もっとも身近な淡水魚“コイ”

皆さん、鯉(コイ)という魚はご存知ですよね?
池に食パンやお麩を投げ入れると、す~っと浮かび上がってきてパクッって食いつく人懐っこいあの魚です。
今回の記事では、そんなコイの不思議について深堀していきます。
鯉の由来は恋である
絶世の美女の気を惹くために……説

コイは漢字で鯉と書きますが、名前の由来は“恋”という説が有力です。
なんでも、景行天皇(西暦298年第12代天皇として即位)が池に放した魚がきっかけとなり、意中の美女(八坂入彦)をものにしたことから、この魚をコヒ(恋)と呼ぶようになったとされています。
大位と高位から小位……説

もう一つの説は、魚の王様とも称されるマダイとコイを比べたことに由来するというもの。
味よし・姿よしのマダイは大位(たい)であるのに対し、この魚はタイと比べると味・姿ともに少し劣るため小位(こい)と呼ぶようになったとされています。
226歳まで生きた花子について
花子のウロコの輪を数えてみたら

古くから観賞魚として利用されてきたコイですが、花子という名前の錦鯉が226歳まで生きた(1751-1977年)とされ、ギネスブックにも掲載されていたという話があります。
なんでも、1964年に名古屋女子大学の研究者がウロコの輪紋(木の年輪みたいな輪)を調べたところ、1751年に生まれたと結論付けたというのです。

魚の年齢を知るには、耳石や脊椎骨の輪紋を調べるのが一般的。
注意すべき点は、1つの輪紋=1年ではないことや、長寿になればなるほど輪紋を数えにくくなることです。
魚種や棲んでいる場所によって単位時間当たりの輪紋の数が変わってくるので、「飼育していた池において、1年で何個の輪ができるのか」といった基礎的な情報がないとそもそも年齢を推定できないのです。
鯉の寿命は30~40年ほど

一般的にコイの寿命は20~30年、長くて50~80年と言われております。
余談ですが、錦鯉が広く周知されたのは19世紀初めの頃。飼われていたコイから突然変異が出現し、カラフルなコイが見られるようになったのも今から200年ほど前とされています。
コイの値段が〇億円越え!?
錦鯉の世界

皆さん、錦鯉の値段ってどんなイメージがありますか?
ホームセンターのペット売り場では1尾1,000円前後で販売されていたりしますが……。
値段はピンキリ

高額なものは1尾1,000~3,000万円、中には5,000万円を超える個体も。
ちなみに世界最高額の錦鯉は、2018年に広島県の養殖場で落札された紅白という品種(赤白2色のコイ)で、お値段なんと2億3,000万円!
落札者は錦鯉の品評会で優勝を目指す台湾人の愛好家だったそうで、第50回全日本総合錦鯉品評会にてこの紅白が総合優勝したそうです。
お手頃なものは1,000円台でも買え、近年は通販サイト等でも売られているんですよ。
ゴージャス感がある真っ白な品種です。飼育しやすい品種とされています。
紅白は錦鯉の品種の中で最も人気があります。白地の上に緋斑があることが特徴で、「紅白に始まり、紅白に終わる」なんて言われることも。
赤くて丸い模様が頭に1個だけある鯉を丹頂と呼びます。まるで日本国旗のようで、外国人からも人気が高い品種です。
じつはコイって外来魚
ヤマトゴイとノゴイ、どっちが在来種でしょう?

日本各地にコイが放流されるようになったのは明治時代とされており、肉付きが良くなるように作られたユーラシア大陸産の品種が多かったようです。
飼育型とも表現できる放流用のコイは、養殖が盛んに行われていた奈良県大和郡山(やまとこおりやま)という地名が由来となり、“ヤマトゴイ”と呼ばれています。
ヤマトという響きがいかにも日本らしいですが、実際には国外からの移入種です。
ちなみに、上の写真はヨーロッパで釣り上げた個体です。
琵琶湖に生息するノゴイ(マゴイ)

日本在来とされるコイは“ノゴイ”や“マゴイ”と呼ばれます。
遺伝情報以外にも、ヤマトゴイに比べて細長い体形、高い警戒心を持つ、深みを好む、背びれ軟条数が多い(ノゴイ19~23、ヤマトゴイ16~22)などといった違いがあるとされています。
現在では日本各地に放流されたヤマトゴイとの交雑が進んでしまい、ノゴイは珍しい存在になっていますが、琵琶湖の深みでは今でもヤマトゴイと棲み分けをしながら棲息していると考えられているんです。
素人目では断言できないものの、パッと見て「このコイは違和感ある……」って感じるくらいノゴイは細いです。上の写真は奥琵琶湖の深みで真夜中に釣れたノゴイ(かなと感じた個体)です。
コイの歯最強説
歯がないのに

コイに指を吸われた経験がある方はご存知かと思いますが、コイの口には歯がありません。
歯がまったくないのに、タニシやザリガニといった硬い餌も大好物なんです。
咽頭歯(いんとうし)が強固である

じつは、コイの喉には咽頭歯と呼ばれる強固な骨があり、飲み込む直前にタニシやザリガニの殻を押し砕きます。
人の奥歯のような形状をしており、10円玉くらいなら曲げてしまうほど強い力を掛けられます。
コイには胃袋がない
無胃魚について

コイは歯が無いだけでなく、じつは無胃魚(むいぎょ)なんです。はい、読んで字のごとく胃袋を持ち合わせておりません。
コイの他にも、メダカやフナ、サンマ、イワシも胃袋を持っておらず、このような無胃魚たちは食道と腸が直結しています。
無胃魚のメリデメ

食べたものをため込む胃がありませんのでコイは食い貯めができません。
つまり、一日中それも少量ずつ餌を食べ続ける必要があるんですね。コイが昼夜を問わず釣れるのは、胃が無いことに少しは起因しているでしょう。
一方で、胃がないことのメリットは明確なものがありません。例えば、サンマやトビウオは少しでも身を軽くするといった説がありますが、コイには当てはまりそうにありません。
食べたものを咽頭歯ですり潰すという特技が、肝すい臓や無胃といった変わった特徴に関わっていそうですよね。
リアル鯉のぼりを見た話
鯉のぼりの由来

鯉のぼりを飾る由来は中国の故事である登竜門(とうりゅうもん)という説が一般的です。
登竜門とは、竜門(四川省にある滝)を遡上できたコイが、龍に変わって天に上っていく話。
コイは川でも沼でも生きられるくらい生命力が強く、逆境(滝)を乗り越え出世していく縁起の良い魚であることから、子供の日に鯉のぼりを飾るという訳ですね。
大雨により水没した田んぼ

ある日、春の大雨で水田地帯が水没してしまいました。
僕は「これは生き物たちのダイナミックな繁殖行動が起こるぞ!」って期待して様子を見に行ったんです。
田んぼまで遡上してきたコイたち

期待通り、春はコイやフナの繁殖期とあって、数百匹もの魚たちが川から水路を通って田んぼまで遡上してきているではありませんか!
人間たちが田んぼの水を抜くために水門を開けたことなど知らずに、あちこちで水柱を揚げてはたいて(産卵して)います。
畔を超えるためにリアル鯉のぼり

みるみるうちに水位が下がる田んぼ。あっという間に畔が出現します。
どうやって川に戻るのかと観察していると、1匹のコイが跳ね上がって畔を超えようとしていました!
これぞ、子孫を残したあとも生き残ろうとするリアル鯉のぼり! めちゃ感動しましたね。
コイってやっぱり逞しい魚です。
コイは身近で逞しい魚

今回の記事では、身近な魚であるコイの知られざる一面をご紹介しました。
今度、誰かと一緒にコイに餌を上げる機会がありましたら、コイの面白い生態や伝説をお連れ様に披露してみてはいかがでしょうか?
撮影:山根央之