人生の目標|アカメ属四天王の釣獲
タンガニーカ湖に幻のアカメを求めて

巨大化するアカメの仲間が世界に4種存在することを知り、“4種総獲り”を人生目標の1つに設定したのは、19歳の頃でした。
その後バラマンディ、アカメ、ナイルパーチと順を追って釣獲し、最後の一種を求めてアフリカの湖を訪れた釣行記をここに残したいと思います。
その湖の名前は“タンガニーカ湖”。
2000万年前から存在し続ける固有種の宝庫であり、最大水深は1,470mという規格外の深さを誇ります。
大型アカメ(ラテス)属として有名なのは3種

現在、アカメ属に分類される魚は世界で11種類いるとされていますが、その中でもとくに大型化する3種が魚釣りのターゲットとして多くのアングラーから認知されています。
まずは、アカメ(ラテス)属の大型種についてご紹介しましょう。
アカメ

アカメ(Lates japonicus)は日本の固有種であり、四国および九州がおもな生息地として知られています。
最大で130~140cm前後にまで成長し、日本のアングラーの憧れの魚と言っても過言ではないでしょう。
ナイルパーチ

ナイルパーチ(Lates niloticus)はアフリカ大陸の淡水域(一部汽水域)に生息し、最大で2m/100kg以上に成長するとされています。
アカメ属の最大種であり、世界中の釣り師がこの魚を求めてアフリカを訪れます。
バラマンディ

バラマンディ(Lates calcarifer)は、インド洋から太平洋にかけて広く生息し、最大で130cm前後になる魚です。
東南アジアやオーストラリアにおいて釣り対象魚として人気であると同時に、水産資源としても重要な魚であり、養殖が盛んに行われています。
※近年、スリランカ産やミャンマー産のバラマンディが別種とされましたが、今回の記事では一括りにバラマンディとさせていただきます。
残る一種は、グレートタンガニーカパーチ

3種の陰に隠れた最後の巨大アカメは、“グレートタンガニーカパーチ(Lates angustifrons)”。
その名の通り、タンガニーカ湖にのみ生息する巨大魚です。
この魚を紹介する多くの文献では「最大で200cm/100kgに達する」とされ、ナイルパーチに次いで巨大化するアカメ属の魚と言えるでしょう。
他の3種がそれぞれの地域において、遊漁対象種として高い人気と知名度を誇るのに対し、タンガニーカパーチは世界を釣り歩くアングラーでさえも知らないくらい超マイナーな巨大魚です。
村の市場で情報&食材調達
現実は甘くない

1,000kmにもおよぶ長距離バスの旅を経て、世界で2番目に古くて深いタンガニーカ湖に到着しました。
湖畔にある市場を訪れたらタンガニーカパーチに関する情報を集められるかと思いきや、現実は甘くありません。
「捕り尽くされちまったよ!」という人、「そもそもこの辺りにはいねーよ」という人、「金を払えば見せてやる」という(怪しそうな)人……。
要するに、一カ所目の滞在地で「タンガニーカパーチを簡単に釣ることはできない」と判断しました。
国立公園での実釣を決断

ウガンダでナイルパーチを狙った時に、“潔く国立公園に入ることが釣果を得る近道”という経験をしたので、今回も漁業が禁止されている場所まで行くことに。
それにしても、長さ670kmもあるタンガニーカ湖は、現場にいてもその全貌を想像できないくらい大きかったです。
出船直後にスクリューがロープを引っ掛けたり、船内で喧嘩が起きたり、大嵐に見舞われたりと色々ありましたが、目星をつけていた街にたどり着けました。
1週間分の食料を買い込む

国立公園の物価は先進国並みに高いことが容易に想像できたので、飲み物や野菜、油、炭などをこの街で買い込むことにします。
市場で買い物をしていると「お金ちょうだい!」、「ドリンク買って!」といった具合に子供たちが集まってきました。
一週間分のコーラと資材(合計30kgくらい)をどうやって宿まで運ぼうか悩んでいたので、4人を指名して運んでもらうことに。
相場なんて分からないので10クワチャ(50円くらい)ずつ渡すと大喜びしています。
子供たちは魚に詳しくなさそうですが「パンバ(タンガニーカパーチの現地名)はとっても大きい魚だよ」と教えてくれ、僕の期待感は初めて膨らみました。
タンガニーカ湖で怪魚ハンティングを開始
トローリング不発で蘇る悪夢

かくかくしかじか、日本を出発して6日目。
国立公園でのフィッシングパーミッション(許可)を取得し、いよいよタンガニーカパーチへの挑戦が始まりました。
右舷後方から派手に浸水してくること以外は、超快適なプレジャーボート(大金使いました)によるトローリングで狙っていきます。
ところが、開始から2時間近くノーバイト。カリブ海で経験したターポンフィッシングの悪夢が脳裏を過ります。(大金をはたいてノーバイト帰還)
湖流の当たる岬周辺でナブラ発生!

「昼間までやって駄目なら決断しなくては……」そんな風に明日以降の動きを考えていたら、船の周りでまるで青物のようなナブラが発生しました。
トローリングは即中止。ボートマンと2人でナブラに向かってミノーをキャストすると、ボートマンにヒット!
そのままロッドを貸してもらってファイトすると、これも憧れだったタンガニーカ湖の固有種“ジャイアントシクリッド(現地名クピ/クーへ)”を釣れました。
初めてのタンガニーカパーチ

ボートマンのヒットルアーを見習って、ルアーサイズを落としてみると僕にもヒット!
クピだと思い込んだまま船縁まで寄ってきた魚影を確認すると、なんとアカメの形をしているではありませんか。
針一本だったのが見えたので無我夢中でネットに捻じ込み……歓喜のガッツポーズ。
サイズこそ小さいけれど紛れもなくタンガニーカパーチ! やっぱり最初のイッピキが一番嬉しいんです。
金色のロックパーチ現る
想定外の大物

その後も同サイズのタンガニーカパーチやクピを立て続けに釣り上げ、タンガニーカ湖の魚影の濃さを実感し始めた頃、トンッと金属的で乾いたアカメに似た魚信を捉えました。
掛かった魚はコチラに向かってゆっくりと泳いでいるようで、黒い影が船に向かってきます。(透明度は10m越えです)
ラインはPE0.8号+フロロ16lb。掛かっている魚は85cm、もしかしたら90cmくらいあるかも……。
はいはい、小アカメ釣りでよくある切られるパターンね。使っているルアーもビーフリーズだし。
黄金のロックパーチ

砂地に沢山の巨石が沈む環境でしたが、アカメと比べると引きが弱く、ライトタックルでも充分コントロールできていると認識しました。
油断だけしないようにドラグを滑らせながらファイトしていると、真っ黒なの魚体が水面に!
情報収集の段階で岩場で釣れるパーチは体色が黒や金色になると把握していましたが、まさか実物を見られるとは。
本当に感激です。
逃がしたくないくらいカッコ良い

手にした魚は現地で“ロックパーチ”と呼ばれるタイプのタンガニーカパーチ。
体色があまりにも違いすぎて形も違うような気がしてしまいますが、同じ種類と説明を受けました。
ロックパーチとしてはサイズも申し分なく、本当に嬉しくて満足感の高いイッピキです。
湖の浅い場所を釣った初日でしたが「明日は水深30~50mを狙ってみよう」とガイドと打ち合わせをし、今回のタンガニーカ釣行はこの国立公園で粘る決意を固めました。
水深40mの泳がせ釣り
クピを釣って泳がせる

2日目の午前中は、餌釣りやサビキ釣りでタンガニーカ湖に生息する固有種の魚種稼ぎを楽しみます。
フロントーサやバシバテスの仲間を筆頭に、様々な魚種を釣っていると、ボートマンが40cm以上あるクピに針をつけて泳がせ釣りを始めました。
シクリッドを釣りながら、タンガニーカパーチの特大サイズを狙うとのこと。僕も泳がせ仕掛けを投入して2本体制でアタリを待ちます。
ガイドの竿にアタリが出た

ポイント移動をしながら1時間ほど待ったところで、カチカチっとリールからラインが引き出されるクリッカー音が鳴りました。
すぐにボートマンから竿を受け取り、アワセのタイミングを計ろうとするとすぐにフッキングしろと合図が!
でも、呑ませるべきでは……!?
3秒ほど迷いましたが、「ワイヤー仕掛けが災いして吐き出されるかも」と判断し、魚が走り出したところで早めのアワセを入れました。
まさか、このコブは……

両軸リールにたっぷりと入っているのは4号(16lb)程度の細いナイロンライン。それも傷だらけとくるからファイトは慎重になります。
ジンワリと湖底を這うように抵抗する魚によってラインが引き出されていくと、この細い糸は“継ぎはぎ”されていることが判明。
明らかに大きいと感じるこの魚を無事に取り込むには、このタックルと自分がシンクロすることが必要だと悟りました。
納得のタンガニーカパーチ
銀色の巨体に大興奮

40mを超える水深からゆっくりと巻き上げてくる途中、アンカーロープに絡まりそうになるトラブルもありましたがなんとか回避し、残り10mくらいになると銀色に輝く大きな魚体が見えてきました。
まさか、一回目のタンガニーカ湖釣行でこのサイズのパーチと出会えるなんて……。
勝利を確信するにはまだ早いですが、心が先走ってときめいてしまいます。
釣果が理想を上回る瞬間

網には半身しか収まらず、焦りながらもなんとかランディングに成功! ボートマンと抱き合って大喜びです!!
大きさによる迫力と長年憧れ続けた(ちょっと間抜けに感じる)この面長フォルムがたまりません。
アカメ、バラマンディ、ナイルパーチは姿形がよく似ていますが、タンガニーカパーチだけは容易に見分けられることを実感します。
運を活かすことの重要性

フッキングポイントが気になって口を開いてみると、針先がなまったフック(海外あるある)はナイロンラインの伸びも相まって先端すら刺さっておらず、唇にチョンって乗っているだけ。
「これなら針金でも釣れたんじゃない?」って思うほどでした。
こんな針でも釣れる時は釣れるんです。これもまた、“This is fishing”なんですね。
今回は、ボロボロのラインをケアしつつファイトしたことで、この幸運を活かせられました。
これでも、まだ小さいらしい

1mを遥かに超えるタンガニーカパーチを釣って、見て、触って印象的だったのは、ナイルパーチやアカメよりも鱗が細かくてヌメリが多く、魚体が柔らかかったこと。
そして、第二背鰭が他の大型ラテスよりも長く感じました。
一方で、ニオイや眼球のタペータム(輝板)、すぐに手が傷だらけになる鑢のような歯、巨大な口なんかは他と同じ。やっぱりアカメの仲間なのだと実感しましたね。
ちなみに、これでもまだ中型とのこと。今回のボートマンは150~160cmくらいまで釣れると証言してくれました。
リリーサーシンカーを自作

40mを超える深度から釣り上げたタンガニーカパーチは腹腔にガスが溜まってしまい、自力では泳げない状況。
鰓や胸鰭の動きからもといた深度まで返せればリリース可能と判断し、即席のリリーサーを作ってみるも、ありったけの鉛を使ってもその巨体を沈められません。
そこで、ナイフでほんの少しだけ腹部を切開し、少量のガスを抜き、オモリの重さで魚体をゆっくりと深度30mまで沈めてリリース。
再び湖面に浮かび上がってこないことを確認し、納竿としました。
さぁ、次の目標へ。

今回は四大ラテスの一角、タンガニーカパーチを狙った模様をお届けしました。
透明度抜群な国立公園での釣りを終えた僕は、次なる目標を達成するためにマッドな水辺を探すことに。
釣りの対象魚にならない超マニアックな怪魚。こちらの釣行記もお楽しみに。
撮影:山根央之