンマと瓜二つの食味を持つブカがこれだけ獲れる町なら、確かに誰もハイギョなんて食べないかも……。納得しました。
山根
ちなみに、ケファスは一口も食べませんでした。
この魚が一番旨い

こちらが現地でブカと呼ばれるアカメの仲間。実際に食べてみると、サンマの塩焼きそのものなんです。
僕が海外で食べた純淡水魚の中では断トツ一位の旨さでしたね。もうね、町にいる時は毎日欠かさず食べてました。
優しい人達がタダでお裾分けしてくれるくらい安いし。今、こうして思い出すとまた食べたくなります。
今回の旅を経て、ブカとカーペンターが沢山獲れるタンガニーカ湖であり続ける限り、湖畔に住む人々の生活は安定し、外来魚が持ち込まれる機会もないのかなと感じました。
次は湿地キャンプに行きたいな

今回釣獲したプロトプテルス・エチオピクスは、最大で150~200cmにもなるとされる巨大魚です。
現地でも「ンソンポは120cmから150cmくらいになる魚だよ」って証言も得られたので、次回は装備を整えて湿地でキャンプするのもありだなーなんて思いながら帰国の途につきました。
だって、素晴らしい環境が残されていて、誰も漁獲していないんですよ。マックスサイズが生き残っていること間違いなしでしょ!
これだから、原産地を訪ねる釣りはやめられません。
撮影:山根央之