ナルトビエイについて
まるで小さなマンタ

ナルトビエイ(Aetobatus narutobiei,2013)は、トビエイ目マダラトビエイ科マダラトビエイ属に分類されるエイの仲間です。
海中を羽ばたくように泳ぐ姿は、まるでマンタのような優雅さ。
ちなみに、マンタと呼ばれるオニイトマキエイは、トビエイ目イトマキエイ科に分類されます。
洗濯板のような独特な歯を持つ

ナルトビエイは尖った鼻先を器用に使い、砂の中の貝類を掘り起こして食べます。
口に含んだ貝は洗濯板のような歯を使って圧壊し、中身だけを食べるのが特徴。
この歯は古くなると生え変わる仕組みになっています。
最大サイズは体盤幅1.5m/体重50kg

ナルトビエイの大きさは横幅1m前後のものが一般的で、最大では体盤幅1.5m、体重50kg程度まで成長します。
身近な海で見られるエイの仲間としては、大型と言えるでしょう。
ナルトビエイの生息域と生態
おもな生息域は九州沿岸部および瀬戸内海

ナルトビエイのおもな生息域は南日本から西日本にかけての有明海、瀬戸内海、太平洋、東シナ海などです。
日本以外では、朝鮮半島および中国沿岸部、台湾やベトナムなど東アジアに分布しています。
港湾部や河口にも姿を現すため、生息地では釣り人にとって身近な生き物と言えます。
アサリなどの二枚貝を主食とする

ナルトビエイは貝類を主食とする肉食性であり、とくにアサリなどの二枚貝を好んで食べるとされています。
一方で、釣り場では岸壁に付着したイガイを食べている姿を観察できたり、アジやサンマの切り身にヒットしたりすることも。
ナルトビエイの妊娠期間と産仔時期について

ナルトビエイは胎生の生き物であり、卵ではなく子供を出産します。
交尾は8月から9月に行われ、受精した胚は母胎内で約9カ月間休眠。
初夏を迎えると卵黄や子宮内に分泌される栄養液を使って急速に成長し、8月から9月ごろ産まれます。
怪魚ハンター山根
こちらの写真は7月中旬に釣り上げたナルトビエイが産み落とした未発達な胎仔です。
ちなみに、ナルトビエイは1度に平均3尾出産します。
ナルトビエイと他のエイの見分け方
アカエイ

釣り人にとってもっとも身近なエイといえば、やはりアカエイでしょう。
アカエイは海底に張り付く平たいエイですので、ナルトビエイとは体形が大きく異なり、見分けるのは容易です。
トビエイ

ナルトビエイとよく似たエイとして、トビエイが挙げられます。
尖った顔のナルトビエイに対し、トビエイの顔は丸みがあり、頭部の形状で見分けられます。
また、背ビレが腹ビレの間にあるナルトビエイに対し、トビエイは腹ビレよりも後方にあることからも見分けが可能。
トビエイは海底付近にいることが多く、ナルトビエイのように海面付近や岸壁で見かけることはあまりありません。
マダラトビエイ

提供:TRANSCENDENCE ビグザム
マダラトビエイは、ナルトビエイのように頭部が尖っていますが、体表に白い斑点があるので容易に見分けられます。
ナルトビエイよりも大型で、最大で体盤幅は2mにもなります。
優雅に泳ぐ姿が人気なため、水族館などで展示されることの多いエイです。
ナルトビエイによる被害
ナルトビエイによる漁業被害と駆除数

ナルトビエイはアサリやカキなどの水産資源を主食とするため、近年では食害が問題視されています。
有明海や瀬戸内海などでは積極的な駆除が行われており、多い年では520tのナルトビエイが捕獲されました。
釣り人は毒針や置き竿の落下に要注意

釣り人からは、意図せぬスレ掛かりによる置き竿の落下やルアーのロストが起こるので厄介者扱いされています。
また、ナルトビエイはアカエイと同じように尾に毒針を持っていますので、万が一釣れた場合は注意が必要です。
絶滅危惧種であることも知っておこう

多方面から迷惑者扱いを受けているナルトビエイですが、じつは2013年に新種として記載された新しい種類です。
そして、日本より南方の生息地である中国沿岸では生息数が減っています。
中国での生息数減少や日本での駆除数の増加を理由に、2019年にIUCN(国際自然保護連合)は本種を絶滅危惧Ⅱ類(VU)としてレッドリストに記載しました。
怪魚ハンター山根
水産経済的には悪者だけど、生き物としては貴重ということですね。
ナルトビエイの釣り方
スレ掛かり・引っ掛け釣り

ナルトビエイが岸壁沿いまで来遊することの多い瀬戸内海では、どんな釣法でも引っかかってくる厄介者です。
手っ取り早くナルトビエイを釣りたい場合は、泳いでいるナルトビエイを見つけて引っ掛けます。
ボラ掛け釣りに近しく、アメリカではこのような釣法をスナッキングと呼びます。
怪魚ハンター山根
大型個体は想像を絶する程のファイターですので、確実に取り込めるタックルを選ぶようにしましょう。
足場の高い釣り場では、ランディングにギャフが必要です。
参考タックル
- 竿:タマン竿やジギングロッド
- リール:スピニング8000番前後
- ライン:ナイロン10~14号、PE4~6号 200m以上
魚の切り身や貝類を餌にしたブッコミ釣り

引っ掛け釣りは倫理的に避けたいという方は、餌釣りも可能です。
ナルトビエイは貝類を主食としますが、アジやサンマにも食いつきます。
まずは、日中に釣り場を巡ってナルトビエイが泳いでいるポイントを見つけ、ブッコミ釣りで狙ってみましょう。
おすすめの仕掛け
- 仕掛け:遊動天秤を使用したブッコミ仕掛け
- 針:タマン針22号前後
- ハリス:フロロ15号前後
ナルトビエイが増える時期と避ける方法

ナルトビエイは海水温が高くなる時期に活動を活発化させます。
夏から秋にかけてが堤防や河口付近への来遊のピークであり、数の多い場所ではまともに釣りにならないほどです。
ナルトビエイが多い釣り場では、彼らのスレ掛かり避けることは難しく、潔く釣り人が移動するほかありません。
ナルトビエイの食べ方
アンモニア臭くなる理由

ナルトビエイは海中を飛ぶようにして泳ぐ性質を持つため、海底に棲むアカエイ等よりも浮力の源となる尿素を多く持っています。
そのため、ナルトビエイはアカエイよりもアンモニア臭いと言われ、食用にされることは殆どありません。
鮮度が良いものは食べられるが……

現場での血抜きと保冷を入念に行い、尿素がアンモニアに変性する前に食べれば、軟骨魚類特有のアンモニア臭を防げます。
一方で、個体によっては極端にドブ臭い場合がありますので、大阪湾などの都市部で釣れたナルトビエイは要注意です。
怪魚ハンター山根
僕が持ち帰ったナルトビエイ(大阪湾産)は、ゲオスミン臭とも呼ばれるドブ匂が強烈で、食材と呼べるような代物ではありませんでした。
エイ類は煮つけや唐揚げが定番料理

画像はホシエイの煮つけ
ナルトビエイはヒレの部分と頭部の頬肉が可食部です。
ヒレの部分は煮つけやみりん干しなどと好相性。食感はホロホロとして柔らかく、噛むとエイ特有の歯応えが楽しめます。
頭部には赤身の頬肉があり、ヒレと同じように味わいはあっさりとしていますが食感が異なります。
怪魚ハンター山根
ゲオスミン臭は生活環境に由来するものだと思いますので、匂わない個体なら充分食材として利用できそうです。
ナルトビエイにはご注意ください

漁業被害をもたらす新たな厄介者であるナルトビエイをご紹介しました。
生息域を北上させる彼らについて、「地球環境の変化に適応しようと必死に生きているんだろうな」って僕は思いますが、ヒトという生き物との関係性もこの時代を生き抜く重要な術とも思ったり。皆さんはどう感じるでしょうか?
釣り人の皆さんは、くれぐれもナルトビエイのスレ掛かりにはご注意ください。とくに釣れない時間帯のサビキの置き竿は危険ですよ!
撮影:山根央之