日本に生息するスズキについて
現在、日本には3種類のスズキが生息している
釣り人だけでなく、美味しい魚として多くの日本人に親しまれている魚“スズキ”。じつは1種類だけではありません。
現在日本に生息するスズキは、スズキ・ヒラスズキ・タイリクスズキの3種類とされています。
▼日本に生息するスズキ3種についてはコチラ
スズキ(マルスズキ)
一般的に「スズキ」や「シーバス」と呼ばれるこの魚は、しばしば他のスズキの仲間と区別するためにマルスズキなんて呼ばれることがあります。
スズキは北海道から九州にかけて広く分布し、中国沿海州から朝鮮半島東部および南部にかけて生息しています。
ヒラスズキ
ヒラスズキは、茨城県から鹿児島県にかけての太平洋側および能登半島から兵庫県を東端、九州西部を西端とした日本海に分布し、国外では朝鮮半島南部に生息しています。
スズキやタイリクスズキと比べて体高が高く、目も大きいため簡単に見分けることができます。
タイリクスズキ(ホシスズキ)
この写真が今回の記事の主人公であるタイリクスズキ(台湾産)。
名前の通り、日本ではなくおもに中国大陸に生息するスズキの仲間であり、スズキとタイリクスズキは見慣れた人でもさえも見分けられないほどよく似た魚です。
科学的には遺伝的な解析の他に、“有孔側線鱗数、鰓把数、脊椎骨の数の3形質を組み合わせることで、個体レベルでスズキとタイリクスズキを見分けることができる”とされ、スズキと別種とされたのは比較的最近の出来事です。
またタイリクスズキの最大サイズは130cm前後と言われ、スズキよりも早く大きく成長するという理由で1990年頃から日本においても養殖魚として利用されるようになったという背景があります。
タイリクスズキについて
タイリクスズキの分布域と外来種としてのリスク
タイリクスズキはもともと日本に生息していなかった魚とされ、“日本沿岸域に定着する可能性、在来スズキとの競合、在来生物等の捕食の影響などが危惧されるが実態は充分に把握されていない”という理由から、要注意外来生物リストに選定されていた経緯を持つ魚です。
タイリクスズキの本来の生息域は、黄海、渤海沿岸、東シナ海、北部南シナ海の中国大陸および朝鮮半島西岸の沿岸域とされています。
タイリクスズキが日本に生息するようになった経緯
タイリクスズキが日本各地で生息するようになった理由として、原産地から日本に輸入された養殖魚としてのタイリクスズキの散逸が指摘されています。
野外での初記録は1992年愛媛県宇和島市とされ、現在までに福島県から四国にかけての太平洋側、瀬戸内海、秋田県や福井県といった一部日本海側などでタイリクスズキの生息が確認されています。
国内でタイリクスズキの生息が確認された年代と場所
釣り人から発信される情報として、今から約20年前からタイリクスズキと思われるスズキの釣果が釣り人の間で注目されるようになり、タイリクスズキとされる釣果は現在でも日本各地で散見されています。
タイリクスズキは既に日本沿岸に定着してしまっていると考えられており、現在ではスズキとの交雑を心配する声も上がっています。
タイリクスズキとマルスズキの違いと見分け方
見分け方①|黒斑の有無で判断できる?
多くのアングラーがスズキとタイリクスズキを見分ける為に着目している特徴は、体表に現れる黒斑の有無や量、そして位置です。
一般的に黒斑で見分ける場合、側線よりも下に黒斑を有するものがタイリクスズキ、黒斑を持たないものがスズキとされています。
しかしながら、明確な黒斑を持たないタイリクスズキや黒斑を持つスズキなど、黒斑のバリエーションは個体ごとに様々であり、黒斑だけで両種を確実に見分けることはできません。
見分け方②|タイリクスズキの方が小顔に見える?
タイリクスズキの方が、スズキに比べて小顔に見えると表現するアングラーも多いです。
確かに、タイリクスズキを釣り上げてみるとスズキに比べてタイリクスズキは吻が短く、吻端が丸みを帯びているような印象を受けます。
僕も台湾や中国でタイリクスズキを見た時に小顔であることを実感しましたが、これはあくまでも主観的な見分け方であり、顔の雰囲気だけで種類を判別することはできません。
結論!素人が外見だけで確実に見分けることは難しい
結論をお伝えすると、スズキとタイリクスズキを見た目だけで明確に見分けることはできないと思って良いでしょう。
先ほどご紹介した通り、両種は『有孔側線鱗数、鰓把数、脊椎骨』の3つの形質を組み合わせるか、遺伝的な解析を行うことで判別する必要があります。
タイリクスズキとマルスズキの交雑種やアリアケスズキの存在について
有明海と八代海に生息するスズキについて
有明海と八代海には、スズキとタイリクスズキ両方の特徴を様々な割合(言わば個体差のような形)で持つ個体群がいることが明らかになっています。
有明・八代海に生息するスズキは、大きな時間スケールで生じた種間交雑に起因し、それぞれの親種とは独立した個体群であるとされているのです。
ちなみに、スズキとタイリクスズキは交雑できることが知られています。
タイリクスズキとスズキの中間的な魚
僕は以前から興味を持っていたので、実際に有明海へスズキとタイリクスズキ双方の特徴を持つ、いわゆる有明海産スズキを釣りに出掛けたことがあります。
側線下まで明瞭に黒斑を持つ個体や、小顔に見える個体だけでなくスズキらしい個体も。様々なタイプのスズキを釣ることができ、有明海産スズキの個体差を実感しました。
▼有明海産スズキを狙った釣行記はコチラ!
新しく正しい科学的知見が明示されることを待ちたい
日本でタイリクスズキが釣れることは好ましくないのか?
タイリクスズキをご紹介する記事を書いておきながら、こんな乱暴なまとめ方をするのは大変恐縮なのですが……そもそも、タイリクスズキの生態に関する研究は原産地でも詳しくなされていません。
それどころか一歩踏み込んで想像すると、韓国から海南島に至るまでの長い区間に生息するタイリクスズキが1種類であるとも限りません。
また、現状では自然界でスズキとタイリクスズキの交雑はほとんど起きていないという見解が一般的なようですが、今後これを覆すような知見が出てくる可能性も否めない……。
大きく育つタイリクスズキが日本でも釣れるということは、釣り人にとって嬉しい事なのかもしれませんね。
一方で、日本産スズキの将来にとっては、好ましくない状況かもしれないと心の片隅で理解しながらタイリクスズキと向き合っていく必要があるかもしれません。
参考文献;海面養殖種苗導入のリスク管理 – タイリクスズキ Nippon Suisan Gakkaishi 73(6), 1125-1128(2007)
参考文献:有明海産スズキ個体群の起源に関する分子遺伝学的研究 京都大学農学研究科博士論文 2000:96頁