シクリッドを知っていますか?
アングラーとアクアリストの違い

こんにちは! 怪魚ハンター山根です。
冒頭、いきなりですが……
あくまでも傾向として、アングラーって魚を釣る技術や道具の知識に長けていても、アクアリスト(観賞魚愛好家)と比較すると魚の分類や生態に鈍感だったりするものです。
僕はアングラー側の人間ですが、アクアリストの世界観を覗いてみると、普段の魚釣りの醍醐味が一気に増えると感じています。
山根
今回の記事は、人気観賞魚であるアメリカンシクリッドを釣り人である僕が書いてみようと思います。
アクアリストがシーバスについて書くみたいなもので、ちょっと異質な感じになるかもですが(笑)
アングラーの価値観が広がるキッカケになるかもしれませんので、ぜひ読んでみてください!
シクリッドついて

シクリッドとは、スズキ目ベラ亜目カワスズメ(Cichlidae)科に分類される魚の総称で、おもにアメリカ大陸やアフリカ大陸、中東から南アジアにかけて1,300種以上が知られています。
日本在来のシクリッドはいませんが、外来魚としてナイルティラピアやジルティラピアなどが定着していますね。
今回の記事では、ピーコックバスを除くアメリカ大陸に生息するシクリッド、通称“アメリカンシクリッド”を釣り集めた経験をもとに記事を書いていきます。
シクリッドの魅力

シクリッドの仲間は、体色・体形・食性などの多様性に富んだグループであり、アクアリストから絶大な人気を誇る魚です。
とくに体色については、自然界に存在する魚とは思えないほど美しく発色する種がいくつもあります。
一方で日本のアングラー目線では、「ピーコックバス以外に釣りの対象魚になるシクリッドなんていないだろう」ってのが本音かもしれません。
山根
まずは、僕がアメリカンシクリッド狙いの釣り旅を決意した理由を紹介させてください。
というのも、僕も皆さんと同じように、「アメリカンシクリッドなんてティラピアみたいなものでしょ」って思っていましたからね(笑)
極美シクリッドとの出会い
パヌコ川水系のダム湖(バス釣りの裏聖地)にて

メキシコのダム湖へフロリダバスを釣りに行った際、ゲーリーヤマモトのカットテールで真っ青な魚が釣れたんです。
それはもう、筆舌に尽くしがたい美しさであり、シクリッドに対する自分の価値観が一変した瞬間でもありました。
このメキシコ釣行において、どんなに大きなバスよりも印象に残る1ピキとなったことは言うまでもありません。
グランデ小川さんのブログ

現場では種名まで分からなかったので、釣りを終えてからアメリカンシクリッドについて調べてみました。
すると、アマゾンを代表する偉大なアングラーでありアクアリストでもある“グランデ小川さん”のブログにたどり着き、それが“テキサスシクリッド”だと調べが着きました。
さらにグランデ小川さんのブログを読み進めると、他にも凄いアメリカンシクリッドが紹介されていたのです。
その中でも、僕がとくにインスピレーションを受けたアメリカンシクリッドを3種ご紹介します。
ドビーシクリッド(Parachromis dovii)

ドビーシクリッドと呼ばれるこの魚は、紫・緑・青のグラデーションが美しい超大型シクリッドです。
形態的な特徴が豊かで、伸びる口、鋭い牙、そしてデコっぱちになります。
湖沼や河川下流域から中流域、所により渓流域にも生息し、身近で獰猛なフィッシュイーターであることから、原産地では釣りの対象魚として大変人気の魚です。
- おもな生息地:ホンジュラス/ニカラグア/コスタリカ
- 最大サイズ:50~75cm
- 呼び名:ウルフシクリッド/レインボーバス/グアポート/グアポテ
サウスアメリカンシクリッド(Kronoheros umbrifer)

日本ではサウスアメリカンシクリッドという呼び名で流通するこの魚は、ターコイズブルーに輝く頬の模様や体色が美しい大型シクリッドです。
ドビーと同様に鋭い牙と伸びる口を持ち、成熟した雄はオデコが肥大します。
流れを好む魚で、河川上流部や渓流などに生息。
- おもな生息地:コロンビア/パナマ
- 最大サイズ:45~70cm
- 呼び名:ターコイズシクリッド/モハラアズール/ウンビー
テキサスシクリッド(Herichthys cyanoguttatus)

じつは……僕がメキシコで釣った青いシクリッドは、後になってテキサスシクリッドではなく、ヘリクティス カルピンティスであることが判明しました。
本当によく似た魚なのですが、本家本元のテキサスシクリッドとは、生息域が異なるらしいのです。
こうなると、テキサスシクリッドも釣ってみたくなるものです。
- おもな生息地:アメリカ/メキシコ
- 最大サイズ:30~40cm
- 呼び名:リオグランデシクリッド/モハラ
山根
ピーコックバスやカラシン、古代魚などに憧れを持っていた僕は、このブログを読んだことにより人生の羅針盤を少しだけ狂わされた感覚がありました。
北米代表種:テキサスシクリッド
グアダルーペバスを狙いにテキサスへ

テキサス州の固有種として知られるブラックバス、“グアダルーペバス”を求めてアメリカの渓流を訪れたことがありました。
ちなみに、ブラックバスの仲間はベラ亜目のシクリッドではなく、スズキ亜目のサンフィッシュに分類されます。
シクリッドとサンフィッシュ

流水環境でグアダルーペバスを始めとするサンフィッシュを釣りながら、僕は密かにテキサスシクリッドも狙っていました。
上の写真の魚もシクリッドに見えるかもしれませんが、これはロングイヤーサンフィッシュと呼ばれるサンフィッシュの仲間。ブルーギルによく似た魚です。
いつか、サンフィッシュを釣り集める北米行脚の旅もしたいなって思っています。
テキサスシクリッドとの出会い

そしてついに、その時が訪れました。
釣れた個体は、メキシコで感動した真っ青なカルピンティスと形はそっくり。
発色はご覧の通りやや地味ですが、ひとつひとつの青い斑点はとても美しかったですね。
お察しのとおり、シクリッドは雌雄や個体によって発色度合いが大きく異なるんです。
山根
日本の釣り物で例えるなら、タナゴ釣りに近いかもしれませんね!
やっぱり、オスの発色の強い個体を釣って見たくなるものです。
中米代表種:ドビーシクリッド
琵琶湖の13倍

テキサスシクリッドの次なるターゲットとして、ドビーシクリッドを求めて中南米の中で2番目の大きさを誇るニカラグア湖に渡航しました。
琵琶湖の13番の面積を有するニカラグア湖は、デカい、広い、荒れたらマジでヤバそう……というのが第一印象です。
トローリング釣法

広大な湖でドビーシクリッドを釣るために実践したのは、クランクベイトを使った島周りのトローリングでした。
理想としていた成熟したオスのドビーはなかなかヒットしませんが、幼魚でもめちゃくちゃカッコ良かったです。
スプーンヘッド形状と鋭い牙……。やはり、他のシクリッドとは一線を画す形態に感動しっぱなしでした。
ドビーシクリッドも美しかった

幼魚やメスばかり釣れ続く中で、1匹だけ成熟したオスを釣ることができたんです!
ヒット直後の引き込みはサイズ感以上に強烈で、ラインが50m以上出ていたこともあり、一度はブッシュに潜られてしまいました。
エメラルドグリーンとパープルのグラデーション、独特な模様、デコっぱち、そしてバス持ちを躊躇してしまう鋭い牙……。
実際に釣り上げて、見て、触れて、こんな綺麗でカッコいい魚がいるのかと非常に感動しました。
食べても◯

ドビーシクリッドは水産資源としても利用されており、レストランのメニューでも見かける魚です。
調理法をお任せでオーダーすると、アクアパッツァになって出てきたのですが、「淡水魚の煮込み料理ってどうなんかな?」って身構えましたね。
実食してみると、鮮度抜群だったこともあって臭みは皆無、食感は大雑把に例えるならクロダイに近く、的確に例えるならティラピアよりも筋肉質で旨味が濃い感じ。
想像以上にとっても美味しかったです!
南米代表種:サウスアメリカンシクリッド
アンデス山脈に沿う大河

サウスアメリカンシクリッドの生息地であるマグダレーナ川は、アンデス山脈を分けるようにして流れる全長約1,500kmの大河です。
標高2,600mを誇るコロンビアの首都ボゴタから格安長距離バスで山を降り、マグダレーナ川にたどり着きました。
細流を陸っぱりで攻略

僕が釣行したマグダレーナ川の支流は、北海道の猿払川上流域のような雰囲気でした。
高低差の少ない川ですが流れはしっかりあり、川底は礫や石がまったくない砂泥底、倒木がかなり多いです。
雨季と乾季では5m以上の水位差が生じ、大雨が降ると周囲の低地は氾濫原となります。
サウスアメリカンシクリッドは、このような場所だけでなく日本の渓流域のような環境にも生息しています。
形容できない青い発色

釣り場について水面を覗きこむと、いきなり真っ青で巨大な影が見えたんです。
視界がギュッと狭まるくらい緊張したサイトフィッシングは久しぶりでしたが、実際に釣り上げてみて、あまりの青さに今度は腰が抜けそうになりましたね。
こればかりは……記事を書きながら恐縮ですが、画像や動画では伝えきれない、現場でしか見られない青い輝きでした!
伸びた口を戻す力が凄かった

サウスアメリカンシクリッドを釣って印象的だったことは、好奇心と警戒心の高さ。
日本の魚で例えるならイワナに近くて、1投目はトップでもワームでも好反応を示す一方、人の足音などに敏感で気配に気づかれるとルアーを追わないんです。
触れ合って感じたのは、伸びた口を戻す力の強さで、牙もあるので噛まれたら結構痛かったですね。
その他の個性豊かなアメリカンシクリッド
ジャガーシクリッド(Parachromis managuensis)

ドビーシクリッドよりも現地のアングラーから人気なのが、ジャガーシクリッドと呼ばれるパラクロミス・マナグエンシスです。
この魚は移入種として東南アジアに分布しており、シンガポール在住経験のある僕にとっては馴染み深い魚でしたが、やはり原産地で出会えると感慨深いものがありましたね。
- おもな生息地:ホンジュラス/ニカラグア/コスタリカ
- 最大サイズ:40~50cm
- 呼び名:タイガーバス/グアポート/グアポテ/ハグワールグアポテ
レッドデビルシクリッド(Amphilophus labiatus)

ニカラグア湖の陸っぱりで釣れた真っ赤なシクリッドも印象的でしたね。
名前はレッドデビルシクリッド。ニカラグア湖とマナグア湖の固有種で、近縁種には観賞魚として有名なフラミンゴシクリッドがあります。
東南アジアやハワイなど世界各地に移入種として定着していますが、僕の価値観では原産地で出会えることに喜びを感じます。
- おもな生息地:ニカラグア
- 最大サイズ:30~40cm
- 呼び名:フラミンゴシクリッド/モハラ/ミダスシクリッド
フライヤーシクリッド(archocentrus centrarchus)

フライヤーシクリッドと呼ばれるこのシクリッドは、ニカラグアでは普通種なので沢山釣れたのですが、ここまで発色した個体はこの1匹だけでした。
水上レストランの柱に着いているのを見つけ、試行錯誤しながら30分かけて釣り上げた思い出の1ピキです。
- おもな生息地:ニカラグア/コスタリカ
- 最大サイズ:10~15cm
- 呼び名:モハラ/フライヤーシクリッド
ブラックベルトシクリッド(Vieja maculicauda)

ヒットした魚体が見えた瞬間、「絶対バラしたらアカン」って直感した魚です。
エメラルドグリーンに輝く1枚1枚のウロコ、エラ蓋から胸鰭にかけての赤、腹部の黒、そして肥大し始めたオデコ。
種名が分かったのは釣行後でしたが、とても感動した1ピキです。
こんな綺麗な魚が不意に掛かってくるわけですから、シクリッドの生息域で釣りするって最高なんです!
- おもな生息地:メキシコ/ニカラグア/コスタリカ/パナマ
- 最大サイズ:25~35cm
- 呼び名:モハラ
いろんな魚に目を向けよう!

魚釣りのターゲットとしては、とてもマイナーなアメリカンシクリッドをご紹介させていただきました。
バス釣りの外道として出会った1ピキのシクリッドをキッカケに、価値観を変えられたという話だったわけですが、日本の水辺にも綺麗な魚は沢山います。
釣りのターゲットにならないような魚にも興味関心を持ってみることで、普段の魚釣りがより面白くなるかもしれませんよ。
撮影:山根央之