西湖でクニマスが釣れる確率とは?!釣り人もクニマスを間接的に守っている?

2020/11/27 更新

かつて田沢湖で絶滅したと思われていたクニマス(国鱒)が、山梨県西湖で発見されて大ニュースとなりましたね。今回は研究のためクニマスを釣獲した経験をもつ、山根ブラザーズ兄が“幻の魚”クニマスについてお届けします。


絶滅したはずの魚“クニマス(国鱒)”の由来

クニマスについて

クニマスクニマス(Onchorhynchus kawamuraeとは、サケ目サケ科タイヘイヨウサケ属に分類されるサケ・マスの仲間です。

地殻変動により海から湖に取り残されたベニザケ(ヒメマス)に極めて近い種類のクニマスは、最大で30~40cm程度まで成長します。

クニマスは、秋田県田沢湖だけに生息する“固有種”でしたが、水力発電のために酸性河川(玉川)の水を人為的に田沢湖に引き入れたことが原因で1940年に絶滅が確認されていました。

※クニマスはベニザケ(ヒメマス)の亜種(Onchorhynchus nerka kawamurae)とする見解もあります。

クニマスの変わった繁殖生態

ヒメマス 産卵
皆さんご存知の通り、サケやマスの仲間は産卵期になると生まれた川に遡上し産卵しますが、閉じ込められた湖に遡上できるような川が無い場合、ヒメマスは岸辺の水深15mより浅い場所で秋に産卵します。

日本一深い湖である田沢湖(423m)に閉じ込められたベニザケは、極端に深い環境に合わせて独自の進化をすることで、ヒメマスと少し違った生態を持つクニマスになりました。

田沢湖のクニマスは“冬に水深40~200mの湖底で繁殖する”と記録されています。サケマス類の繁殖生態としては驚くべき深さと言えるでしょう。

クニマスの名前の由来

クニマス 西湖
漢字で書くと「国鱒」となり、あたかも日本国を代表するような名前がついていて記憶に残りやすいですよね。

クニマスの名前の由来には諸説あり、未だにハッキリとした語源は明らかになっていません。

英語では“Local Salmon”もしくは“Black kokanee”と表記されることや田沢湖の固有種であることから、“Local=地元/故郷”という意味の“国”なのかなと個人的に感じます。

ヒメマス クニマス
また、kokaneeとはヒメマスを意味する英単語で直訳すると「黒いヒメマス」となります。クニマスは繁殖期になると“黒い婚姻色”になることが知られています。

日本で唯一ヒメマスが在来分布している北海道のアイヌ語で黒をkunne(クンネ)と読み、それがクニになったのではと考える人もいるようです。

田沢湖のクニマスを、アイヌからやってきた人が黒いヒメマスと表現したのかもしれませんね。

※ヒメマスは阿寒湖およびチミケップ湖以外では移植による外来魚です。

ヒメマスの婚姻色

ヒメマス 婚姻色
ちなみに、ヒメマスは赤い婚姻色を示すことが多々ありますが、クニマスで赤い個体はいないと考えられています。

こうした繁殖生態や婚姻色の差を見比べると亜種というより別種と感じますよね。


クニマスとヒメマスの見分け方

外見では分からないクニマスとヒメマスの違い

ヒメマスとクニマスの見分け方
クニマスとヒメマスの差は、鰓耙(さいは)と呼ばれるエラの一部の数がクニマスが31-43に対しヒメマスは27-40であること。

消化管の一部である幽門垂の数が、クニマスは46-59であるのに対し、ヒメマスは67-94であることから総合的な判断により区別されます。

いずれにしても、生きた銀毛状態のクニマスとヒメマスを外見から区別することはできません。言うまでもなく、クニマスとヒメマスを釣り分けることも困難です。

クニマスは容易にヒメマスと見分けられない魚だからこそ、密かに70年もの長い間、命を繋いでこれたのかもしれません。

ヒメマスになりすまして生き延びたクニマス

クニマス ホルマリン漬け
田沢湖で絶滅してしまったクニマスですが、1930年代に人工孵化の研究用として全国数か所へ発眼卵が移植されていました。

移植先のひとつである山梨県西湖で2010年に再発見され、大きなニュースとなったことを覚えている方も多いでしょう。

昨今、問題視されることが増えてきた生き物の移植(外来生物問題)ですが、クニマスの件では結果として絶滅を回避する形となりました。

物は考えようとはまさにこのことで、“種の保存”という意味で時に移植は必要な手段なのかもしれないと考えさせられる事例です。

西湖でクニマスが釣れる確率について

西湖とヒメマス・クニマスの歴史

西湖 クニマス
今でこそヒメマスとワカサギ釣りで有名な西湖ですが、実は“元来魚が全く生息しない火山性堰止湖”なんです。

そんな西湖に初めてヒメマスが放流されたのは1913年のことで、この時西湖漁業協同組合が購入した発眼卵は十和田湖産でした。

3年後の1916年に約1,000尾の親魚が漁獲され、同組合が人工採卵に成功し、西湖でのヒメマスの漁獲と放流といった流れが確立されヒメマス漁が始まりました。

以降、他湖産のヒメマスや米国産のカワマスやシナノユキマスなど様々な魚が西湖へ放流され、その中に田沢湖産の「クニマス」も含まれていました。

西湖でクニマスが釣れる確率は約1~14%

西湖 クニマス
山梨県水産試験場では、2012年から毎年西湖で釣れたヒメマスとクニマスの割合を調べています。

調査結果によると、クニマスの比率が最も高かったのは2013年の約14%、最も低かったのは2019年の約1%とされています。

これらのデータを見ると、概ね100尾程度のヒメマスを西湖で釣りあげればクニマスが混じっているかもしれません。

僕の勝手な肌感覚では、ヒレやエラ蓋に欠損や再生跡が無く、吻端(口先)がとがっていて、青もしくは黒っぽい色合いの魚は20~30%の確立でクニマスである印象を受けます。(あくまで釣獲調査に参加した際の個人的な感想です)

※西湖では1日あたり1人30尾の釣獲制限があります。違反者には厳しい罰則が科されますので必ず守りましょう。

釣り人もクニマスを間接的に守ってきた

人・自然・時代“偶然のバランス”がクニマスを守った

西湖 漁業協同組合
西湖の住民が漁業協同組合を立ち上げヒメマス漁を始めたこと、時代の変化に合わせて漁から遊漁へ形態を変えながらも継続的にヒメマスを利用し続けていること、何よりクニマスを移植したこと。全て人間の行いです。

ヒメマスとクニマスが交雑することは、本栖湖の例や実験結果から明らかとなっていますが、西湖ではヒメマスとクニマスが約80年もの間交雑していません。

これは、特殊なクニマスの繁殖条件を満たす田沢湖に似た環境(深い水深・湧水・砂礫底)が西湖にもあったためと考えられています。

また、希少生物の保護に対する考え方や方策は時代によって変化します。クニマスが見つかったのが2010年だったことも良かったのではないかと僕は感じます。

このように、クニマスは様々な偶然が見事に調和した奇跡によって守られた魚と言えるでしょう。

何も変えない事。それがクニマスを守る第一歩


とっても貴重な生き物なんだから、「直ちに西湖での釣りを中止させ、交雑の危険もあるのだからヒメマス放流もやめるべき」とお考えになる方もいるかもしれません。

しかし、西湖が取っている方法は、何も変えないことなんです。でも、きっとこれが大正解。

西湖の湖畔には、ヒメマスを利用して生計を立てる住民がいます。大雑把に言えば、彼らが放流したヒメマスが数のバリアとなってクニマスの過剰な漁獲を防いでいます。

そして、ヒメマスが生息できるような綺麗な水質の西湖を保つために湖畔の町を無理に開発しなかったことでクニマスも一緒に生き残ったのです。

西湖の住民がヒメマスを放流し、僕ら釣り人がヒメマス釣りを楽しんでいる限り、このサイクルは変わりません。

ただし、西湖において“クニマスもヒメマスも外来生物”であり、田沢湖で”クニマスを絶滅させたのは人間”であることを決して忘れてはいけません。

研究者はクニマスを知ることから始めています

クニマス
クニマスの発見から10年経ち、研究成果は既にたくさん出てきています。

例えば、クニマスの産卵場所の特定と保護だったり、西湖においても産卵場所に湧水と砂礫が深く関わっていること。喫緊の脅威として低水温でも活動する外来種・ヨーロッパウナギによる卵や仔魚の食害の発生などなど。

今後は、これらの研究成果をもとに、ヒメマスや住民、そして釣り人と共存する形で的確なクニマスの保護がなされていくことでしょう。

そして、いつの日にかクニマスにとっての故郷(国)である田沢湖に戻る日が来るかもしれません。

釣り人にできること


魚釣りとは、生物や自然に対して大なり小なり圧力をかける行為です。

ですが、僕たち釣り人がいるからこそ成り立っているバランスも必ずあると僕は信じています。

西湖のクニマスとヒメマスの為にも、今まで通りちょくちょく西湖にヒメマス釣りに出かけようと思っています。

静かで落ち着いた西湖でヒメマスを釣りながらクニマスに思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

▼西湖のヒメマス釣りについてはコチラの記事


撮影・文:山根 央之

筆者紹介


山根央之(やまねひろゆき)
初めての1匹との出会いに最も価値を置き、世界中何処へでも行く怪魚ハンター山根ブラザーズの兄。
餌・ルアー問わず、もはや釣りに限らず。ガサガサや漁業者と協力してまでも、まだ見ぬ生き物を追い求め、日々水辺に立っている。
テレビ東京・緊急SOS池の水全部抜くやNHK・ダーウィンが来た、TBS・VSリアルガチ危険生物などに出演したり、魚類生態調査に参加したりと幅広く活躍する。

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山根央之

初めての一匹に最も価値を置くプロアングラー。 20ケ国以上を渡航し釣獲した魚は数百種にのぼる。

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