ピラルク・ピライーバ釣獲後のエピローグ
釣りハックTV ガイアナ編

2023年2月、僕は子供の頃からの夢を南米ギアナ3国のうちの1つ、ガイアナ共和国で叶えました。
ピラルクとピライーバを狙った4日間の釣行内容は、TSURI HACK TVで配信された通りですが、この物語には続きがありあした。
今回はその夢の続きを釣行記としてお届けします。
▼ピラルクとピライーバを狙った模様はコチラ
この物語の主人公

ガイアナでは目標魚の殆どを釣れたのですが、現地で「アイマラ」と呼ばれる魚には出会えませんでした。
アイマラとは、ホプリアス・アイマラという学名を持つカラシンの仲間で、英語ではウルフフィッシュと呼ばれます。
日本人にはポルトガル語のタライロンという呼び名が一般的ですので、本記事ではタライロンと呼ばせていただきます。
タライロン(Hoplias aimara)とは

その風貌はまるでシーラカンスのようであり、観賞魚として人気があるのと同時に、トップウォータープラグに好反応を示すことからアマゾンを代表するフィッシングターゲットでもある魚です。
タライロンは強靭なアゴと鋭い牙を持ち、アクアリウムの世界では噛まれたら大怪我をする魚として認知されています。
最大で1m前後に成長するとされ、タライロンの世界記録は32lb15oz(タライーラジャイアントとしての記録)および97cm(タライーラの一種としての記録)です。※
※現在はHoplias aimaraとHoplias macrophthalmusは同一種という考え方が主流です。
別れ際の衝撃発言

ガイアナでの釣行を終え、ガイドのネルソンとリッキーに別れの挨拶をしている時のこと。とんでもない話をされたんです。
彼らは電波の無い村に棲んでいるが故に、写真や動画といった証拠の無いただの話し言葉なんですが……要約するとこんな感じです。
「岩盤が露出する渓流域まで川を上ると、タライロンしか釣れない楽園がある。
メーター超えが沢山いる。アベレージサイズはウジャウジャいる。
ヒロが再訪してくれるなら次はタライロンキャンプに行こう。あそこは俺らも滅多に行かないんだ。」
長雨のブラジルで下した決断
理想と乖離したネグロ川

ガイアナを後にした僕は、ピーコックバスの最大種であるシクラ・テメンシスを求め、聖地ネグロ川へと向かいしました。
しかし、季節前倒しの急増水の影響によって、まともなサイズはこの写真のイッピキだけ……。
フッと気を抜くと、ピーコックを狙っているのにタライロンの楽園を想像している自分がいました。
ガイアナに戻る決断

ネグロ川の玄関口であるブラジルのマナウスに戻ると、謎の高熱と咳を発症。3日間も寝込むことになってしまいました。
非常に辛い3日間だったのですが、今となっては、この時間のお陰で英断にたどり着けたと思っています。
僕は予定していたアマゾン川を降るプランを取りやめ、再びガイアナを目指す決断をしました。
携帯なんて持っていない友人たち

勝手知ったる片道1000kmの陸路旅を経て、ネルソンとリッキーの棲む村を再訪しました。
いつかまた。そう言って村を出た僕がたった2週間足らずで戻ってきたので、村長はかなりビックリ。
東屋に寝床を構えさせてもらい、いつ狩猟遠征から帰るか分からないネルソンとリッキーを気長に待つことになりました。
いざ、楽園へ。
遠征の準備

タライロンの楽園には急流域の難所がいくつかあるらしく、前回よりも一回り小さくて軽いボートを用意することになりました。
食料は乾麺と米と玉ねぎなどを少しずつ、ガソリンはネルソンの見立て通りに購入。装備は3人で4日分とは思えないほどスリムに絞られました。
それにしても、彼らもタライロンの楽園は久しぶりらしく、準備段階からテンション高めです。
オオヨコクビガメを捕獲

何時間にも及ぶロングドライブの途中、カメの産卵地に立ち寄ってみると、甲長80cm以上ありそうな巨大なオオヨコクビガメを2頭発見!
ネルソンいわく、めちゃくちゃ旨いらしいです。
産卵を終え、産卵場所のカモフラージュがされていることを確認した上で、卵を30個ほど頂戴してカメもひっくり返して船にお招きします。
獲物をデポする

あんなに荷物の重さを気にしていたのに、ぱっと見で40kgと60kgくらいありそうなカメを2匹ともキープすんの!? それも4日間一緒にいるの!? でも……なんか楽しいから良いか!
って思っていると、流石に無理と判断したようで、ジャガーが来そうにない中洲にカメを隠して帰りにピックアップすることになりました。
隠すっていっても、ひっくり返して葉っぱを乗せただけ。4日後、どうなっているか皆さんも予想してみてください。
南米で初めて味わうボウズ体験
川の水がおかしい

支流に分け入るころ、ザァーッと雨が降り始めました。最初はいつものスコールかと思いきや、4日間も降り続く長雨の始まりでした。
山間部ではずいぶん前から降雨があったようで、ブラックウォーター※と聞いていた川の水がモクモクと濁っています。
明らかに増水していて、難所の岩場はものの見事に川の中。お陰で一度も船を降りずに到着しました。
※堆積した落ち葉や流木からタンニンが染み出し、黒く色づいた水。
ピラニアすら釣れないデス・リバー

水質が酸性に傾いているブラックウォーターの河川では、急な降雨によってpHが上昇し、魚が釣れにくくなることがあります。
今回がまさにその典型であり、夕食と夜釣りの餌になるピラニアや淡水イシモチを狙うも、何も釣れずに初日が終わってしまいました。
カメの卵で急場を凌ぐ

食事は釣った魚を当てにしていたので、今晩は乾麺とカメの卵(意外と旨い)だけです。
明日は何としても魚を釣らないと……。タライロンなんかより食料の心配をしていた僕に、ネルソンが声をかけてくれました。
「この状況ではルアーでタライロンが入れ食いってのは無理だ。でも安心しな! 巨大なタライロンは明日絶対に釣れる! 100%ギャランティーする!」
魚を求めて下流へ
必死でアロワナを釣る

実釣2日目。雨が弱まってから出船し、とにかく何でも良いから魚を釣るために昨日上ってきた川を降ります。
すると、水面を群れで泳ぐアロワナを発見! まさに、千載一遇のチャンスとばかりに集中し、2匹立て続けに釣り上げられました。
3尾目を狙おうとすると、ネルソンが「これ以上は明日にとっておこう」と言うので、納得して竿を置きました。
アロワナが色んな魚に変わっていく

アロワナを餌にブッコミ釣りをしてみると、レッドテールキャットや淡水イシモチ、ブラックピラニアなど色んな魚が掛かってくるようになりました。
昼食は言わずもがな、アロワナの素揚げ! ジューシーで臭みは皆無、精神的な要素もあってメチャクチャ旨かったです。
食料も夜釣りの餌も充分集まったところで再び川を上り、タライロンが必ず釣れるという楽園を目指しました。
倒木だらけの細流に突入する

川幅は僅か5m、水深は1.5m。細流を流れる水はキリっと冷えたブラックウォーターでした。
「真っ暗になったと同時に、この船の下をタライロンが次々に通る。時合は1時間だ!」
ネルソンが声を引き締め、こんな前置きをした上で僕にタライロンの釣り方をレクチャーしてくれました。
タライロン釣りが始まった
1匹目に感動する暇なんて無かった

真っ暗になった数分後、船の真下に垂らしていた餌に“なにか”が食らいついた感触が竿を通して伝わります。
少しでも魚に自由を与えれば両脇の倒木に絡まりそうなので、アワセの惰性で一気に水面まで引き上げると、タライロンが姿を現しました!
ヘッドライトに照らされ、エメラルドグリーンに輝く姿は、僕の想像していたタライロンよりも格段に美しく感じました。
この日、僕は何かに追いつけなった

ここからは堰を切ったかのような怒涛の入れ食いに。記念写真を撮っている間にもう一匹ヒットします。
2尾目の動画を撮っている間に、3尾目がヒット。これが1m級だったんですが、グルグル回転しながら首を振る特殊ジャンプ(デスロールジャンプと命名しよう)でフックアウト……。
餌を針につけて投入すると、着底するや否やアタリが出ます。
今度はフッキングが遅れたせいで倒木に巻かれフックオフ。これも10kg以上ありそうでした。
豪雨により強制終了

2匹目のメータークラスをバラしたところで、時合が終わってしまい(場荒れかも)、大雨も降り始めたのでキャンプ地へと戻ることに。
僅か30分の間に次々に起こった衝撃的な出来事に、悔しいけど対応できませんでした。
ちなみに、翌朝はじめてタライロンを食べたのですが、脂が乗っていてとても旨かったです。
Y字の小骨さえなければレオパードキャット(現地人が一番旨いというナマズ)より好みでした。
最後の夜、勝敗の行方は……
3日目の夕方。別の細流へ

最終夜となる3日目の夕方は、昨日とは違う細流に入り込みました。
こんな支流が沢山あって、どこもタライロンが沢山生息しているらしいです。
渇水すると支流にいられなくなったタライロンが、水位の低下した隠れ家の少ない渓流域に凝縮され、飢えて日中でも入れ食いになるというわけです。
2枚におろした大きな淡水イシモチを船から吊るし、血とニオイを川の流れに乗せて日暮れを待ちます。
史上最も接近した短期決戦が始まる

水深は僅か1mちょっと。恐る恐る船の真下に餌を垂らすと、1分も経たないうちにでグーッと竿に重みが掛かってきました。
魚が泳ぎ出す気配を見逃すまいと集中し、下流へ走ろうとした瞬間に大きくフッキング。
水深が浅すぎて、リールを巻かずともGTロッドを立てれば魚が水面を割ってドバドバと跳ねまわります。
スローモーションでのファイト

魚との距離が近すぎるため、デスロールジャンプを上手にいなさないとバレてしまいます。
かといって、少しでも魚に主導権を渡すと倒木に絡んでしまうわけで……
竿を立てる、寝かす、左右に振る。不規則に暴れる魚がゆっくりと再生される中、僕なりに必死に対応しました。
下顎が分厚すぎて

ネルソンは倒木を掴んで船の安定を図り、リッキーはスペシャルボガを構えてくれていました。
一度目のチャンス。リッキーはセオリー通り、下顎の先端を掴みにいってくれましたが、タライロンの口が分厚すぎて弾かれます。
スペシャルボガ(通常の30lbモデルより大きく開く)なのに、たかが1m程度の魚にはまらない!?
内心、嘘でしょ? って思いながらも、“下顎の横を狙ってくれ”って英語を考える余裕なんてありませんでした……。
決着の瞬間

暴れるタライロンを何度かいなし、訪れた2度目のランディングチャンス。
リッキーも、下顎が分厚すぎてスペシャルボガが入らなかったことを理解しているようです。
タライロンの下顎が薄くなっている部分に狙いを定め、歯と歯の間にスペシャルボガを滑り込ませてくれました。
ついに巨大タライロンを釣り上げた
30lbスペシャルボガを振り切るメーターオーバー

スペシャルボガがしっかり効いていることを確認すると、スゥーッと視野が広がっていく感覚がありました。
釣り上げたタライロンの大きさの価値が判断できず、すかさずネルソンに「コレってデカいよね?」と聞いてみます。
するとネルソンは、「That’s big one!!」と端的に答えてくれました。
この1匹で満足だった

すぐに次の餌を投入すれば、このサイズのタライロンを2匹・3匹と釣れたのかもしれません。
しかし、釣った魚を写真に残すことを一番大事にしている僕は、このイッピキをしっかり写真に残したいと彼らに伝えました。
すると2人は声を揃え、「アイマラに満足したなら、この後夜の狩猟に行こうぜ!」と言ってくれました。満面の笑みで。
村人たちへのお土産

僕が訪れたガイアナの街や村において、タライロンはゲームフィッシュの対象魚というよりも、“旨い魚”としての認知度が高い印象を受けました。
明日は村に帰る日ということで、このタライロンは猟で獲ったラーバと呼ばれるげっ歯類※と共にお土産になることに。
※いわゆるネズミに類する動物。リスやビーバーもげっ歯類の一種。
巨大亀はどうなった?
1頭は無事、もう一頭は……

そうそう。お土産と言えば、隠しておいた巨大ガメの存在を忘れていませんか?
帰りに中洲へと確認しにいくと、なんと1頭消えているのです。
大雨のせいか、血痕やカメを引きずった跡は残っていませんが、カメが歩いた痕跡もありません。
ジャガーの仕業だとリッキーが悔しがっています。
驚くとこはジャガーじゃなくて

どっちかって言うと、僕は残りの1頭が4日間ひっくりかえったままでも、元気いっぱいなことの方に驚き。
かくして、僕のタライロンを求めた釣行は幕を閉じました。
ピラルクよりピライーバよりテメンシスより、タライロンの方が達成感と幸福感が大きかったのがちょっと不思議です。
きっと、旅先で得た友人と情報をもとに、ほんのちょっとの苦労(悪状況)の中で釣れたからかな。
これぞ、釣り旅の醍醐味なのかもしれません。
そういえば……

特大タライロンを釣り上げた時、ネルソンは「big one!!」と言っただけで、hugeとかthe biggestとは言いませんでしたよね。
僕が釣ったタライロンはIGFA※の世界記録級だったのかもしれませんが、ネルソンとリッキーいわく「アイマラって魚はもう一回り長く、太くなるよ」とのこと。
いつか、渓流と呼べるくらい渇水した時に、特大ポッパーを持って僕はこの川を再訪するつもりです。彼らが見たこともない大きさのタライロンを釣るためにね。
その日が来るまで、今のままのジャングルが残っていることを祈っています。
※国際ゲームフィッシュ協会。釣魚の記録管理も行っている。
撮影:山根央之