干物を美味しく作る裏技5選

魚を美味しく長持ちさせる知恵として、昔から親しまれてきた干物。
じつは、ほんのひと手間で味や風味が驚くほど変わります。

山下
今回は、元料理人の筆者が実践している“美味しく作る裏技5選”を紹介します!
塩分濃度は脂で判断

同じ塩分濃度の塩水、同じ魚で干物を作っているのに、毎回味が違うと感じている人も多いはず。
この問題、じつは魚の状態に塩分濃度が合っていないことが原因かもしれません。
塩水の塩分濃度を決めるのに、もっとも重要なのはどれだけ脂が乗っているか。
魚の脂は、塩分を通しにくい性質があり、脂が多い魚ほど塩が中まで入りにくく、薄味になりがち。
逆に脂の少ない魚に濃い塩水を使うと、塩辛く仕上がってしまいます。

そのため、脂が乗っている魚は8〜10%、脂が少ない魚は5〜6%程度を目安に調整するのがコツ。
例えば、干物で定番のアジ。脂が乗る秋は8%の塩水に漬けますが、越冬後に脂が少なくなる春は5%の塩水で十分。

淡白な白身で一年を通して脂が少ないシロギスであれば、5%ほどの塩水を使用します。
脂の量に合わせて塩加減を変えるだけで、味の安定感が大きく変わってきます。

山下
魚には個体差があるため、季節や身の状態、内臓脂肪の量を見て塩分濃度を調整しましょう。
内臓脂肪はあえてそのまま

臭みがない魚料理を堪能するためには、丁寧に汚れを落としておくことが基本。
ただし、干物を作るときには、腹の脂のある部分を取り除くと、味が大きく落ちてしまうのを知っていましたか?
それは、内臓脂肪。

じつはこれ、焼いたときに溶け出し、旨みへと変わるんです。
内臓脂肪が多い身近な魚はアジ。

アジの内臓脂肪は、上記の写真のようについているので、これを付けた状態で塩水に漬けるようにしましょう。
冷蔵庫で干す

干物づくりの基本は、やはり天日干しです。
太陽の光と風で乾かすことで、魚の表面が殺菌され旨みも凝縮。昔ながらの自然の力を活かした理にかなった方法といえるでしょう。
しかし、気温と湿度が高い昨今の気候では、うまく乾燥せず、腐敗させてしまった苦い経験をした人も多いはず。
そんな悩みを解消してくれるのが冷蔵庫で干す方法です。

山下
メーカーや型式にもよりますが、冷蔵庫内の湿度はおよそ10〜20%。一方、空気が乾燥しがちな1〜2月でも、外の湿度は40〜50%ほどあります。
つまり、冷蔵庫内は外気よりも湿度が低く、低温で腐敗を防ぎながら乾燥できる理想的な環境なのです。

冷蔵庫で作る場合は、1日半〜2日ほど干すのがベスト。
一夜干しのようにしっとり感を残したいなら、約1日を目安にしましょう。

干す際には、網を張ったバットに乗せておくときれいな仕上がりに。
身の上はもちろん、下からも空気が通るためムラなく乾燥できます。
また、バットを使えば滴った水分や脂をしっかり受け止められるので、冷蔵庫を汚す心配もありません。
醤油スプレーを振る

焼き上げたときに香ばしさを加えたい場合は、醤油スプレーを軽く振りかけるのがおすすめです。
振りかけるタイミングは、乾かし始めてから数時間経ち、表面の水気がなくなったくらい。
乾いたら再度スプレーを振りかけ、それを3回ほど繰り返します。

すると、このように醤油の色が乗り……

焼くとこんがりと醤油のいい香りが立ち込めます。

また、醤油の種類を変えて作るのも楽しい工夫。
甘めの味が好きならたまり醤油、キリッとしたすっきりな味が好きなら濃口醤油を選ぶといいでしょう。
焼く30分前に常温に戻す

せっかく干物がうまくできても、焼き方がイマイチだと台無しです。
なかでももっとも気をつけたいのが、焼く前に常温に戻しておくこと。
冷えたまま焼いてしまうと、外側ばかり早く火が通り、表面は焦げているのに中は半生という失敗につながります。
とくに厚みのある魚や脂の多い魚ほど、その差が出やすいもの。

山下
焼く30分ほど前に冷蔵庫から出して、常温に戻しておくことで、全体にムラなく火が入り、ふっくらジューシーに仕上がります。
一手間かけるだけで、干物本来の旨みをしっかり味わえるでしょう。

また、焼き加減は好みにもよりますが、両面にうっすらと焦げ目がつくくらいが理想。
焼きすぎると水分が飛んでしまい、パサパサとした残念な食感になってしまいます。
脂が多い魚であれば溶け出した脂で表面がカリッとし、それはそれで美味しいですが、基本的には焼きすぎは厳禁です。
手作り干物で味わう、最高の晩酌

塩加減や干し時間など、少しの工夫で味が大きく変わるのが干物づくりの面白さ。
自分で手をかけた干物を焼き上げると、その香ばしい香りだけでお酒が進みます。

また、干物を食べて残った骨や皮から出汁を取って、味噌汁や茶漬けの汁にするのもおすすめです。
ぜひ、自作の干物でゆったり晩酌の時間を楽しんでみてください!
撮影:山下洋太





