特定外来生物に指定されている“ウチダザリガニ”について
アメリカから食用輸入されたウチダザリガニ
ウチダザリガニは、アメリカ北西部およびカナダ南西部に生息するザリガニの仲間です。
原産地から分かるように冷たい環境を好み、0℃近くでも生存する一方で高水温には比較的弱く、30℃では一週間程度しか生きられないと考えられています。
ウチダザリガニは、1926年当時の農林省水産局が食用目的として北海道摩周湖へ移入しました。
ウチダザリガニの寿命と最大サイズ
ウチダザリガニの寿命はおおよそ10年と言われています。
体長は最大で15cmにまで成長します。手のひらに収まる程度の大きさですね!
とはいえ、ハサミが大きいザリガニですので迫力満点です。
ちなみに、ザリガニやエビの計測は、ハサミを含めない体の大きさで表すことが一般的なんです。
身近なアメリカザリガニとウチダザリガニの違いは?
皆さんお馴染みのザリガニ(アメリカザリガニ)も北米から持ち込まれた外来生物です。
アメリカザリガニとウチダザリガニを簡単に見分けるためには、“ハサミ”に注目しましょう。
■ウチダザリガニの見分け方
- ・小さなトゲがある=アメリカザリガニ
- ・ハサミの付け根に白い班がある=ウチダザリガニ
他にも、体色や胴体の幅にも違いがあり、見分けるのは難しくありません。
ハサミの白い点がウチダザリガニの特徴であり名前の由来
アメリカやカナダでウチダザリガニは、シグナルクレーフィッシュ(Signal crayfish)と呼ばれ、「信号(signal)を発するザリガニ(crayfish)」と直訳できます。
白い点が取り分け目立ち、ハサミを振り上げる動作が遠くの人に合図しているように見えたんでしょうね。
ちなみに、和名であるウチダザリガニの由来は、内田亨氏のザリガニの標本が種同定に役立ったためとされています。
ウチダザリガニが“美味しい”のは本当です
食用で導入されたこともあり、実際にウチダザリガニはとても美味しい食材です。
記事後半では、パスタやリゾットにピッタリのアメリケーヌソースのレシピをご紹介いたしますね!
とはいえ、なかなかスーパーや市場で買えるような食材ではありませんので、食べてみたければ捕まえに行くしかありません。
それでは、ウチダザリガニが生息する地域と取り方の説明に移りましょう!
ウチダザリガニの獲れる場所は?生きたまま移動させたら罰金ですよ!
ウチダザリガニと言えば福島県と北海道
関東東北地方に住んでいる方は、福島県の裏磐梯がもっとも費用対効果よくウチダザリガニを捕獲できる場所になろうかと思います。
夏になると“釣って食べるウチダザリガニ釣り大会”も開催されることもあるようです。
北海道にお住まいの方は、釧路川や屈斜路湖が良いでしょう。
滋賀県にも古くからウチダザリガニ(タンカイザリガニ)が生息しています
滋賀県高島市に位置する淡海湖(処女湖)にも1926年にウチダザリガニが放流され、現在でも付近の沢で捕まえることができます。
この地域では、ウチダザリガニをタンカイザリガニと呼び環境のシンボルとして保護してきましたが、皮肉にも外来生物であったという歴史があります。
有名どころ以外にも増えているウチダザリガニ
現在では、栃木、千葉、長野、岐阜県でもウチダザリガニの生息が確認されており、徐々に生息域が拡大している傾向にあります。
ウチダザリガニは、マリモをはじめとする水生植物への食害や他の生物との競争など生態系へ悪影響を与えていることが明らかとなっており、2005年より特定外来生物に指定されています。
ウチダザリガニを生きたまま移動させると犯罪です!
ウチダザリガニは外来生物法により生きたままの移動と飼育が禁止されています。
釣った場所でのリリースはOKですが、移送放流した場合は犯罪となり、個人の場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人の場合は1億円以下の罰金となります。
暴行罪や脅迫罪で2年以下の懲役もしくは30万円の罰金ですから、外来生物法違反がいかに重罪であるか分かりますね。
食べるために持ち帰る場合でも、必ず絶命させましょう
アメリカザリガニを美味しく食べる場合、泥抜きをするのが一般的なのですが、ウチダザリガニは飼育や移動ができませんので、その場で絶命させる必要があります。
ザリガニは水が無くても数時間は生きていますから、捕まえたらすぐに茹でるか、活締めにしましょう。
簡単な締め方は、のちほどご紹介いたしますね!
ウチダザリガニ捕獲のコツ“見つけ方・釣り方・持ち帰り方”
湖よりも沢のほうが捕まえやすい
裏磐梯の場合は、檜原湖や小野川湖などの大きな湖のほかにも大小様々な沼があります。
おおむねどこにもウチダザリガニは生息していますが、水深の浅い沢や水路がウチダザリガニを捕まえるにはオススメです。
日中にざっくり下見をしよう
実は、ウチダザリガニは夜行性です。昼間にも捕まえることはできますが、夜の10分の1くらいの数と思っても良いでしょう。
明るい時間は、沢や水路をめぐり、ウチダザリガニが隠れやすそうな石や落ち葉が堆積した場所、脱皮の抜け殻や死骸が落ちてるポイントを見つけておきましょう。
裏磐梯の沢や水路で10か所も目星をつけておけば、捕獲できるかと思います。
ウチダザリガニ釣りに必要な道具
持っていく道具で忘れちゃいけないのは、魚とり用の網とヘッドライトです!
釣り具は木の棒とタコ糸でも荷造り用のヒモでもOKです。
釣り針は要りません。餌のスルメに直接糸を結んじゃいましょう。
ウチダザリガニ釣りは夜が本番です!
昼間には一匹も見えなかったウチダザリガニですが、夜になると一斉に表に出て餌を食べ始めます。
ヘッドライトで照らしてあげると、たくさん見つけることができますよ!
もし居なければ、下見したスポットを次々に移動しましょう。
網で掬っちゃえば早いのですが……やっぱ釣りたいですよね(笑)
僕はいつも問答無用で食べたい分だけ網で掬いあげちゃうんですが、ザリガニ釣りのハラハラ感も楽しいものです。
見つけたウチダザリガニの爪のあたりにスルメを落としてあげましょう。
すぐに抱えこむはずです。あとは、ザリガニが警戒してスルメを離さないようにゆっくり引き上げましょう。
水面まで上がったら網で掬いあげて一丁上がりです!
ウチダザリガニの締め方と下処理
アイスピックなどで、ウチダザリガニの口から脳天の急所を突き絶命させます。
10分ほど経っても動いている場合は、急所を外している可能性があるのでもう一度角度を変えて刺しましょう。
つぎに、ワタの処理を行います。尾節の真ん中をパキっと折ります。
慎重に腸(ワタ)ごと引き抜きましょう。嘘みたいに綺麗に取れます。
ウチダザリガニは死ぬと力が抜けてダランとします。もちろん脚やハサミは動きません。
完全に絶命したのを確認してから、氷でしっかり冷やして持ち帰りましょう。
ザリガニは大変傷みやすい食材ですので、その日のうちに食べるようにしてくださいね!
味にこだわるなら現場調理がオススメ
鮮度を重視される場合は、カセットコンロと鍋を持参しその場で茹でちゃうのが一番です。
その場で食べるも良し、持ち帰って調理するも良しです!
塩茹でこそウチダザリガニの潜在能力が良く分かる!何より簡単だ!
水800mL:酒200mL:塩大さじ2の割合で、沸騰してからウチダザリガニを投入し10分から15分程茹でましょう。
泥抜きができていませんので、ミソを食べる際は黒い部分を外してからお召し上がりください!
身は甘味があり、ミソはコクがあってはっきり言って旨いです!
爪にも身があるのでお忘れなく。こちらはカニのような風味が楽しめますよ。
ウチダザリガニで作るアメリケーヌソースが美味すぎる!
アメリケーヌソースって?
アメリケーヌソースは、オマールエビなどの甲殻類から出汁を取ったフランス料理を代表するソースです。
■材料はこちら
- ・ウチダザリガニ:10尾
- ・オリーブオイル:大さじ3
- ・みじん切りニンニク:3かけ
- ・ブランデー:大さじ4(白ワイン代用可)
- ・みじん切り玉ねぎ:1個
- ・みじん切りセロリ:2本
- ・トマト缶:1缶
- ・ローリエ:2枚
- ・塩こしょう:適量
・生クリーム or チーズ:お好みで
ウチダザリガニ料理の下処理
持ち帰ったウチダザリガニを洗い殻につく汚れを落としましょう。
メラニンスポンジを使うと綺麗になります。
頭を外し、泥臭い胃袋を取り除きましょう。
口元にある黒っぽい部分が胃です。ピンセットやお箸でつぶさないように取りましょう。
余談になりますが……この白い骨のようなもの、胃石と呼ばれるカルシウムの塊です。
淡水に棲むザリガニの仲間は、脱皮直後に多量のカルシウムを必要とするため、胃にカルシウムをため込んでいるという訳ですね!
ミソからとても濃厚な出汁がでますので、消化物としっかり分けてキープしましょう!
さて、ワタは現場で取っているので、胃袋が取れれば下処理は終了です。
身も食べたい方は、殻と身を分けておきましょう。
熱したオリーブオイルにニンニクを入れて弱火で香りが立つまで炒めます。
ウチダザリガニを投入し、火が通るまで中火で加熱します。
殻の色が赤くなったら、ブランデー(白ワインでも可)を加え強火でアルコールを飛ばします。
玉ねぎ・セロリ・カットトマトを投入し、塩コショウを少々振りかけましょう。
蓋をしてコトコトと15分煮詰め、しっかり野菜から水分を出しましょう。
野菜がしんなりしてきたら蓋を取り水分を飛ばして加熱調理は終了です。
シノワ(無ければザルでも可)に、流し込み綿棒で「ギュウッ」とザリガニや野菜を押しつぶすようにしてエキスを絞ります。
最後に塩コショウで味を調えたらウチダザリガニのアメリケーヌソースの完成です!
「頑張って作ってもこんだけ……?」ってなりますが、苦労して作った濃厚エキスはめちゃ旨です!
生クリームをアメリケーヌソースに加えてパスタに絡めても良し!
さらにひと手間加えてチーズリゾットに。これも絶品でした!
身から出た甘味とミソ由来の濃厚な風味は、エビとカニをミックスして作ったアメリケーヌソースと言っても分からない程の完成度ですよ!
探して、採って、食べる とても楽しいアウトドアだと思います!
ウチダザリガニは確かに外来生物でありますが、アウトドアの対象として充分楽しませてくれる存在だと思っています。
大規模な駆除は専門家にお任せするとして、皆さんには、実際に自然に接することで在来生物の価値や外来生物の有効利用なんかに興味を抱いていただければ嬉しい限りです。
筆者紹介
山根 kimi ヒロユキ
初めての1匹を求めて世界中何処へでも行く怪魚ハンター山根ブラザーズ(兄)。
餌・ルアー問わず、もはや釣りに限らず。ガサガサや漁業者と協力してまでも、まだ見ぬ生き物を追い求め、日々水辺に立っている。