怪魚ハンター山根が目標に選んだ有明海産スズキとは
日本で釣れるスズキについて
日本国内で釣れるスズキは、「マルスズキ(スズキ)」と「ヒラスズキ」、そして一部の地域で捕獲が確認されている「タイリクスズキ」の3種類が知られています。
タイリクスズキは朝鮮半島西岸から中国沿岸にかけて生息し、本来は日本沿岸に生息していなかったとされる魚で、外来生物法により要注意外来生物に指定された経緯を持ちます。(平成27年 要注意外来生物リストは廃止済)
タイリクスズキってどんな魚?
タイリクスズキの特徴は、以下の2点。
- ●体側に黒い斑点がある個体が多い
- ●脊椎の数がスズキと異なることが多い
遺伝的な特徴からも両種は別種と識別されますが、素人目には似た魚という印象を受けますよね。
もし、黒斑が不明瞭なタイリクスズキと僅かに黒斑を持つスズキを並べられたら、僕は自信を持って見分けることができない……と思っていました。
ちなみに、写真のタイリクスズキは台湾で釣り上げたもので、明瞭な黒い斑点が側線の下まで多数確認できます。
有明海に生息するスズキがちょっと変わっているらしい
ある日、タイリクスズキについて文献を探していると、京都大学の学位論文の要旨を見つけたんです。
題目は“有明海産スズキ個体群の起源に関する分子遺伝学的研究”ということで、とても難しそうな内容でしたが、僕の心を動かした2つの文章をご紹介させてください。
『有明海のスズキには、スズキ由来のゲノム要素とタイリクスズキ由来のゲノム要素とが様々な割合で組み替えられて混在していることを示しており、有明海のスズキは両種が遺伝的に混合した交雑由来の個体群であることが明白となった。』
『有明海のスズキは、側所的に分布する2種の分布域の接点に形成されるいわゆる交雑帯個体群ではなく、過去の種間交雑に起源し、現在では親種から独立的に存続している個体群であると考えられる。』
要するに、有明海と八代海に棲むスズキは、スズキとタイリクスズキ両方の特徴を様々な割合(言わば個体差のような形)で持つ魚ということになります。
有明海でスズキを釣ったことはあるんだけど……
10年以上前に有明海に注ぐ川で何尾かスズキを釣ったことはあるのですが、当時の僕は今のような知識も価値観も持っておらず大して写真も撮っていませんでした。
歳を取ると共に蓄積されてきた有明海に棲むスズキへの好奇心を満たすために、この度、九州へシーバス釣行の遠征に出掛けることを決意したんです!
目標は「黒い斑点を持つスズキを釣り上げること!」欲を出すなら、色んな斑点のタイプを釣ってみたい! さぁ九州に向かって出発です!
自宅から1000km先の有明海に注ぐ河川を訪れる
広大な干潟とムツゴロウがお出迎え
自宅のある関東地方から有明海までじつに1150km……こんな長距離ドライブはアメリカやオーストラリア釣行以来です。
早速、川の河口を訪れてみると「いるぞ!いるぞ!有明海のアイドル『ムツゴロウ』!」
彼らもまた中国大陸由来の魚であり、日本国内では有明海と八代海にしか生息しない魚です。
じつは、特徴的な生息域を持つ魚が有明海沿岸域には「ワラスボ」「エツ」「ヤマノカミ」「ヒナモロコ」など、他にもたくさんいて“大陸系遺存種”なんて呼ばれます。
素人的観点ながら「有明海産のスズキもじつはそうなんじゃないの?」って考えながら、スズキが釣れそうなポイント探しにLet’s Go!!
干満差5mを体感
初日は釣り具を持たずに、地図上で気になっていた地点を北は佐賀県から南は熊本県まで足早に見て回ります。
有明海の最大干満差は6mを超えると言われ、干潮ともなると至る所が干上がります。
ポイントやベイトを探していく
干上がったことで分かる川底の地形変化、支流との合流点、水門からの流れ込み、ハクが溜まっている場所、やたらとシーバスアングラーが多い川などなど。
なかには「この駐車場は水没します」という過激な注意喚起の看板があったり……。河川敷での駐車は気を付けようと改めて感じました。
美味しい馬刺しを食べながら明日の実釣エリアを決め、長距離ドライブの疲れを取る為にしっかり体を休めました。
実釣初日は大バラシで意気消沈……
上げ潮狙いで大場所に入ってみた
下見の際に複数の釣り人、ベイトになりそうな魚として30cm前後のボラを確認できた川幅の広い大場所に上げ潮で入ってみました。
タイリクスズキの生態を勝手に想像しながら、淡水がしっかり流れている川、時合は上げ潮、さらにスズキを狙う上で定番の地形変化という要素を僕なりに組み立て、ベイトと釣り人という流動的な要素がプラスされているこのポイントを選んでみた訳ですが、はたして吉と出るでしょうか。
バイブレーションの大遠投でヒットしたのは
釣りを開始してすぐに気が付いたのは水位の上昇の早さ。東京湾とは比較にならない速度でみるみる内に足場が浸かっていきます。
立ち位置を後退させながら釣りをしていると、早速バイブレーションに生命反応! 全然引かないので、「小ボラかな?」と思って釣り上げてみるとフナでした(笑)
フナが多い川だったのか、この釣行中で2匹も掛かってきました。あとウナギも……。
自己記録確実だったシーバスをエラ洗いでバラしてしまう
気を取り直して大遠投をくりかえしていると、フナの次にヒットしたのは超大物でした!
重量感溢れる引きの中に振幅の長い首振りが混じります。「これはシーバスだ!」すぐに確信し、ヒラロッドを煽って寄せに掛かります。
遠くで掛けたことが幸いしたのか一度もジャンプすることなく、時折ドラグを出して走りますが主導権は僕にあります。
PEは1.5号、リーダーはフロロ22lb、そして信頼のヒラロッド。こんな魚がヒットするかもと思って大がかりなタックルにして良かったぜ! と思った矢先……。
手前、10mで「えッ?アカメ?!」とっさにそう思う程の超豪快なエラ洗い! 一撃目はなんとかいなしたものの、間髪入れずに連続で跳ねられ、ルアーが宙を舞う絵に描いたようなフックアウト。
小さく見積もっても90cmいや、メーターオーバーだったかもしれん。アカメなんていない場所なので、スズキに違いないんだけど……黒い斑点までは確認できませんでした。
下げ潮が効いた状況で念願のアリアケスズキをキャッチ
博多ラーメンを食べて精神統一
釣行記にラーメンの写真が出てくるという事は……はい、釣れてない証でございます。
あんなに沖で掛かって、3回も強めのドラグを絞り出す突っ込みをしといて、最後にあんな元気よくエラ洗いする? それも2回も連続で。どんだけ持久力あるんだよ有明海の巨大スズキ。
ジワジワと襲ってくる喪失感に押し潰れそうになりながらも、スズキがヒットしてくるポイントをこの広大な有明海から見つけられて良かったと自分に言い聞かせます。
まだ時間はあるぞ! 下げ潮は下げ潮らしい作戦を考えているからね!
有明海時合短すぎやしませんか?
下げ潮では、川幅の狭い小規模河川のストラクチャー絡みや小さな支流との合流点、そして水門といった目に見える小場所をテンポよく打っていくランガン戦術を展開していきます。
途中、干上がっていくシャローから零れるハクの群れにシーバスっぽい魚がボイルする場面に遭遇するも、僕の技術では口を使わせられず。試行錯誤しようにもあッという間に潮が引き、ボイルも無くなりました(涙)
結局、ランガン途中に対岸で釣りをしていたアングラーがシーバスをキャッチしている姿を目撃できただけで、実釣初日は1バラシで終了となりました。
黒斑を持つスズキに嬉しさ爆発
実釣2日目の早朝。釣果を目撃した時と同じ潮位のタイミングだったので、シーバスが釣れていた場所に僕も入ってみます。
すると、近くで釣りをされていた地元アングラーの方にご丁寧にも魚の付き場を教えていただくことができました。
アドバイス頂いた通りの場所ですぐにヒット! 下げ潮の流れの中から強引に引っ張りだすと念願のスズキです! やったぁー!
体側を見ると台湾で釣ったタイリクスズキよりも控えめですが、黒い斑点がいくつも確認できます。
ご厚意に甘え、写真を撮っていただきました。嬉しすぎて笑みが溢れておりますね(笑)
シャッターを押してくれた地元の方へ。ありがとうございました!
現場で感じた事を組み合わせて納得のアリアケスズキをキャッチ
上げ潮で食ってきたあのデカいシーバスが忘れられん
想像と理想通りの有明海産スズキが釣れたことで目標を達成した僕は、スズキ狙いを終了し、九州ならではの生き物達との再会を果たすために別場所へ。
ところが、普段サイズにこだわることはあまり無いのですが、上げ潮で食ってきたあの超デカいスズキが忘れられず「もう少し色んな黒斑のタイプも見てみたいし」と自分に言い訳をしながら最終的にはスズキ釣りに戻ってきちゃいました。
黒い斑点がお腹にあるスズキをGet!
狙いは上げ潮。
バラしたポイントからほど近い場所で、13cmのミノーを遠投しグリグリ巻いていると引っ手繰るようなバイトが来ました!
あの時のような強烈な重みは無いものの、貴重なバイトなので慎重にランディング! すかさず、体側を確認すると……。
なんと側線より遥かした、お腹にも僅かですが黒い斑点があるスズキです。これは面白いぞ! どこか、イワナの世界に通ずる世界観に勝手に浸りはじめます(笑)
まるでタイリクスズキのような黒点の多い個体も
その後もポイントを変えて僕なりに頑張りましたが、短い時合で連続ヒットしたシーバスのサイズはどれも60cm前後の粒ぞろい。
特大サイズのヒットが再び訪れることはありませんでした。やっぱり、チャンスはその時にモノにしなきゃ……ですね。
アリアケスズキのヒットルアーをご紹介
ハクパターンでバイトまで持ち込めなかったり、釣れない時間帯もたくさんあったので、これが正解という訳ではないと思いますが、最後に今回の釣行で活躍したルアーをご紹介します!
鉄板バイブ
実釣初日に生命反応の確認や水深の把握の為、多投したのはメジャークラフトのジグパラブレード27gです。
初めてのフィールドでは、水深の変化を把握しながら広範囲に探れるバイブレーションは欠かせませんね!
ジグヘッド×ワーム
下げ潮で釣れた最初のイッピキは、パワーシャッド5inと静ヘッド14gの組み合わせでした。
シーバス釣りの時にお守り替わりとして持ち歩いているコンビが活躍してくれました!
ミノー
上げ潮の際に釣果をあげてくれたのは、imaの魚道130MD。
個人的に魚道シリーズとの相性が良く、アカメやビワコオオナマズといったメモリアルフィッシュに出会わせてくれた信頼のシリーズです。
アリアケスズキを求めた遠征釣行を振り返ってみて
当初目標に描いていた有明海に生息するスズキについて、色んな斑点のパターンを見ることができてとっても大満足の遠征でした!
なかには、まるでタイリクスズキのような明快な黒斑を持つ個体ともいくつか出会うことができ、個性豊かな有明海産スズキを自分の目で感じることができました。
いつの日か、メバルの例のように新種あるいは新亜種として記載される日がくるかもなぁ……その時は、『アリアケスズキ』って名前が良いんじゃないかな。なんて考えながら九州の地を後にしました。